第15話 才能の種


「えぇ、それは困るよ! 魔力0でも弾きたい! 何とかならないの!?」


 だが、それでも風芽は、諦めず


「はぁ?! お前さん、魔力0なのか!?」


「うん、測定不能って言われた。でも弾きたい! だから、何とかして!」


 それは、かなりの無茶ぶりだった。

 ないものを、どうしろというのか?!

 すると、おじいさんは


「まぁ、あるにはある。法力ほうりき使いになればいい」


「法力使い?」


「そうじゃ。魔力は、元々、魂に宿るものでのぅ。生まれた時には、ある程度の魔力値が決まってるんじゃ。そして、その魔力値が60以上ある者は、魔法の才能があるとされ『魔法使い』になれる」


「へー」


「じゃが、それ以下の者たちは、才能がないとされて、魔法使いにはなれん。じゃが、今は魔法社会じゃからのぅ。魔法の才能がなくても、魔法を使う仕事に就きたいと言う者も多くてな。だから、そんな子らは、特級クラスの魔導師に弟子入りして『法力』をさずけてもらうんじゃ。そうすれば、魔力値が上乗せされて、簡単な魔法なら使うことができる」


「そうなんだ! じゃぁ、俺も特級魔導師に弟子入りして、法力を授けて貰えばいいんだな! わかった! 今すぐ魔導師を見つけて」


「コラまて、最後まで聞け! さっきも言ったが、魔楽器はとても扱いの難しい楽器じゃ。才能のある魔法使いですら扱えんわ。だから、法力使いでは、どの道」


「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃん!」


「前向きだのう。ここまで言っても諦めんのか?」


「うん、諦めない。だって俺、ギターを弾くようになってから、自分に自信を持てるようになったんだ」


「自信?」


「うん。オレ、運動も勉強もできなくて、ずっと自分のことをダメな子だと思ってたんだけど、ギターを弾けるようになってから、自分のことを好きになれたんだ」


 昔、何をやってもダメで落ち込んでいた時、お父さんが話してくれたことがあった。


『風芽。人は、出来ることよりも、出来ないことの方がたくさんあるんだ。それは、どんな優秀な人だって同じ。だから、風芽は何もできないんじゃなくて、まだ、できることを見つけられないだけ』


『見つけられないだけ?』


『そう、できないことの方が多いけど、できることも必ずある。だから、お前の才能は、まだ芽が出てないだけだ』


『芽が出てない?』


『そう。だから、まずは、そのたねをみつけてみろ。才能の種はな、楽しいって気持ちの中で育つんだ。だから、まずは色々挑戦して、楽しいと思えることを見つける。そうすれば、いつか、その芽が成長して、大きな花を咲かせるかもしれない。だから、自分はダメな子だなんて言って、その芽を潰そうとするな。風芽の才能の種は、見つけてもらえるのを、ずっと待ってるんだからな?』


 そう言って、頭を撫でてくれた、お父さんは、オレのことを『ダメな子』とは、絶対に言わなかった。


 そして、それからは、できないと決めつけず、まずはやってみることにした。


 それでも、本を読めば三行で飽きるし、サッカーやバスケをしても楽しくないし、できないことは、相変わらずたくさんあったけど、それでも続けていたら、ある日、ギターと出会った。


 お父さんのお友達の家に行った時、たまたま目にしたギターを弾いてみたいといったら、お兄さんが弾かせてくれた。


 そして、ギターを弾いた瞬間、全身が痺れるような感覚があった。


 すごく楽しかった。


 ただ、音を出しただけなのに、もっともっと上手くなりたい!


 そう思うようになって、気づいたら、ギターにのめり込んでいた。


「オレ、ギターを弾いてると、前向きになれるんだ。誰かにバカにされても落ち込まなくなったし、笑って流せるようにもなった」


 そして、その日々を思い出しながら、風芽は、誇らしげに答える。


「だから、オレがオレらしくいるためにも、ギターは必要なものなんだ。だから、なにがあっても弾きたい。そこのためだったら、どんなことだって挑戦する」


 例え、魔力が0だといわれても、やってみなきゃわからない。


 だって、初めからできないと決めつけていたら、何も生まれないし、何も変わらない。


「だから、まずは、やってみたい! ギターだって、英雄だって、どんなに反対されても、やる前から諦めたくない」


「はっはっは! 面白い子じゃのう」


 すると、おじいさんは、豪快に笑いだした。


「さっきまで弱音を吐いちょったくせに、ギターを弾けるとわかった瞬間、本当に前向きになりおったわ」


「げっ! やっぱ、さっきの聞いてた!?」


「あぁ、聞いておったわ。まぁ、英雄と言っても人間じゃ。弱音くらい吐くじゃろう。それに、ワシは、お前さんが、可哀想でのぅ」


「可哀想?」


「あぁ、アーサー・ドレイクは、もう死んだ人間じゃ。それなのに、死んで生まれ変わったあとも、こうして、世界のために戦えと召喚される。ワシが、お前さんなら『ふざけるな』とどなりつけとるわ」


「………」


 それには、確かに、納得する部分があった。


 勝手に期待されて、勝手に召喚されて。

 アーサーにとっては、いい迷惑かもしれない。


 すると、おじいさんは、さらに続けた。


「しかも、召喚された英雄が10歳だと聞いた時は、全く喜べんかった。お前さんは、なんで勇者を引き受けたんじゃ。前世で縁があったとはいえ、今のお前さんにとっては、なんの思い入れもない世界じゃろう」


 確かに、そうかもしれない。

 ここは、全く知らない世界で、全く知らない人たちで、助ける義理なんて、本当はないのかもしれない。


 でも──


「守りたいものがあるんだ!」


「守りたいもの?」


「うん! それにさ、オレが召喚された時、大人たちが、みんなしてリズを責めはじめたんだよ。失敗したことにたいして『肝心の時に、役に立たないダメなお姫様だ』って。リズは、泣き出して何度も謝ってて、それを見てたら頭にきてさ。『オレがアーサーの代わりになってやる』っていっちゃった」


「………」


「あ!?」


 しまった!!

 今、とんでもないことを言った気がする!?


「お前さん、アーサーの生まれ変わりじゃなかったか?」


「いや、あの……今のなし! 忘れて!! 今すぐ忘れて!!」


「無理じゃ。まぁ、魔力が0って言われた時から、おかしいとは思ってたけどのぅ」


「あぁぁぁぁぁあ!?」


 なんか、墓穴をほってばかりだ!

 しかも、これはヤバイ気がする!?

 だって、ニセモノだってバレたら、死刑だし!


「あの、オレ……もしかして、死刑になる?」


「はっはっは。心配せんでも誰にも言わんわ。お前さんのことは、よう分かったからのぅ」


 すると、おじいさんは、風芽から離れ、壁際に飾られ魔楽器ギターを手に取った。


 少し埃の被ったギターを、丁寧に手入れすると、おじいさんは、それを風芽にさしだす。


「『法力』なら、ワシが授けてやろう」


「え?」


「特級魔導師なら、ここにおるわ。ただし、ワシの修行は、死ぬほど厳しいぞ」


 ギターを手にした風芽は、久しぶりに手にしたその重みに、感動する。


 そして、そんな風芽の瞳に、迷いは一切なく


「うん! よろしくお願いします!」

 

 そう言った、風芽の心は、さっさまでの不安が嘘のように、明るい方へと移り変わっていた。

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