第9話 一難去って、また一難


 そして、それは、想像もしていなかった言葉で、人々は耳を疑った。

 

 今なんといった?

 いらない?

 あの伝説の剣を!?


 すると、会場の中は、シンと静まり返り、風芽は、そんな国民たちにむけて、落ち着いた表情で話し始めた。


「みんな、聞いてほしい。オレは、200年前に、この剣を使って、魔王を倒した」


 風雅は、とても堂々としていた。

 そして、堂々とをついていた。


 本当は、200年前のことなんて、しらないし。

 魔王も倒したことないし。

 英雄の生まれ変わりですらない。


 だが、ここは、、乗り越えなくてはならなかった。


 だって、剣が抜けないから!!


「でも、その戦いでオレは亡くなって、そのあと、日本という国で、生まれ変わった。でも、そこは、とても恐ろしい国だったんだ。二次元というバーチャルな世界があって、そこには鬼や悪魔、ソンビやモンスターといった、恐ろしい魔物たちが、たくさんいた。そして、そいつらは、オレを食い殺そうと襲いかかってきた」


 ざわっ。

 国民たちが、肩を震わせる。


「お、鬼ってなに?」


「ゾンビなんて、聞いたこともないわ」


「でも、名前を聞いただけで、とてつもなく恐ろしいものだということはわかる……っ」


「勇者様って、そんな恐ろしい国からきたの?」


 国民たちは、みな怯えていた。

 きっと頭の中では、それはそれは恐ろしい光景が浮かんでいることだろう。


 だが、風芽は、そんな国民たちに向けて


「でも、安心してほしい。オレは、その鬼やゾンビを、倒したことがある」

 

「「ゆ、指だけで!?」」

 

 瞬間、恐怖が、驚きに変わった。

 鬼やゾンビといった、恐ろしく凶悪な魔物たち。

 それを、指だけで倒したというのだから!


「さ、さすが、勇者様だわ! 指だけで魔物を倒すなんて」


「しかも、あんなに小さい体で!」


「やっぱり英雄の生まれ変わりは、本当だったんだ!」


「それに、指だけで倒せるなら、勇者の剣だって必要ないぞ!」


「そうか! だから、フーガ様は『いらない』って言ったんだな!?」


 人々の表情は、みるみるうちに明るくなり、新たな勇者への期待でいっぱいになった。


 ちなみに、今の話は、けっして嘘ではない。


 風芽は、日本で、よく友達やお父さんとゲームをしていた。


 そして、そのゲームの中で、たくさんの鬼やモンスターを倒したことがある。そう、指でコントローラーを操作しながら!


「勇者さまー!」

「やっぱりフーガ様は、最強だ!!」


 だが、国民たちは、そんな風芽の話を信じたらしい。

 会場内は、再び、明るい声に包まれた。

 なにより、これで『勇者の剣』を抜くことなく、式典を終えられそうだった。

 しかし、そのあと、話は、思わぬ方向に発展していく。


「なぁ、これだけ強いなら、西も倒せるんじゃないか!?」


「そうだわ! 旅に出る前に、フーガ様に倒してもらいましょう!」


「ん??」


 どうくつ? まもの??


 なにやら、国民たちが、よくわからない話をはじめた。


 なんでも、アステラ王国の近くの山に洞窟があり、その奥に、恐ろしい魔物が住みついているらしい。


 そして、それは、どう考えても、本物の魔物の話だった。

 そう、決してゲームの話ではなく──


「フーガ様、魔物を倒してくださいませんか?!」


討伐とうばつに行ったハンターたちが、何人もやられてるんです!」


「そのうち魔物が、洞窟から出てくるかもしれねぇ!」


「勇者様、お願いしますっ!!」


 おや?

 これは、とんでもない話になってきた。


 しかも、国民たちの期待は、想像以上に高まり、風芽に向ける眼差しは、宝石のようにキラキラと輝いていた。


 そして、こうなってしまうと、風芽が出す答えは、ひとつしかなかった。


「わ、わかった! 洞窟に住む魔物は、オレが倒してくる!」


「「うおおぉぉ、フーガさまぁぁぁ!!!!」


 高らかに宣言すれば、国民たちは、歓喜の声をあげ、バンザイをはじめた。


 だが、勝手に『魔物を討伐する』という約束を取り付けてしまった風芽を見て


(フーガ、なにやってんのよ!?)

(っ……最悪だ)


 リズとシエルは、頭を抱えるしかなかった。

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