第19話 いざ、洞窟の中へ


 その後、準備を整えた、風芽、シエル、リズの三人は、西の洞窟までやってきた。


 勇者服を着た風芽と、騎士姿のシエル。


 そして、普段のドレス姿から、動きやすい服装に着替えたリズは、お姫様と言うよりは魔女っぽい。


 なによりリズは、メイドのルーンに自分の身代わりをさせ、こっそりでてきた。


 なんといっても一国のお姫様だ。魔物討伐に出かけるなんて、常識的にはありえないのだが、リズの意思は固く、どうしても行くと言ってついてきた。


「さぁ、二人とも、頑張りましょう!」


 そして、洞窟の入口に立ち、リズが呼びかけた。


 西の洞窟は、深い森の奥にあった。

 王都から、馬を走らせ二時間ほど。

 

 森の中は険しく、人の気配は全くない。

 そして、肝心の洞窟は、とても不気味だった。


 ゴツゴツとした岩に、赤黒い苔。

 そして、その先は、光すら届かない真っ暗闇。


 まさに、魔物のねぐらといったところ。


 だが、今から3人は、この中にはいり、魔物を討伐しなくてはならない。


「行くわよ、二人とも! 私についてきて!」


 リズが先陣を切って、洞窟の中に入ろうとする。


 洞窟の入口は、約3mほど。

 そこまで大きな入口ではない。


 だが、勢いづくリズの手を、シエルが掴んだ。


「きゃっ! な、何よ、シエル」


「姫様、まずは、これを」


「え? なにこれ?」


「お弁当と飲み物です」


「え?! お弁当?!」


 差し出されたのは、小ぶりのバスケットだった。

 そして、手渡されたランチセットを見て、リズは困惑する。


 いや、もしかしたら、これは、入る前に腹ごしらえをしろということなのかもしれない!


「た、確かに、食べてからがいいわね! これからは飲まず食わずの戦いがはじまるんだから!」


「え? そうなの?」


「そうよ、フーガ。洞窟に入ったら、いつ魔物と出くわすかわからないんだから!」


「あ、そっか。じゃぁ、いっぱい食べとこうー」


 能天気な風芽が、ノーテンキに答える。

 すると、リズも思い出したらしい。


「そうだわ。私も入る前に、二人に渡したい物があったの」


 そう言ったリズは、ミニショルダーの中から、蝶の形をしたブローチを取り出し、風芽とシエルの胸元につけてあげた。


 宝石が入った綺麗なブローチだ。


 風芽が、ガーネット。

 シエルが、サファイア。

 そしてリズが、アメジスト。


 赤、青、紫と、色は違えど、三人お揃いのブローチをつけられ、シエルと風芽が首をかしげる。


「なんですか、これは」


よ。なんだか憧れない? こういうの!」


 友達や仲間と、お揃いのものを持つ。

 そんな関係に憧れていたのか、リズが嬉しそうに微笑んだ。


 なにより、これからは、三人一緒に行動する。

 気持ちを一つにするためにも、仲間としての意識は大切だろう。


「なんで、蝶なの? オレ、カブトムシの方が良かった」


「え!?」


 だが、そこに風芽が、愚痴をこぼし


「えー、ちょうちょ、可愛いじゃない! それに、カブトムシってなによ?」


「え!? この世界、カブトムシもいないの!? なんか、ないものばっか!?」


「はいはい。二人とも、喧嘩しないでください。とりあえず、木陰に座って、お弁当を食べましょう」


「「はーい!」」


 すると、元気よく返事をした二人は、シエルに言われるまま、木陰へ向かって、お弁当を広げた。


 なんて緊張感のない、後継だろうか?


 だが、そんな二人に呆れつつも、目的を果たしたシエルは、突如、剣を抜き、空中に円陣を描いた。


鳥籠の牢獄キャージュ!」


 そして、呪文を唱えたか思えば、円陣は魔法陣に変わり、あっという間に、リズと風芽を取り囲んだ。そして


 ──ガシャン!!


 と、激しい音が響いたかと思えば、風芽とリズは鳥籠の中にいた。まるで、牢獄のような籠の中に。


「ちょっ、なにしてるのよ、シエル!?」


 いきなり閉じこもられ、リズが叫んだ。

 するとシエルは


「お二人は、その中で食事でもしていてください。魔物は、俺一人で倒してきますので」


「な、なに言ってるの!? ていうか、今、仲間だって言ったばかりじゃない!?」


「そうですね。俺もやりにくかったです。あんなこと言われた後では……でも、初めから、二人を戦わせるつもりはなかったので」


「ちょっと! こら! 待ちなさい!」


 だが、止めるリズを無視して、シエルは、スタスタと洞窟の中に入っていって、リズは、鳥籠の柵を、ぎゅっと握りしめた。。


 西の洞窟に住む魔物は、その正体が、まだはっきりしていない。なにより、B5ランク以上だと言われている。


 特に、Aランクの魔物は、騎士クラスでも、骨が折れる猛獣ばかりだ。


 それなのに、シエル、一人で行くなんて──


「ど、どうしよう、フーガ……!」


「うーん。とりあえず、弁当、食べながら考える?」


「なんで、フーガは、そんなに冷静なのよ!?」


 シエルに裏切られたというのに、全く怒らない風芽。


 そして、気持ちを一つにしたくても、全く噛み合わない三人に、リズは不安を抱かずにはいられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る