【最終章】英雄の子

第23話 魔物の正体


 ド────ン!!


 その頃、シエルは、三体目の魔物を倒していた。


 やはり、ねぐらになっていたのか、次から次へと魔物に遭遇する。


 しかも、目的の魔物には出会えず、シエルは汗を拭いながら、さらに奥を見据えた。


 そして、その奥には、深い谷があった。

 地獄の入口かと言いたくなるくらいの不気味な谷だ。


(いるとしたら、この先か……?)


 目的の魔物がいるなら、ここだろうとシエルは的を絞った。だが、いまだに魔物の正体は、分からないままだ。


 無鉄砲に突っ込んで行くわけにはいかないが、どうしたものか?


 しかし、大型の魔物ばかり相手にしていたからか、じわじわと、体力は削られていた。


 できるなら、早めに見つけて、退治しなければ。


『ギャォァァァァァァァ!!!』

「!?」


 瞬間、背後から、また魔物が攻めてきた。


 今度は、大型のムカデだ。

 カサカサと地面をはうムカデは、容赦なくシエルに向かってくる。


氷河グレイシア!」


 避けると同時に、シエルは、ムカデに魔法をかけた。

 氷漬けにする、氷結魔法だ。


 すると、ムカデは、あっという間に、氷河の中に閉じ込められ、シエルは地面に着地する。


 ズルッ──!!


「ッ!!?」

 

 だが、その瞬間、足場が崩れた。

 深い谷の中に、吸い寄せられるように、落ちていく。


(く、まずい……!) 


 どのくらいの深さなのか?

 先が見えないから、よく分からなかった。


 だが、この高さから落ちたら、骨折くらいはするだろう。すると、シエルは、再び呪文を唱え、着地の衝撃に備えた。


 ──ボブっ!!


「?」


 だが、その後、着地した場所は、硬い地面でも、鋭い岩の上でもなく、もふもふと柔らかな場所だった。


(何だ、これ?)


 とても柔らかい。手で確かめてみれば、まるで、羊や馬を撫でているような感触だった。


 だが、その瞬間、シエルはリズの言葉を思い出す。


 たしか、西の洞窟にすむ魔物は、だったと。


(ッ──まさか!?)


 瞬間、シエルは、その場から退いた。


 魔物の背に乗っていたのだとしたら、恐ろしい自体だ。そして、シエルは剣を構え、奥でうずくまる魔物の正体を確認する。だが、その時


『ギャォァァァァァァァォォ!!!』


「ッ!?」


 魔物が雄たけびをあげた瞬間、シエルは、ガクッと膝を着いた。


 ビリビリと体がしびれる感覚。

 嫌な汗が流れ、おびえているのか、体が言うことを聞かなくなる。


 それに、この魔物は、さっきまでのザコとは全く違う。


 いや、、どの魔物よりも──


(な、なんだ……この威圧感……っ)


『また来たタか、人間どもメ』


「……っ」


 そして、魔物が口を聞いた瞬間、シエルはゴクリと息をのんだ。


 喋る魔物なんて、見たことがなかった。

 それに、あんなウワサただの迷信だと思っていた。


(まさか、この魔物……Sか……!)




◇◇◇



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!」


 一方、鳥カゴから脱出したリズと風芽は、洞窟の中にいた。


 リズの魔法のつえを、ほうき代わりにまたがり、二人は、洞窟の中を猛スピードで飛んでいく。


 そして、その後ろには、巨大なクモがいた。

 赤黒いクモは、きっと毒グモだろう。


 そして、その巨大グモに追いかけられているリズは、ずっと悲鳴をあげていた。


「やだぁぁぁ! もう、気持ち悪ーい!! フーガ、何とかしてよ!?」

 

「何とかって……オレ、飛びながらだと、ギターは弾けない」


「うそ!? 何よ、その弱点!?」


 さっき、あんな技を見せてくれたのに、どうやら、飛びながらでは無理らしい。


 だが、それも無理はない。

 だって、ギターは、両手を使って弾く楽器だから!


 そんなわけで、不安定な場所では、どうしたって、弾けるものではなかった。


「ていうか、なんで追っかけてくるのよ、あのクモ!? 私、ちっちゃいクモですら苦手なのにー!」


「多分、リズのを、狙ってきてるじゃない?」


「ウソでしょ!? この子達は、私の大事な精霊たちなのに! クモのエサにしてたまるもんですか!?」


 リズたちの前には、ヒラヒラとまう蝶がいた。

 いつも、リズが髪飾りとしてつけている蝶だ。


 そして、その蝶は、今は、シエルの元に案内をしてくれている。


 先程、リズがシエルとフーガにあげたブローチは、はぐれた時には、発信器がわりになるものだった。


 だから、シエルのブローチを目指して、蝶たちは飛んでいるのだが……


「ねぇ、リズ! あのクモなんか出してるよ!」

「えぇ!?」


 すると、背後のクモを見て、風芽が叫んだ。


 みれば、そのクモは、口元から糸のようなものをつむいでいた。しかも、その糸を


 シュパッ!!


「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」


 いきなり、矢のように放たれ、風芽とリズは叫んだ。


 粘着力のある糸は、洞窟の壁にへばりついていた。

 あんなのに当たったら、身動きが取れなくなる!


「フーガ、しっかり掴まっててね! 振り落とされたら、死ぬわよ!?」


「わかってる!」


 洞窟の中は、狭くて、いびつだった。


 だが、そんな洞窟の中を、リズは、蜘蛛の糸をよけながら、縫うように飛んでいく。


 だが、さすがに、逃げてばかりでは、らちがあかなくない。


「リズ! どうすんの!? このままじゃ捕まるよ!」


「分かってるわよ! フーガ、私のバッグから、紫の瓶を出して!」


「紫?」


 そう言われ、後ろにいたフーガは、リズのバッグの中から、紫の瓶を取りだした。


 小さくて、キラキラと光るオシャレな瓶だ。


「ありがとう! 毒グモには、猛毒で撃退よ!」


 そう言ったリズは、その瓶を受け取ると同時に、毒の効力を強める強化魔法をかけた。


 そしてそれを、クモめがけて放てば、巨大グモは


『ピギャァァァァォァァァ!!!』


 と、大きな叫び声を上げて、ひっくり返り、うまく撃退できたらしい。


「やったの!?」

「えぇ! 今のうちに、シエルの元に急ぐわよ!」


 その後、二人は、すぐさま、シエルの元へ向かう。


 蝶に導かれるまま、暗い洞窟の中を進むと、その先に、氷漬けにされたムカデと、深い谷が見えてきた。


 しかし、その蝶は、谷の中へと向かっていき、二人は、ちょっと不安にある。


 大丈夫だろうか?


 だが、蝶が向かっているということは、この先にシエルがいるのは間違いない。


 二人は、意を決して、その奥へと進んでいく。

 

 すると、ひらひらと谷底まで誘導した蝶は、ある場所で止まった。


「シエル……?」


 だが、そこで目にしたのは、傷だらけになったシエルの姿だった。

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