父親令嬢 ~やめて! 人を勝手に父親にしないで! 娘も、母親も要らないから!!~
帝国城摂政
父親が欲しい王女と、父親嫌いの少女
第1話 プロローグ
「----お願いします、男爵令嬢【カリカ・パパヤ】さま!」
鮮やかな桃色の花びらが舞う、春。
大きな木の下に、1人の可憐な少女が木を背にして立っていた。
切り揃えられた藍色の髪。
芯の強そうなキリッとした瞳。
しわ一つない制服からは、真面目で几帳面な性格だと分かる。
委員長タイプと言えるような、その正統派美少女は私の方をジッと見つめていた。
その表情は真剣そのもので、まるで愛の告白でもするのかってくらい、真剣な面持ちである。
「あなたに、お願いがあります」
ゴクリと、自然に私は唾を飲み込んでいた。
そうするだけの凄みが、彼女から出ていたから。
短いはずの沈黙が、長い時間に感じる。
そうして、彼女は私に、こうお願いしたのであった。
「どうか私達の、"パパ"になってくださいませ!!」
草木が芽生える、春。
女であるはずの私は、目の前の美少女からの「
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日、私の心はとても晴れやかな気持ちでいっぱいであった。
私の名前は、カリカ・パパヤ。
しがない男爵令嬢。
いま私は、暮らしていた男爵領を離れ、学園に通うために王都に来ていた。
----王立エクラ女学院。
王都でも有名な女学院であり、貴族令嬢のほとんどがこの学院に通うとも言われるほどの名門校。
その貴族令嬢の中には、領地内にて男の子達と野原を駆けまわって泥だらけになっていたせいで、幼い頃は男と間違われていた私、カリカ・パパヤの姿もありました。
勿論、そんな令嬢は私だけだと思うんだけど。
この学院には私のような貴族令嬢(?)みたいな、なんちゃって貴族令嬢なんかではない、本物の貴族令嬢達。
----いや、私も本物なんだけど。
そんな多くの貴族令嬢が通っているのですが、多くの貴族令嬢と会える事以上に私がこの学院を楽しみにしているのには、ある理由があった。
それが"姉妹制度"と呼ばれる、この学院独自の制度である。
上級生をお姉さま、下級生を妹として、互いに支え合う尊すぎる制度。
卒業生の中には、永遠の姉妹として契りを交わしたと伝えられている。
「(なんて、素晴らしい制度なの!!)」
幼い頃、4つ年上の兄が『王都で見た不思議なモノ』の1つとして語ってくれて以来、私はこの姉妹制度の虜となっていた。
「あぁ、麗しく美しいお姉様! 可愛くて愛らしい妹ちゃん! 想像するだけで楽しみでしかない!」
ルンルン気分で、私は学院の門をくぐる。
すると、嫌な視線が私に向けられていることに気付いた。
「(あぁ、いつものか)」
この視線は、
----奇異。
----軽蔑。
----異常。
はっきり言って、私は女として見られるよりも、そういったバケモノでも見るかのような視線を向けられる方が多い。
その視線を向けられるのが嫌で、男の子達と遊んでいたんですけど。
まぁ、その理由としては----女にしては高すぎる身長だとか、ちょっぴり胸が小さい(兄からは『まな板』とか言われたからぶん殴っといた)とかでもなく、
「やっぱ、この髪かな?」
と、私は自分の髪、正確にはこの国では異端とされている"黒髪"を手で触れる。
途端に、周囲の視線がさらにビクビクっとなって、私は「やはり」と頷いていた。
この国では、何故だか知らないけれども、黒髪は"異端"だとか、"禁忌"とされている。
理由は全く分かんないんだけど、数百年前に『ヒノモト』という東国から来た黒髪の者達によって蹂躙されたとかなんとか。
私の髪はその祖先の先祖返りで、黒髪になったんだって。
父や母も、家族の皆気にしてないし、私も普段はそういうもんかと思っているんだけれども、やっぱりこうビビられると凹むって言うか、落ち込むって言うか……。
ダメダメっ、弱気になるな、私!
きっと、私の家族のように、私のこの髪を含めて、好きになってくれるお姉様なり、妹ちゃんがきっと居るはず!
「あの、すいません」
ほら、来た!
呼び止められた私が振り返ると、そこに居たのは可憐な少女である。
「----お願いします、男爵令嬢【カリカ・パパヤ】さま!」
几帳面さを絵に描いたようなその少女は、私に「父親」になってと、そう誘うのであった。
(※)ヒノモト
数百年前の昔、この王都を襲った魔王の軍勢を倒すために召喚された勇者達の故郷。遥か東の国だと伝えられているが、詳しい場所は誰も知らないし、行った事もないのだとか
魔王を倒したが、それと同時に持っていた強大な能力によって王都に多大な被害をもたらしたため、ヒノモトから来た人達の特徴たる黒髪は、この国では禁忌とされている
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