第18話 フーガの帰還


「シエル、リズ! ただいま~!」


 その後、城にもどってきた風芽は、リズとシエルに向かって、元気よく挨拶をしていた。


 行方不明になっから6日。


 リンドバーグの家にいるのはわかっていたが、ずっと会えなかったからか、シエルとリズは心配していた。


 特にリズにいたっては、泣きながら抱きついてくるしまつ。


「フーガ、良かったぁ、ちゃんと帰ってきてー!」


「わっ!?」


 怪力なリズに抱きつかれ、フーガは、軽く身構えた。

 だが、前のように痛くはなく、どうやら手加減をしてくれているらしい。


「フーガ、怪我はなかった? リンドバーグ先生の授業、厳しかったでしょ?」


(なんだか、弟を心配するお姉ちゃんみたい)


 そして、心配するリズを見て、そんなことを思いつつ、風芽は、リンドバーグとの修行をふりかえる。


 確かに、師匠の修行は厳しかったし、たくさん怪我もした。


 だが、それ以上に、久しぶりにギターを弾けたのが、嬉しかった。だから、修行の感想は


「うんん。めちゃくちゃ楽しかった!」


「え? 楽しかった?」


 だが、その反応には、リズは困惑する。

 あの先生の授業が、楽しかった!?


「一体、どんな修行をしてきたの?」


「ギターを弾いてたんだ!」


「ギター?」


「あ、そうだった。この世界には、ギターって言葉はないんだっけ。これだよ。これがギター」


 すると、首をかしげるリズに、風芽は、背負っていたギターをさしだした。


 夜空のような色合いのボディは、とても綺麗で、中央に6本の弦が張ってあるデザインは、とてもスタイリッシュで、見る限り楽器だ。


 だが、見なれないその楽器を、リズは不思議そうに見つめる。


「これ、楽器なの?」


「うん」


「でも、弓がないわよ」


「弓なんて使わないよ。指で弾くんだ」


「指!?」


「うん。まぁ、オレはピックを使ったりするけど。それにこのギターすごいんだ! 見た目はエレキなのに、アンプに繋がなくても、遠くまで音が響いて」


「???」


 ピック? エレキ? アンプ?

 だめだ。

 何を言ってるか、さっぱり分からない。


 すると、そこに、今度は、シエルが口を挟む。


「フーガ様は、法力を授けてもったのではないのですか?」


 シエルは、リンドバーグの手紙を読んだ次の日、楽器屋に向かった。


 だが、そこに風芽と先生の姿はなく、店番をしていたエマには『法力を授けるために修行している』と聞いていた。

 

 かくいうシエルも、リンドバーグから法力を授けてもらった生徒の一人だった。


 魔法値が『60』以上ないと魔法使いにはなれないとされる中で、シエルの魔力値は『53』


 それ故に、才能があるとは認められず、魔法学校で授業を受け『法力使い』になった。


 ちなみに、リズラベルの魔力値『96』だ。


 生まれながらに魔力が高く、魔法の才能があると認められた『魔法使いエリート』。


 だが、残念なことに、極度のあがり症で、失敗が目立つ。とはいえ、この世界で勇者をやるなら、魔力は必要だろう。


 それに、いくら風芽の魔力値が『0』だとしても、法力を授けてもらえれば、簡単な魔法くらいは使えるようになる。


 だからか、先生のもとで修行をしていると聞いて、二人はホッとしていた。


 これで、戦うことはできなくても、自分の身を守ることくらいはできるかもしれない。


 そう思っていたのだが……


「うん。授けてもらった! でも、魔法は全く使えなかったんだ」


「「え?」」


 その言葉に、二人は目を見開く。


「つ、使えないって!?」


「まさか、簡単な初級魔法もですか!?」


「うん、なんか、全然できなかった! だから、オレにできるのは、このギターを弾くことくらい」


「「…………」」


 もはや、言葉がでなかった。

 

 あのリンドバーグ先生の授業を受けて、その成果が、まさかの楽器を弾くだけ!?


「それより、早く行こうぜ。明日までに魔物を倒してこないといけないんだろ!」


「え! ちょっと、フーガ!」


 すると風芽は『早く西の洞窟へ行こう』と急かしてきて、パタパタと駆け出していって、リズとシエルは、困ったように呟く。


「フーガ、魔物に子守唄でも聞かせる気なのかしら?」


「そんな事したら、ギターを壊されて終わると思いますよ」


 どう考えても、大丈夫ではない!!


 そして、あまりにも能天気すぎる風芽をみて、シエルとリズは『あの子は、私(俺)が守ってあげなくては!』と、強く強く思ったのだった。

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