第2話 勇者の付き人



「なるほど。それで、王室御用達の仕立て屋が、6店も増えたることになったのですね」


 その後、勇者服に着替えた風芽は、後から、やってきた少年に苦い顔をされていた。


 爽やかな水色の髪に、品のある顔立ち。


 風芽よりも、頭ふたつ分ほど身長の高い、この少年の名前は──シエル・ローレンス。14歳。


 濃紺の騎士姿でたたずむシエルは、とても凛々しく優秀な少年だった。


 なんでも、このアステラ王国一の有名校・アークライト魔法学園の5年間にも渡るカリキュラムを、たった3年で習得したほどの秀才なのだ。


 しかも、剣技だけでなく、法力ほうりきにもすぐれ、この若さで、国の警備や治安を維持する『第二騎士団』に所属するほど。


 そして、その優秀さゆえに、この度、として、風芽のそばに仕えることになったのだが──


「シエル! オレ、勇者に見える?」


 職人たちが仕立てた勇者服を見せながら、風芽が、笑顔でといかける。


 無邪気な風芽は、ゲームの主人公のようにカッコイイ勇者服を、かなり気にいっているようだった。


 それに『勇者に見えるか?』と聞かれたら、間違いなく見える。


 質のいい黒のマントと、特別素材のブーツ。


 そして、深紅色のころもには、王家の紋章が刺繍されており、そこにいるのは、小さいながらも完璧な勇者だった。


 しかし、そんな風芽を見て、シエルは深くため息をつく。


「……フーガ様、もう少し勇者らしく、振る舞えませんか?」


「え? 勇者らしく?」


「はい。アーサー様は、この世界を救った英雄ですよ。そんなに、ヘラヘラしてるわけがないでしょう」


「ヘラヘラ!?」


「はい。なので凛々しく、それでいて、堂々としていてください。……というか、俺が持ってきた『アーサー・ドレイクの伝説(全16巻)』ちゃんと読みました?」


「…………」


 シエルの言葉に、風芽は、部屋の隅にある机を、そろりと見つめた。


 そこには、厚さ5センチほどの分厚い本が、大量に積み重なっていた。


 付き人に任命された時に、シエルが持ってきた本だ。そして、それを見て風芽は

 

「えーと……3行ぐらい?」


「3行!?」


「だって、オレ、本読むの苦手なんだって!? それに、あんな鈍器みたいな本、16冊も読めって、どんな拷問!? 夏休みの宿題より、ヤバいじゃん!」


「拷問って……なんてこと言うんですか!? あの本は、英雄であるアーサー様の半生をつづった貴重な伝記ですよ! 俺は、あんなにも熱く涙する書物を読んだことがない!」


「シエルって、ほんと、アーサーが好きなんだな?」


 見た目はクールで、女子から黄色い悲鳴が上がるほどのイケメンなのだが、シエルは、アーサーの話になると、人が変わったように熱くなる。


 まぁ、簡単にいえば、超がつくほどのアーサーファンなのだ。


「アーサーって、そんなにすごいの?」


「すごいなんてものじゃありませんよ。前にも話しましたが、200年前、この世界は、魔王軍の侵略により暗黒の時代を迎えていたんです。でも、その混沌とする時代を、アーサー様が終わらせてくれた。今、この国が平和でいられるのは、全ては、魔王を倒してくださったアーサー様のおかげです」


「へー」


「へー……じゃないでしょう!? もっとこう、なにかあるでしょう、色々と!?」


「そんなこと言ったって、いまいちピンとこないというか?」


「はぁー」


 すると、シエルは、さらに深いため息をついた。


 この一週間、シエルは風芽に、アーサーの話をし続けてきた。しかし、何を話しても、風芽には、アーサーのすごさが伝わらないのだ。


 しかし、関心がないのも無理はないのかもしれない。なぜなら、風芽は


「まぁ、仕方ありませんね。あなたは、アーサー様のなんですから」

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