第20話 エピローグ

 あの誘拐犯との戦いの後、私----カリカ・パパヤ男爵令嬢の部屋に、プラタナス辺境伯が遊びに来た。


 ----何故か、トランプを持って。


「済まないね、みんなで遊ぶゲームをボクはこれしか持ってないのさ」


 プラタナス辺境伯がそう言うと、トランプが1枚、横の人が持つ手札から引かれる。

 そして、場に2枚の『6』のトランプが置かれる。どうやら揃ったらしい。


「いや、別に良いんだけど……」


 私がそう言うと、今度は別の手札が引かれる。

 先程とは違い、カードが出されない所を見ると、どうやら揃わなかったらしい。


「これで、良いのかな?」


 と、私は、目の前で行われているババ抜きを、"私とプラタナス先輩抜き"で行われているババ抜きを見ていた。


 ----私の目の前で、5組の手札に分かれたトランプが、なんか勝手にババ抜きしてるんですけど?!


「カモミーユに聞いてなかったら、意味不明すぎだよ……」


 私は先に、プラタナス辺境伯の魔法が、幽霊を使う魔法だと知らされている。

 知らされていてもなお、目の前で半自動的に行われるババ抜きゲームは、ちょっぴり異様だけど。


「仕方ないね。ボクの幽霊達が、君の部屋で遊びたいと申すのだから」


 「やれやれ、困ったものだよ」と、そう語るプラタナス先輩。


「あの、先輩……」

「なんだい、カリカ男爵令嬢くん? ボクの魔法は幽霊を従わせる魔法ではなく、あくまでも幽霊にお願いすることができる魔法だ。彼ら彼女らの欲望には、全てではないにしろ、ある程度は叶えていくのがボクなりの処世術なんだけど?」


 いや、それは分かった。

 プラタナス先輩の魔法が、幽霊にお願いを聞いてもらう魔法だから、そうなりやすいために彼らの欲求に応える時間がある事は理解した。

 

 そういう魔法である事は、十分に分かったんだけど。




「----なんで、私の膝に頭を乗せてるんです?」




 と、私の膝の上で、ごろんと寝っ転がる先輩にそう尋ねる。


「ふっ、そこに気付くとは……」

「いや、なんかカッコよく言ってらっしゃいますけど、私の膝の上で寝ている状況には変わりませんからね!」


 むしろ、そこでなぜ、カッコつけられると思うのか……。


「なぁに、簡単な話さ。ボクの身体には、ボク自身を支えるとびっきりの幽霊が憑りついている」


 先輩はそう言いながら、自分の狐耳を触ってアピールする。


「狐の幽霊……?」

『ままぁ! ぼくだよぉ!!』


 …………。

 なんとなく、気まずい雰囲気が流れる。


「----とまぁ、ボクの身体の中には、ちゃんとした自我のある子が居てね。この子はボクの身体を支える契約なため、ボクから離れられず、逆にボクもここまで強い意思を出されると抑えきれない。ボクが君の膝枕の上に居るのは、この子のリラックスさせるため、それだけなのさ」

『もう、ぼくのせいにしないで! プラちゃんも、すきなくせにぃ!』

「やれやれ、自分の気持ちを出す事を是とする文化をボクに強要するのは止めたまえ。秘することもまた、人間の美徳なのだよ」

『うわぁぁん!! むずかしいこと、いってるよぉ、ままぁ!!』

「君もそろそろ大人になりたまえ。このボクの知性を借りているなら、理知的な話し方も出来るだろうに。そうしないというのは、君の----」


 うん、別に言い争うのは良いんだよ。


 けど、人の膝の上に頭を乗せた状態で、一人漫談みたいにしないで欲しいなぁ。



「……まったく。これ以上は迷惑だし、そろそろ帰るとしますか」


 

 「ほら、帰るよ。君達」と先輩がそう言うと、散らばっていたトランプが一カ所に纏まり、そして先輩の手の上にふわふわ飛来して置かれる。


「では、カリカ男爵令嬢くん。また近いうちにこの子達を遊びに来させるよ。

 ----あと、君の所に何度も遊びに行くのが不自然にならないように、誠に遺憾ながらアイリス王女くんの家族制度とやらに参加させてもらう事にしたから」


 事後報告として、家族制度に参加を表明してくれたプラタナス先輩は、そのまま部屋を出ていく。


「それじゃあ、またね。カリカ男爵令嬢くん」

『またねぇ、ままぁ!!』

「----子狐くん、今度から『パパ』と呼ぶように」


 そうして、先輩は帰っていく。



「----あの人、辺境伯なんですよね?」




 なんだか最初の印象だと尊敬すべき先輩という感じだったんだけど、何故か今では全くそう思えないのでした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「はぁっ、なんか疲れたな……」


 よっこいしょっと、私は自室のベッドに寝っ転がる。


「(まさかプラタナス先輩の訪問の後、1時間ほどカモミーユとお茶会する羽目になるとは……)」


 別にお茶会は美味しいので良いんだけど、それ以上にカモミーユとのお茶会って神経使うから、疲れるんですよ……。


 やれ、これはマナーが悪い、だとか。

 やれ、今のマナーは良かったのでもう一回、だとか。


 何故か突然にマナー品評会というか、マナー教室が始まるから、苦手なんだよね……。

 カモミーユ曰く「おと……カリカさんは私達の派閥の『父親役』なんで、ある程度のマナーを持ってないと示しがつきませんので」との事だそうだ。


 ……あれだよ、お父さんってば変な格好で寝ないで~恥ずかしい~とか、ああいう感じ。


 いや、誰がお父さんやねんって話なんですが。


 そんな気疲れもあってか、私はいつも以上に疲れていた。


「今夜はぐっすり寝られますように……」


 まぶたを閉じると、そのまま私は眠りに落ちて行き----




 翌朝、目が覚めると----


「うぅん♡♡」


 いきなり、目の前に肌色、じゃなくて裸?!


「えぇっ?!」


 私の横に、素っ裸の灰色髪美少女が眠っていたのでした。


 ……いや、というか誰?!

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