第27話 賭けのゆくえ


 フーガたちが魔物討伐に出て、半日がたった頃。アステラ王国の王城では、ビンジョルノとリズが、二人だけで、お茶をしていた。


 時刻は、午後3時すぎ。


 ちょうどおやつの時間になった時に、ビンジョルノが『話をしたい』とやってきたからだ。


 とはいえ、本物のリズは、今は西の洞窟にいる。


 だから、今ここにいるリズは『鏡の幻影ミラージュ』の魔法で、リズに化けている、メイドのルーンだった。


 しかし、そんなことに気づかないビンジョルノは、差し出された紅茶を飲みながら、勝ち誇ったようにふんぞり返る。


「いつも、賑やかな姫様が、ここまで大人しくなるとは、よほど自信がないようですね」


「…………」


 別に大人しいのは、いつものことだ。

 だって、中身がルーンなのだから。


 しかし、その姿が、負けを確信しているようにみえたらしい。ビルジョルノは、フフンと鼻をならしながら


「まぁ、フーガ様に、魔物を倒すことはできないでしょう。あ、ちなみに、シエルくんが倒した場合は無効ですよ。しっかりとフーガ様が倒した場合のみ、賭けは、姫様の勝ちとなりますので」


「…………」


 再度、賭けの内容を念押され、ルーンは、いらだった。


 相変わらず、嫌な男だ。

 すると、ルーンは、リズの声マネをしながら


「その賭けのことだけど、私が勝ったら、宰相は何をしてくれるの?」

 

 リズになりきり、ルーンが問いかける。

 すると、ビンジョルノは


「……何を?」


「だって、私が負けたら、もう一度、命懸けの異世界召喚術を行わなければならないのよ。でも、宰相には、負けた時のリスクが何もないじゃない。まさか、フーガに土下座するだなんていわないわよね?」


「く……っ」


 ルーンの言葉に、ビンジョルノが、苦虫をかみ潰したような顔をした。


 そして、その顔を見ながら、ルーンは思う。


 姫様だけリスクも負うなんで、賭けとしてはフェアじゃない。


 すると、痛いところをつかれ、ビンジョルノは目を逸らす。

 

「何をと言われましてもねぇ? して欲しいことでもあるのですか?」


「あるわ。して」


「はぁぁぁ?!」


 だが、突然、飛び出してきて言葉に、ビンジョルノは、テーブルを叩き、立ちあがった。

 

「そ、そんなことできるわけないでしょう!?」


「じゃぁ、賭けはなかったことにする?」


「いやいや、なんで、そうなる!? あー、なるほど! 姫様は、なかったことにして欲しいのですね。賭けに勝てる自信がないから!!」


「………」


 別に、そういうわけではない。

 だが、取り消せるなら、その方がいい。


 魔物を倒すだけなら、シエルと姫様の二人がいれば、何とかなるだろう。だが、フーガ様には荷が重すぎる。


 しかし、ビンジョルノは、その賭けを取り消すことなく、ルーンの言葉を飲んできた。


「いいでしょう! では、姫様が勝ったら、私は宰相を辞任しましょう!」


 よほど、自信があるらしい。

 そして、その憎たらしい顔に、ルーンはこめかみを引くつかせた。本当に、嫌な男だ!


「ちゃんと、守りなさいよ」


「はいはい。まぁ、結果は明日でしょうが、楽しみです。私が勝てば、本物のアーサー様を召喚できる! あ、もし、あさってになっても戻らない時は、ちゃんと救助に向かわせますから、ご心配なく。生きていれば、日本に返してあげ」


「ビンジョルノ様! フーガ様が戻ってきましたぁぁ!?」


「なにッ!?」


 だが、その瞬間、バタン!と扉を開き、兵士がやってきた。


 というか、早っ!?

 朝、旅立って、まだ、夕方にもなっていないのに!?


 だが、その早めの帰還に、ビンジョルノは、ポンッと手を叩く。


「なるほど! これだけ早いと言うことは、魔物を倒すのを諦め、逃げ帰ってきたのかもしれませんね。まぁ、懸命な判断です。姫様、どうやら、明日をまたずして、結果がでてしまったようですよ」


 すると、ビンジョルノは、高笑いをしながら、兵士と共にリズの部屋から出ていって、ルーンは、悔しいそうに唇をかみ締めた。


 きっと、フーガ様に会いにいったのだろう。

 そして、また酷い言葉をかけるのかもしれない。


(あんな人が、この国の宰相だなんて……っ)


 いきどおり、やるせない思いを抱える。

 だが、メイドのルーンには、為す術がなく。


 しかし、その時──


 コンコン!


 と、誰もいない部屋に、窓を叩く音がした。


 ルーンが、窓の外に目を向ければ、そこには、魔法の杖にまたがり、飛んでいるリズがいた。


「姫様!?」

「ルーン! ただいま!!」


 ルーンが窓を開ければ、部屋の中に入ってきたリズは、すぐさまルーンに抱きついた。


「私の身代わり、ありがとう! バレなかった!?」


「それは、大丈夫です。でも、どうしてこんなに早く!? 魔物は……フーガ様は、どうなったのですか!?」


「それが、大変なことになっちゃったの!?」


 リズが血相を変えて、そういえば、ルーンの脳裏には、最悪な想像がよぎった。


 まさか、フーガ様の身に何か──


「ルーン! ドラゴンって、どうやって飼うの!?」


「へ?」


 だが、その予想外の言葉に、ルーンは


(ドラゴンを……飼う??)

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