第7話 勇者の剣
パレードが終わると、そのまま就任式が始まった。
「勇者就任式典」は、文字通り、英雄の生まれ変わりである風芽を、正式な勇者として任命するために行われる儀式だ。
そして、城の隣にある会場では、国民たちの見守られながら、たんたんと式が進められていた。
きらびやかな祭壇には、風芽と国王のルドルフがいた。
そして、その様子を、王女のリズラベル。宰相のビンジョルノ。さらには、各国から招かれた皇帝や皇女たちが、食い入るように見つめていた。
なぜなら、英雄の再来は、この国だけでなく、世界中の人々が待ち望んでいたことだから。
「あの方が、勇者様なの?」
「驚いた。あんなに幼いなんて」
「でも、とても凛々しいお顔をなさってるわ」
「さすがは、英雄の生まれ変わりだ! フーガ様からは、ただならぬオーラを感じる!」
「やはり、魔王を倒しただけはありますなぁ!」
「フーガ様ぁぁ! 戻ってきてくれて、ありがとうー!!」
大人から子供まで。
この場に集まった全ての人が、風芽に歓声をむける。
なにより、人は、自分が信じたいようにモノを見る。だから、風芽がニセモノだと疑う者は、誰一人としていなかった。
「それでは、只今より、矢神 風芽に『勇者の剣』の
そして、式典は予定通り進み、あっという間に終盤へ。ついに風芽が『勇者の剣』を抜く時がやってきた。
風芽が、祭壇の中央に歩み寄れば、屈強な兵士たちが『勇者の剣』を運んできた。
おごそかな音楽が、場の雰囲気を盛り上げ、国民たちの期待は、一斉に風芽に集中する。
だが、その裏で、酷く焦っている人物がいた。
「え!? 宰相が!?」
それは、剣の進呈が始まるからと、裏にひっこんできたリズだった。
「やっぱり、しかけてきたわね。しかも、『勇者の剣』に魔法をかけるなんて」
「『勇者の剣』にではありません。魔法をかけられているのは、石台の方です」
「石台!? あのクリスタルの?」
「はい。このままでは、フーガ様は剣を抜けません」
ルーンの言葉に、リズは、再び祭壇を見つめた。
祭壇の中央では、剣の前に風芽が立っていた。
もう、一刻の猶予もない。風芽が、あの剣を手にする前に、石台にかけられた魔法を解かなくては!
「宰相の思い通りには、させないから……!」
すると、リズは、すぐさま行動に出る。
胸の前で祈るように手を組めば、リズの髪飾りが、ふわりと羽ばたいた。
ツインテールを彩っている二匹の蝶だ。
そして、それは、金の粉を撒きちらしながら、ひらりひらりと、リズの周りを浮遊し、足元に、金色の魔法陣を刻んでいく。
そして──
『
リズが呪文を唱えると、その瞬間、勇者の剣を支える石台から、バチッと火花のようなものが散った。
(これで、大丈夫……!)
優秀な魔法使いであるリズにとって、あのくらいの初級魔法の解除は朝飯前だった。
そして、その成果を、ルーンが褒め称える。
「さすがです。姫様」
「当然よ。緊張さえしなければ、失敗なんてしないわ!」
誇らしげに、リズが胸をはる。
なにより、これで、ビンジョルノの思惑は打ち砕かれた。リズは、ホッと胸を撫で下ろし、歴史的瞬間を、わくわくした表情で見つめる。
(さぁ、フーガ! 遠慮なく抜いちゃって!)
あの剣を抜き、風芽が宣誓をすれば、就任式は終わる。
そして、この就任式が終われば、風芽は、正式に勇者として認められるのだ。
「え……?」
だが、安心した瞬間、事件は起きる。
人々の注目を集める中、風芽は、剣を手にとった。
しかし、その剣が、なぜか、抜けなかったのだ!
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