第12話 お祭りとランク分け
「勇者さまー、次は、こっちー!」
「これも、食べてー!」
その後、町へやってきた風芽は、あっちへ、こっちへと、引っ張りだこになっていた。
何件もお店をまわれば、そのたびに、ふかふかのパンや骨つき肉などを、ご馳走される。
しかも、この町の料理は、どれも美味しいのだ。
「おじさん! この肉、めちゃくちゃうまいね!」
串に刺さった大きめ肉をほうばりながら、風芽が笑顔で絶賛する。
すると、コンロで肉を焼いていたおじさんは
「そうでしょう! それ、昨日とれたばかりの魔物の肉ですよ」
「魔物!? 魔物って食べられるの!?」
「はい。魔物は魔力をまとってるので、肉や牙の質が、とてもいいんですよ。だから、ランクの高い魔物ほど、高値で取引されて……まぁ、あいつら、おっかねーから、なかなか手に入らねーですけどね」
「へー。じゃぁ、西の洞窟にすむ魔物も、退治したら食べるの?」
「そうですね。魔物とはいえ命ですから、感謝しながら、みんなで、ありがたく頂きますよ。まぁ、食うだけじゃなく、毛皮にしたり、武器にしたり、布団にしたりと、魔物によって色々ですけどね。でも、話に聞くかぎり、西の魔物は、B5ランク以上の魔物だと聞きますよ。本当に大丈夫ですか?」
「B5ランク?」
おじさんの話を聞くと、魔物には、その強さや性質によって、レベル分けがされているらしい。
ランクは【A】【B】【C】と、主に3つ。
【Cランク】は、誰でも狩ることが許されている初級クラスの魔物。
【Bランク】は、ハンターや訓練された大人だけが狩れる中級クラスの魔物。
そして【Aランク】が、騎士や魔道士といった実力のある者しか狩れない上級クラスの魔物。
そして、その3つのランクが、更に細かく1~5のレベルに分けられているそうで、一番弱い魔物が【C1ランク】で、一番強い魔物が【A5ランク】ということらしい。
つまり、さっきおじさんが言っていた【B5ランク】以上の魔物というのは、ハンター、もしくは騎士レベルの実力がないと倒せない上位ランクの魔物ということ。
(へー……じゃぁ、西の魔物って、めちゃくちゃレベルの高いやつだ)
きっと、シエルとリズがいないと倒せない。
それに、そんな強い魔物を相手に、オレにできることなんてあるのか?
(……なんか、悔しいな)
できることをやろうと意気込んだくせに、今の自分は、ただの足でまといでしかない。
シエルとリズの影にかくれて、ただ見てることしか出来ないなんて──
「そういや、昔はSランクの魔物もいたそうですよ」
「え?」
すると、オジサンが、また語り出した。
なんでも、Aランクの上に、更に【Sランク】という位が存在するらしい。
でも、このSランクに関しては
「まぁ、Sランクなんて、ほぼ都市伝説ですけどねー。なんでも、そのクラスになると人語を喋れるとかいわれてますが、魔物が喋るわけありませんから!」
そんなふうに言って、笑い飛ばしていた。
だが、Aより更に上があるとか、やめて欲しい。風芽は、魔物の肉を食べながら、苦笑する。
「ねぇ、勇者さま〜!」
「今日は何時までいられるの?」
すると、今度は、風芽と同じ年頃の子供たちが、話しかけてきた。
親切に、町の案内をしてくれた子供たちだ。
ちなみに、祭りは夜まで行われるらしい。
だが、夜には、シエルたちと作戦会議をすることになっているため、そろそろ帰らないと。
「ごめん、オレ、もう帰る!」
「えー! また、明日も来れる?」
「うーん、わかんない。魔物退治の準備もしなきゃいけないし」
「じゃぁさ! 帰る前に、どうやって魔王を倒したのか教えてよ!」
「え!?」
いきなり、とんでもないことを聞かれた!
しかも、魔王を倒した方法を!?
「本には、詳しく載ってなかったんだよね」
「うん、やっぱり魔王って怖い? どんな技をつかうの?」
「あの伝説の剣で倒したんでしょ?」
「北の国って、どんな所なの!?」
そして、次々とやってくる質問の山!
だけど、勇者と魔王の戦いは、伝説級の戦いだ!
それを、昼間のように適当に答える訳にはいかない!
「えーと……オレ、前世の記憶を、まだ完全には思い出せてなくて! だから、思い出したら話すな?」
「えー、そうなの。でも、そうだよね。こっちに来たばかりだもんね」
「じゃぁ、思い出したら教えてね!」
「うん、わかった。……じゃぁ、オレ、もう行くから。今日は、ありがとな!」
そう言って、風芽は手を振りながら、子供たちから離れ、城に向かって進む。
夕日が落ちかけた空には、キラキラと星が輝き始めていて、それからしばらくして、風芽は、ちょうどアーサーの銅像の前で、たちどまった。
剣を手にし、凛々しい表情で立つアーサー・ドレイクは、17歳で魔王を倒し、命を落とした。
若かったからか結婚はしておらず、子供もいなかったらしい。
でも、家族はいなくても、アーサーの死を悲しむ人はたくさんいた。
そして、英雄になったアーサーは、伝説の勇者となり、この国に銅像が建てられた。
だから、この銅像は、平和の象徴でもあった。
(……やっぱり、似てないよな?)
アーサーの銅像を見つめながら、風芽は、しみじみと、そう思った。
やっぱり、英雄などと言われても、ピンとこないのだ。
でも、この英雄に、自分は成りきらないといけない。
「……みんな、笑ってた」
そして、町の様子を思い出しながら、風芽は、ホッとしたような笑みを浮かべた。
リズが守りたいと言っていた、この国の人々は、一週間前の姿が嘘のように、明るさを取り戻していた。
そして、それは全て、風芽がこの国に、やってきたおかげだった。
嘘をつくことに罪悪感はあるが、それでも、あの笑顔を見ていると、自分のしていることは、決して間違いでらないのだと気づかされる。
そうだ。どんなに嘘つきだと言われようが、オレには守らなきゃいけないものがある。
「でも、問題は……今のオレにできることが、なにもないってことだよな?」
だが、そこには、重大な問題があった。
そう、英雄のフリをしないといけない自分が、勇者としては最弱だということ!!
──チリン
「……!」
だが、そこに、どこからか音が聞こえた。
高い音だ。
鈴? いや、違う……これは
「──トライアングルの音だ」
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