第8話 抜けない!?


「え!? なんで?」


 その光景を見て、リズが動揺する。

 かけられた魔法は、しっかり解除したはずだ。

 それなのに、どうして?!


「姫様、やっぱり緊張されて」

「し、してないわ!」


 ルーンの言葉に、リズが反論する。

 もちろん、リズは、しっかりと解除していた。


 だから、これは、風芽側の問題だった。


 なぜなら、その剣は、とてつもなくから!


(うわ、どうしよう!?)


 そして、それには、風芽も焦っていた。

 

 目の前に運ばれてきた剣は、見上げるほど大きく、想像以上に立派な剣だった。


 長さは風芽の身長と、あまり変わらず、しかも、めちゃくちゃ重い。


 だが、シエルには『大丈夫』だと言ってしまった。

 それなのに、剣が抜けなかったら、絶対に怒られる!!


 というか、下手をしたら、勇者じゃないとバレて死刑だ!


(死刑は嫌だ……! 絶対に生きて、日本に帰る)


 すると、フーガは、再び剣を握りしめた。


 ありったけの力を込めて、必死に、石台から抜こうとこころみる。


 だが、フーガの細い腕では、やはりムリな話で、勇者の剣は、びくともしなかった。


(くっ……やっぱ、ダメだ。これ、重すぎる)


 ていうか、アーサーが魔王を倒したのって、確か17歳じゃなかったっけ?


 オレより、7歳も年上じゃん!

 オレも17歳だったら、抜けた気がする!

 いや、せめて14歳だったら!!


 だが、今すぐ成長するのは、どう考えてもムリ。

 となれば、どうするべきか?


(抜くのがムリなら、ぶら下がってみる? よじ登って、体重をかけて見れば、あるいは? いや、でも、そんなマヌケな抜き方、誰が望んでんの?)


 ここは英雄らしく、カッコよく抜く場面だろう。


 なにより、英雄のマヌケな姿を、国民たちに見せるわけにはいなかいのだ!!


「勇者様、どうしたのかしら?」

「なんで抜かないの?」


 すると、国民たちが、ざわつきだした。

 そして、その姿を、リズとシエルが、心配そうに見つめていた。


(フーガ、何やってんのよ!?)

(まさか……剣が抜けないのか?)


 もし、そうだとしたら、大変な事態だ。

 そして、その光景には、宰相のビンジョルノですら、おどろいていた。


(……これは、どういうことだ?)


 ビンジョルノは、石台に魔法をかけ、風芽の邪魔をしていた。しかし、先ほどリズによって、その魔法を【解除リリース】された。


 つまり、今、石台に魔法はかかっていない。

 それなのに、なぜか風芽は、剣を抜かないのだ。


(ま、まさか……抜けないのか!?)


 あまりの出来事に、ビンジョルノは、衝撃をうけた。


 もしかして、魔法をかける必要なかった!?

 完全に、無駄なことをしてた!?


(くっ……こんな屈辱は、初めてだ! しかも、あそこまで非力だとは。やはり、あの子に、英雄の代わりが務まるはずがない!)


 そして、それと同時に、ビンジョルノは、風芽を哀れむ。


 国民たちは、あの少年のどこかに、魔王に匹敵するほどの力を宿していると思っているのだろう。


 しかし、そんなものあるはずがない。


 あの子は、英雄の素質『0』の、普通の少年でしかないのだから──


(……残念です、フーガ君。君の英雄ごっこは、ここまでだ)


 すると、ビンジョルノは、フーガはニセモノだと暴露しようとする。だが、その時──


「フーガ君!」


 と、今度は、国王が声を上げた。


風芽と同じ祭壇上にいる国王ルドルフ。

 彼は、風芽が、ニセモノだとは知らなかった。


 これは、国王ルドルフの娘であるリズラベルが、失敗したことを、父に知られたくなかったからだ。


 そして、何も知らない国王は、さらに言葉をつづける。


「どうしたんだい。早く抜きたまえ。その剣は、200年前に、君が使っていたものだ。そして、今世でも、君の武器になる」


「武器?」


 その言葉に、風芽は、あらためて『勇者の剣』を見つめた。


 確かに、勇者に剣は必要だろう。

 武器がないと、戦えないから。


 だが、その後、風芽は握りしめていた剣から、サッと手を離した。


 その姿に、国民たちが困惑する。

 いや、国民だけじゃない。

 国王も、リズも、シエルも、ビンジョルノも。

 その場にいる誰もが、風芽の行動に困惑していた。


 なぜ、手を離したのか?

 一体、何をしているのか?


 するとフーガは、スッと息を吸ったあと


「勇者の剣は、


 そう、はっきりと宣言した。

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