第25話 アーサーとフーガ


 それは、とても自信に満ちた言葉で、ファードラゴンは、顔をゆがませた。


『英雄の……生まれ変わりだト?』


「うん。オレ、アーサー・ドレイクの生まれ変わりなんだ」


 風芽が笑顔で答えれば、ファードラゴンは、渋い声で笑い出した。


『ふハハハハハっ! 貴様ガ、アーサーの生まれ変わりダト。ふざケルなァ!! 魂の色を見れば分かルわ! お前は、アーサーではない! ワレの親友に成り代わるとは、なんと忌わしい子だ! 万死にあたいするワ!!!』


 すると、ファードラゴンは烈火のごとく怒りだし、さらに風芽を威嚇いかくしてきた。


 しかも、あっさり、ニセモノだとバレてしまった。

 だが、それ以上に驚いたのは


「ドラゴンさん、アーサーの親友だったの?」


「そんなはずない……!」


 だが、そこに、シエルが口を挟む。


「魔物は、だ。その魔物とアーサー様が仲良くするはずなんてない!」


 確かに、シエルの言い分は、もっともだった。


 なにより、魔物の友達がいたなんて、伝記にすら載っていない話だ。しかし、ファードラゴンは


『お前達の国で、どのように伝わっているかハ知らないが、ワレとアーサーは親友だった。共に旅をし、魔王城を目指した。だが、アーサーは死んでしまった……それからは、ずっと、この洞窟の中にいル』


 しゅんとしたドラゴンは、さっきの怖さが嘘のようだった。


「ずっと? もしかして、出られないの?」


『違う。出たくナイだけダ』


「それって、親友がいなくなったショックで、200年、引きこもってたってこと?」


『ひきこもりとか言うなアァ!?』


 グワッと目を血走らせ、ファードラゴンが叫んだ。


『ワレは、生きる意味を失ったのダ! 突然変異で産まれ、仲間のドラゴン達から『毛がある』とイジメられていたワレを、アーサーは救ってくれた。それなのに、ワレは、約束を守れナかった! アーサーを守ると誓ったのに、守れずに、死なせとしまった……!』


 ファードラゴンは、ひどく落ち込んでいて、今もまだ、悲しみの中にいるのが伝わってきた。


 本当に親友だったのだろう。目には涙がにじんでいて、本気で悔しがっているのがわかる。


「そっか……そうだったんだ」


 そして、その話を聞いた風芽は、戦闘態勢だったギターから、そっと手を離した。


 もう、戦う必要はないと思ったから。


「ねぇ、ドラゴンさん! オレの仲間になってよ!」


『「はぁ!?」』


 だが、突如、とんでもないことを言い出した風芽に、その場にいた全員が大声を上げる。


 いきなり、なにを言い出すのか!?

 しかも、仲間にする!?

 魔物であるファードラゴンを?!


「ちょっとフーガ、なに言ってるのよ!?」

「相手は、凶暴な魔物ですよ!?」


 リズとシエルが、激しく反論する。

 だが風芽は、にこやかに笑いながら


「大丈夫だよ。だって、アーサーの友達だし」


「と、友達って……! 嘘をついてる場合だってあるじゃない!?」


「ついてないよ。このドラゴンさん、本気で悲しんでるし。ねぇ、ドラゴンさん! オレ今、英雄アーサーの代わりをしてるんだ。でも、200年前のアーサーのことが、よくわからなくてさ。だから、一緒に旅をしていた頃のアーサーのこと、いろいろ教えてほしい」


『お、教えてっテ……っ』


「お願い! オレ、文字を読むより、耳で聞いた方が覚えやすいんだ! それに、もう悲しむ必要はないよ。アーサーは生まれ変わって、今は幸せに暮らしてるから」


『え?』


 だが、その言葉に、ファードラゴンは目を見開く。


『ア、アーサーが、生まれ変わってる? 本当カ?』


「うん、アーサーは今、日本にいるよ。結婚して、会社員として働いてて、もうすぐ、二人目の赤ちゃんが産まれる」


『は? 結婚!? 赤チャン!?』


 それには驚き、同時に混乱した。

 親友だったアーサーが生まれ変わり、今は日本という異世界にいる。

 しかも、結婚して、子供まで!?


『ほ、本当カ!? 本当にアーサーは!? いや、でも、ナンで、そんなコトを、お前が知ってルんだ!?』


「それは、オレが、だから」


『は?』


「正確には、アーサーの生まれ変わりである『矢神やがみ 皇成こうせい』の子供。でも、オレのお父さん、すごく普通のお父さんでさ。全然、英雄っぽくないんだよ。だから『アーサーの生まれ変わりを演じろ』といわれても、いまいちピンと来なくて……」


 風芽のしっている"アーサーの生まれ変わり"は、普通の"お父さん"だった。


 朝起きたら、あくびしながらパンをほおばってて、仕事から帰ってきたら、風呂で、のんびり歌を歌ってる。


 そして、妻であるお母さんのことを、世界一大切にしていて、一緒にゲームをしたら、息子である風芽に、本気で挑んでくるような、そんな、普通のお父さん。


「だから、シエルたちが言ってる"英雄らしいアーサー"のことは、よく分んなくてさ。だから、教えてほしいんだ。オレのお父さんのの話」


『……っ』


 その話に、ファードラゴンは息を呑む。


 目の前には、親友の子供がいた。

 若くして亡くなった、アーサーの子供が……


 だが、その話に驚いたのは、シエルも同じだった。


(……フーガ様が、アーサー様の子供?)


 信じられなかった。

 なんの力もない普通の子。


 あまりにも頼りなく、守らなくてはならないと思っていた子が、世界を救った英雄の息子だったなんて──

 

『でも、仮にそうだったとシテ、なんでアーサーの子が、ココにいるノダ!?』


 だが、ファードラゴンは、さらにつめよってきて、今度は、リズが答える。


「それは、私が間違って召喚したからよ」


『間違っテ?』


「うん。本当はアーサー様を召喚しようとして、間違えて、フーガを召喚してしまったの」


『アーサーを……? どういうコトだ! ナゼ、アーサーを召喚する必要がアル!?』


 ファードラゴンは、更にリズに問いかける。

 するとリズは、苦々しく表情を歪めながら


「魔族たちが、させようとしてるの」


『え?』

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