第11話 姫様と騎士


「「え!?」」


 その言葉に、風芽とシエルは、目をみはった。


 魔物を退治する!?

 お姫様であるリズが!?


「な、何をいってんだよ! 危ないだろ!?」


 風芽が険しい表情で答える。

 だが、リズは


「大丈夫よ! 私、強いし。だから、西の洞窟には、私も一緒にいくから!」


「行くからって……リズは女の子だし」


「なによ、それ。女の子は戦っちゃいけないとでもうの!?」


「ダメですよ」


 すると、シエルがピシャリと言い放った。

 シエルは、リズを、まっすぐに見つめると


「姫様は、城の中で、大人しくしていてください」


「なっ! もう、シエルは、いつもそうだわ。危ないから下がってろって! だいたい魔法の腕なら、シエルより私の方が上なのよ!」


「それは魔法だけでしょう? その他は、俺の方が上だ」


「じゃぁ、洞窟の魔物のことは!? ちゃんとわかってるの!?」


「あぁ、わかってる。魔物は、凶暴なドラゴンだと聞いてる」


「ドラゴン!? 違うわよ。毛むくじゃらのだって言ってたもの」


「毛むくじゃら? 誰がそんなこと」


「ルーンよ!」


 シエルとリズが、口ゲンカを始める。


 だが、その様子は、お姫様と騎士というよりは、仲の良い幼なじみのようにも見えて、風芽は、思ったことを聞いてみる。


「シエルとリズって、仲良いの?」


「「よくない(わよ)!」」


 すると、シエルとリズの声が重なった。

 二人は、お互いに顔を見合せると


「姫様とは、魔法学校アカデミーで、3年間、同じクラスだったんです」


「そうなのよ! シエルってば、私が飛び級して、学年を上がるたびに、ついてきてきたのよ!」


「ついてきてたのは、そっちだろ」


「ち、違うわよ!?」


 ガミガミと言い合う二人は、同い年で、同じ学校。

 そして、一位か二位を争うほどの優等生で、簡単に言えば、ライバルだった。


 だが、卒業した今は、姫様と騎士。


 だからから、シエルは断固として、リズのワガママを許さなかった。


「とにかく。姫様を危険にさらすわけにはいきません。だから、西の洞窟には、俺とフーガ様だけでいきます」


「もう、あいかわらず頑固ね! どんな魔物が潜んでるのかわからないのよ。それに、シエルだけじゃ倒せないかもしれないじゃない! だから、私も」


「ダメだって言ってるだろ!」


「なんで、ダメなのよ!」


「ハロルド様とアイト様が、北の国にいったきり戻ってきてない!」


「……っ」


 その言葉に、リズは、キュッと唇をかみしめた。


 ハロルドとアイトは、リズの兄の名前だ。


 数ヶ月前、第一騎士団と一緒に、北の国へ向かったリズの兄たちは、騎士団ごと、連絡がつかなくなった。


 そして、そのことを踏まえ、シエルは、さらに続ける。


「王子たちが、このまま戻らなかったら、この国を継ぐのは、姫様しかいません。そんな中、姫様に万が一のことがあれば、国王様が悲しみます」


「わかってるわよ、そんなこと……でも、だからこそ、私がやらなきゃいけないんじゃない! お父様が、ご病気なのは知ってるでしょ? 就任式を終えた後も、体調をくずして寝込んでしまったわ。もう、長くはないのかもしれない……だから、私は、早くお父様を安心させてあげたいの! この国は、私が守っていくから、心配しないでって! それに、フーガを巻き込んだのは私よ! 私には、フーガを守る義務があるの! だから、行くなって言われても、絶対ついて行くから!」


「……ッ」


 リズの目は、真剣だった。

 そして、その目を見て、シエルは困り果てる。


 リズの母親は、幼い頃に亡くなり、可愛がってくれた兄たちも行方不明。その上、父親である国王様は、病におかされ、もう長くはない。


 そして、今、リズの肩には、この国の全てがのしかかっている。


 だからこそ、強うなろうと必死なのだろう。

 大切な家族や国民たちを守るために。


 それに『守るために強くなりたい』

 そう思う気持ちは、シエルにも、よくわかった。


 シエルは、数年前に、家族をなくしているから──


「はぁ……わかりました。でも、絶対にムリはしないでください」


 すると、シエルはしぶしぶと言った様子で、そう言って、リズはパッと頬をゆるめた。


「ホント!? ありがとう、シエル!」


「それと、フーガ様も、洞窟内では隅に隠れていてください。魔物は、俺と姫様で倒します。そして、それを、


「え?」


 だが、その言葉に、風芽は目を見開いた。


「な、なんでそうなるんだよ!」


 その内容には、全く納得ができなかった。

 確かに、倒してくると宣言したのは自分だ。でめ


「それは、絶対イヤだ! 大体、なんで、そこまで嘘つく必要があるんだよ! 二人が倒したなら、二人が倒したって言えばいいだろ!」


「それじゃ、ダメなのよ」


 だが、そこぬリズが口を挟み


「私やシエルが、どれだけ魔物をたおしても、国民たちは安心しないの。これは、英雄フーガだからこそなのよ。だからこそ、西の魔物は、フーガが倒したことにしなきゃダメ! フーガは、この世界の希望なんだから」


「……っ」


 その話には、反論のしようがなかった。

 

 ──世界の希望。


 それは、風芽に任せられた『英雄としての責任』だったから。


「というわけで! 今夜は作戦会議よ。ディナーを食べたら、私の部屋に集まって!」


 すると、リズが、また明るく声を発し、シエルが続く。


「姫様の部屋に?」


「そうよ。お菓子、いっぱい用意しておくからね!」


「お菓子って、遊びじゃないんですよ」


「わかってるわよ。でも、作戦会議に、お菓子は必要よ。それじゃぁ、またあとでね!」


 すると、リズは、あっという間に部屋からでていって、シエルも、思いだしたように、風芽に語りかける。


「フーガ様。俺も騎士団長への報告があるので、一旦、失礼いたします」


「あ……うん。分かった」


 その後、シエルも部屋を出ていって、風芽は、広い部屋で、一人きりになった。


 一人になった部屋は、すごく静かで、風芽は、窓から町を見下ろしながら、一人つぶやく。


「……嘘をつくって、こんなにつらいんだな?」


 やると決めた以上は、最後までやり抜く。

 そのためなら、どんな嘘でもつくつもりでいた。

 でも……


「なんだか、自分のことが嫌いになりそうだ」


 嘘をついて、人を騙す。

 それが、こんなに、苦しいことだなんて思わなかった。


 なにより、嘘をつく度に、罪悪感で押しつぶされそうになる。


 でも、ここで逃げ出すわけにはいかない。


 ここで逃げ出せば、オレは家族を守れなくなる──


「よし! やると決めたからには、行動あるのみだ」


 改めて決意をすると、風芽は、きつく拳を握りしめた。


 英雄の生まれ変わり──その嘘は、なにがなんでも、つき通す。


 でも、それ以外の嘘は、できるだけつきたくない。


 だから、そのために、できるだけのことをしていこう。

 シエルとリズに、頼ってばかりにならないように。


「とはいったものの、まずは何から──あ!」


 だが、そこで、ふと思い出した。

 

「あぁぁぁ、そうだった! オレ、町の人たちに、サインしに行く約束してたんだった!?」


 危ない、あぶない、忘れるところだった!


 なにより、勇者が、約束をすっぽかすなんて、あってはならない!


 すると、風芽は、すぐさま城をでて、急ぎ足で、町へと向かったのだった。

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