第17話 プラタナス・ザエ(2)


「あぁぁぁ!! ボクちゃん、だっこ! プリーズ、だっこぉぉぉぉ!!」


 黒い夜闇が支配する、学園内。

 そんな夜の学内に、1人の令嬢の叫び声が響いていた。


 ----と言うか、プラタナス・ザエ辺境伯の、幼子としか思えない絶叫である。


「…………。」


 その絶叫を、冷ややかな目線で見つめる1人の令嬢が居た。

 真っ赤に染め直した独自の制服を着た、スタイル抜群の令嬢----カモミーユ・アドバーシティー公爵令嬢である。


 ----むくっ。


 と、先程まで醜態しゅうたいを晒していた、晒しまくっていたプラタナスであったが、彼女が起き上がる。

 そして、カモミーユの顔を見て、一言。


「やぁ、放火魔令嬢カモミーユくん。良い夜だね」

「……いや、先程までの奇行、それでは誤魔化しきれてませんわよ?」


 「うぐっ……」と、胸を押さえるプラタナス。

 その様子は、先程までの痴態を反省しているようであった。


 そして、キョロキョロと辺りを見渡して、



 金色のアフロヘアーの暗殺者と、カリカが戦ってるのに気付いた。

 アフロヘアーの暗殺者は髪に手を突っ込んで出した二丁のライフルを取り出し、発射。

 そして、発射された銃弾を、カリカさんの髪が急に移動する事によって、身体全体も移動して避けていた。


 一方で、カリカの身体が不自然・・・に移動して、暗殺者の身体に蹴りが入る。

 暗殺者は発射し終わったライフルで防ぎ、アフロヘアーの中から木刀を出して攻撃する。




「(ボクの目の前で、一介の男爵令嬢と暗殺者が互角に戦ってるんですけど……)」


 というか、あの暗殺者、何者‥…?


「びっくりしましたのよ! いきなり、おと……カリカさんが『何かに呼ばれた』とか言い出して外に出たと思ったら、暗殺者と戦い始めて!

 ----ほらっ、さっさと逃げますわよ! 暗殺者をカリカさんが引き寄せている間に!」


 カモミーユが「さぁ、逃げますわよ!」と伝え、逃げようと促す。

 一方で、プラタナスは何か考え込む姿勢を見せ、その場に留まっていた。


「……辺境伯?」

「いや、どうも逃げる訳にはいかないみたいでして」


 そして彼女は「悪い人ではないし……」と自分を納得させ。


「良いですか、放火魔令嬢くん? 今からボクは魔法を発動するのでして。

 ----あまり、びっくりするんじゃないですよ」


 プラタナスはそう言って、魔法を発動させ----



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「うわっ……?!」


 私----カリカ・パパヤの身体が、いきなり動き、目の前のアフロヘアー暗殺者に蹴りを与える。

 その蹴りは暗殺者のライフルによって防がれ、暗殺者はアフロに手を突っ込んで、木刀を出して攻撃する。


「良く訓練してるようじゃん!」

「田舎では魔物と戦うのも、淑女教育の一環なもので!」


 暗殺者の言葉にそう返す私でしたが、実際の所、実家いえで教わっていたのは、あくまでも護身術のようなもの。

 外で魔物に襲われた時に逃げる術とか、誘拐されそうになった際に咄嗟に出来る技、程度のもの。

 

 まかり間違っても、この怪しい見た目の暗殺者と渡り合えるレベルの代物ではないはずなのだ。


「(なんか私の髪も反応しまくってるし……あのライフルとか、木刀も、魔法の一種なのかな?)」


 私のこの蛇のような髪は、魔法を吸収する。

 理屈は私自身もどういうモノなのか知らないけれど、相手が魔法を使うと、なんか感覚的に「あっ! こっちの方向から来るんだなぁ」程度には分かる代物である。

 私はそんな蛇髪の力を借りて、暗殺者がどういう風に攻撃してくるかを把握している。


「(おかげで、暗殺者のライフルの軌道も、木刀の剣筋なんかも、なんとなく分かるんだけれども……そもそも私の身体能力じゃ、避けられるはずないのに……)」


 ここに来た経緯だって、なんか呼びかけられたと思って、外に出て。

 いつの間にか、プラタナス先輩の研究棟の前までふらふらーっと歩いて来たかと思ったら、暗殺者に背負われたプラタナス先輩を見つけたって訳で。


 いや、暗殺者は怖いけど、目の前の先輩を見捨てて逃げるのは違うなって思ってたら、いきなり身体が暗殺者と戦ってたんだ。


 ……私の身体、私が思っている以上にアグレッシブなのかな?

 戦闘に飢えちゃってるのかな?


「さぁ、これで舞台も幕引きとするじゃんよ!」


 暗殺者はそう言って、左手をアフロの中に突っ込む。

 そして、アフロが光り輝き、左手を引っこ抜くと----



「超巨大ドリルの、完成じゃんね!」



 ----なんか、左手が巨大なドリルになっていた。


「なに、あれ?!」


 いや、どう見ても身体の5倍はあるよ?!

 あんなの、喰らったら、傷どころじゃ済まないんだけど?!


「喰らうじゃんね、ハイパー・ギガンティック・ドリルアタックぅ!!」


 ----ぐるんぐるんぐるんっ!!


 大きく回るドリル、そしてそのドリルが私に向かって、発射される。



「それ、分離式なの!?」


 私の髪が反応してるのを見て、あれも魔法の一種だと思うんだけど、どう見たって限度あるでしょ!?

 あんなの、吸収しきれんわ!


 諦めかけたその時、ドリルは私の前で急に止まる。




 ドリルは空中で、いくつもの影のような手で押さえつけられていたのであった。



「なっ、なんだとじゃん?!」


 暗殺者が驚愕の表情をする中、私の耳元で声が囁く。


 "今がチャンスだよ"と。


「----なんか分かんないけど!」


 確かに、その通り!


 私はそのまま走って、暗殺者に駆け寄ると、



「あっち、いっちゃええええええええ!!」



 そのまま、殴って暗殺者を吹っ飛ばしたのでした。

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