第6話 ビンジョルノの思惑


 ファンファーレが鳴る同時に、パレードが始まった。


 音楽隊の後には、四頭の白馬がひく馬車があった。


 そして、その馬上には、国王であり、リズの父親でもある、ルドルフ・フォン・アークライトが座っていた。


 口ひげをはやした、穏やかそうな紳士だ。


 そして、その横には、勇者服を着た風芽がいて、その馬車のまわりを、第二騎士団であるシエルたちが護衛している。


「勇者様ー! こっち見てー」

「サインくださーい!」


 そして、英雄の生まれ変わりとだけあり、国民たちは、風芽にむかって黄色い声をあげていた。


 そして、そんな国民たちに


「ありがとう! あとで行くから、待っててー!」


 なんていいながら、風芽はブンブンと手を振っていた。


 もちろん、風芽は、"英雄の生まれ変わり"らしく振る舞っているのだが、背後からみつめるシエルには、そうは見えなかった。


(何をしてるんですか、フーガ様。余計なことはするなといいましたよね……?)


 国民たちへの対応は見事だが、誰かれかまわず、約束をとりつける風芽に、シエルは青ざめていた。


 しかも、就任式が終わったら、町へ繰り出すつもりらしい。


 確かに、町の中は、お祭り状態だ。

 風芽が顔を出せば、さらに活気づくだろう。


 しかし、口を開けば開くほど、風芽がニセモノだとバレそうで、シエルは気が気じゃなかった。


 だが、今は護衛の真っ最中。

 国王様の命を守るという大事な任務についている。


 だからこそ、今は、余計なことを考えるべきではなかった。


(まずは、無事に就任式を終わらせなければ──)


 姿勢をただし、列を乱すことなく、シエルは前へ進む。騎士として与えられた任務を、しっかりとこなすために──



 ◇



「おぉ、これは素晴らしい!」


 そして、その一方で、案の定、悪だくみを考えている者がいた。


 就任式が行われる会場の真下。


 地下にある、その場所で、ビンジョルノは歓喜かんきの声をあげていた。


 目の前にあるのは、200年前、勇者が魔王を討ちとった時に使われた──伝説の剣。


 そして、その剣は、200年たった今でも、びることなく、美しい輝きをはなっていた。


 この国の魔法技師まほうぎしたちが、ていねいに磨きあげ、守り続けてきた国宝級の代物だ。


「これが、勇者様の……! 一度でいいから、見てみたいと思っていたのです!!」


 護衛の兵士と二人きり。そして、剣の前に立つビンジョルノは、すごく上機嫌だった。


 しかし、その剣が素晴らしいからこそ、許せないことがあった。


「とはいえ、この国の宝とも言える『勇者の剣』を、あの子に献上するのは、納得がいきませんねぇ……っ」


 ビンジョルノは、苦い顔をして、そういった。


 この剣は、このあと行われる「勇者就任式典」で、風芽に手渡されることになっていた。


 勇者の剣が、200年の時を経て、再び、勇者の元に戻る。


 一見すれば、胸が熱くなるような感動的な儀式だ。


 しかし、勇者が、ニセモノだと知ってるビンジョルノにとっては、これほど腹だたしいことはなかった。


「……宰相様、一体、何をたくらんでいらっしゃるのですか?」


 すると、今度は、ビンジョルノのそばにいる兵士が、神妙な面持ちで問いかけた。


 勇者の剣は、クリスタルでできた石台せきだいに、オブジェのように突き刺さっていた。


 そして、この剣を、風芽が石台から抜き、天にかかげて、この国の平和を宣言をするのだが、ビンジョルノは、しばらく考え込むと


「そうですね……もし、勇者が剣を、国民たちは、何を思うでしょうか?」


「え?」


 地下に、不気味な声が響く。


 すると、ビンジョルノは、剣の前に膝をつき、それを支える石台に手を触れた。


「────」


 そして、音のない声で、何かを呟く。


 すると、その石台は、微かな光を発し、それを見た兵士は、魔法をかけたのだと気づく。


「宰相様、その魔法は……っ」


「簡単な初級魔法ですよ。魔法学校アカデミーの一年生が、最初に習うような。まぁ、魔力値が『測定不能』と出るような素質『0』の子には、一生、解けない魔法ですけどねぇ」


 ククッと、ビンジョルノがほくそえむ。

 これでは、剣を抜きたくても抜けないだろう。


 そして、剣が抜けず、国民たちが騒ぎだしたところで『この子は、英雄の名を語ったニセモノだ!』と言いながら出ていけば、あとは、こちらのもの。


(バカな子ですね。日本に返すと言われた時に、素直に帰ればよかったものを)


 ビンジョルノは、風芽の行く末をなげいた。


 この国──いや、この世界には、各国共通のおきてがあった。


 魔王を倒し、この世界を救った英雄『アーサー・ドレイク』。


 彼は、この世界の人々にとっては、神にも等しい存在。そして、その神の名を語ることは、この世界において、にあたる。


 よって、英雄の名を語った不届き者の末路は、投獄後──死刑。


(まぁ、可愛そうですが、仕方ありませんね)


「宰相様! 何をなさっておられるのですか!?」


 すると、今度は、別の兵士が、かけよってきた。


 剣の見はり番なのか、その兵士は、ビンジョルノは「勝手に触らないでください」と注意をする。すると、ビンジョルノは


「あー、すまないね。伝説の剣を、こんなに間近で見る機会はないものだから」


「気持ちはわかりますが、困ります。この剣は、国の宝ですよ。いくら、宰相様といえど」


「ああ、わかってるよ。じゃぁ、私は、もう戻るとしよう」


 優しい笑顔を貼りつけたビンジョルノは、その後、護衛の兵士と一緒に、地下から出ていった。


「…………」


 だが、そんなビンジョルノたちの姿を、リズのメイドであるルーンが、物陰から、こっそりと見つめていた。

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