第21話 リズラベルの想い


「なんか、私達って、バラバラよね」


 一方、風芽とリズは、のんきにお弁当を食べていた。


 せっかく、シエルが作ってくれたお弁当だ。

 食べずにダメにしてしまうのはもったいない。


 そう思った風芽が『まずは、食べよう!』とリズにすすめれば、リズも、しぶしぶ受け入れた。


 ちなみに、シエルのお弁当は、サンドイッチだった。


 ハムや卵が挟んであったり、ジュウシーなお肉が挟んであったり、種類も豊富。


 そして、そのサンドイッチにかぶりつき、風芽が頬をゆるめる。


「うまい! シエルって、料理も上手なんだな!」


「そうねぇ。シエルは、けっこう、なんでもできるのよね。勉強も、運動も、家事も。おかげで、女子にモテモテで……って、私の話、聞いてた?」


「うん。バラバラなんだろ、オレたち」


「そうよ! 仲間って、もっと気持ちを一つして戦うものじゃない? それなのに……っ」


 お茶を飲みながら、リズが愚痴をこぼす。


 気持ちを一つにするどころか、シエルはたった一人で行ってしまった。


「……やっぱり私は、友達じゃなかったのかなぁ」


「え?」


 そして、リズが深いため息をもらせば、風芽は首をかしげた。


 リズとシエルは、魔法学校アカデミーで、3年間おなじクラスだったらしい。そして、風芽からみれば、二人は、とても仲のいい友達のように見えた。


「友達だろ。すごく仲良いいじゃん」


「そうかなぁ? でも、魔法学校アカデミーにいた頃は、もっと仲良かったのよ。よく喧嘩もしたてし、ライバルなのは変わらないけど、一緒に実験をしたり、わからないことがあったら教え合いっこしたりして、いつも一緒にいたの……だから、私は友達だと思ったんだけどなぁ」


 寂しそうに、リズが呟く。


 王女として生まれたリズは、生まれた時から特別な女の子だった。


 女神の祝福を受け、聖女として産まれ落ち、魔力値も人並み以上に高かったからか、国中から一目置かれていた。


 だが、姫であり、聖女であり、優秀な魔法使い。

 その肩書きは、リズに大きなプレッシャーを与えた。


 失敗は許されず、常に優秀でいなくてはならない。


 だから、魔法学校アカデミーでも、常に一番を取らなくてはと、リズは必死だった。

 

 だが、10歳の時。この国一の有名校・アークライト魔法学園の入学試験の結果を見て、リズは愕然とした。


 一番をとらなくてはならなかったのに、1位をとったのはリズではなく、シエル・ローレンスという孤児院出身の男の子だったからだ。


 そして、2位という大失敗を犯してしまったリズは、悔しさのあたり、シエルに詰め寄った。


『なんで、あなたが一番をとってるのよ! 私が一番じゃなきゃいけなかったのに!?』


 今思えば、とんだ言いがかりだ。

 しかし、そんなリズにシエルは


『あぁ、ごめん。頑張ってるのに、一番をとれなかったら、悔しいよな』


『……っ』


 そう返された瞬間、色々な感情が、ぐちゃぐちゃになって


『そうよぉ! わたし、がんばってるんだからぁっ!』


 そう言って、わんわんと泣き出せば、シエルは困った顔をして慰めてくれた。


 でも、本当に、頑張ったのだ。

 リズは、たくさんたくさん努力していた。


 与えられた"形書き"に、ふさわしいお姫様になれるように──


 でも、二番になったら、少しだけ気が抜けて、同時に『頑張った』と言ってくれたことが嬉しくて、気がつけば、シエルの後ばかり追いかけるようになっていた。


 そして、シエルも、リズのことをお姫様ではなく、普通の同級生として接してくれた。


 名前も『姫様』や『リズラベル様』ではなく『リズ』と愛称で呼んでくれたから。


「でも、魔法学校アカデミーを卒業して、騎士団に入ったかと思ったら、急に『姫様』って呼ぶようになったのよ! しかも、敬語で!? 私は、友達だと思ってたのに、シエルにとっては、友達ではなかったのよ」


「………」


 リズの話を聞きながら、風芽は、またサンドイッチをほうばった。


 リズの気持ちは、なんとなくわかった。


 仲のいい友達が、急に素っ気なくなったら、寂しくもなるだろう。


 だけど、シエルがお弁当は、とてもおいしくて、たくさん優しさがつまってるのが伝わってきた。


 だから、きっと──


「シエルも友達だと思ってるよ。じゃなきゃ、わざわざ弁当まで準備してないよ」


「そうかしら?」


「そうだよ。それに、大事な友達だから、危ないことに巻き込みたくなかったのかも? この洞窟にいる魔物って、B5ランク以上だっていってたし」


「そ、そうだけど……でも、レベルの高い魔物がいるからこそ、二人で戦った方がいいでしょ! 魔法が使えないフーガはともかく、私まで置いていくのは、私のことを信じてない証拠よ! それに、いくら騎士クラスでも、Aランクの魔物を相手にしたら、やられちゃうことだってあるんだから! どうしよう……もし、シエルに何かあったら……っ」


「そっか。じゃぁ、ここから出て、助けに行こう!」


「え?」


 

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