第3話 バレてはいけない!


 二人きりの室内に、シエルの声が響く。


 アーサー様のニセモノ──これが、どのような意味が、おわかりいただけるだろうか?


 今、風芽は『英雄の生まれ変わり』として、国中の人々から、ちやほやされている。


 だが、本当は、


 そして、そのニセモノを見つめ、シエルは、ガクッと肩を落とす。


 シエルにとって、アーサーは憧れだった。


 強くたくましく、誰よりも勇敢ゆうかんで優しい勇者様。

 

 そして、その憧れの人に、少しでも近づこうと、たくさん努力してきた。


 剣術だけでなく、法力も極め、アカデミーを飛び級で卒業したあとは、国家試験を受け、第二騎士団に入団した。

 

 そして、そんな時に、200年前の英雄、アーサー・ドレイクが、異世界で転生している話を聞いたのだ。


 そして、その生まれ変わりである少年を、このユース・レクリアに召喚したことも。


 その話を聞いた時は、心が震えた。

 アーサー様に会える。

 憧れの人に、仕えることができる。


 だが、実際に現れたのは憧れの人ではなく、自分より4つも年下の非力な男の子だった。


 そして、シエルに任せられた任務は、風芽が、ニセモノだとバレないようサポートすること。


 ちなみに、この話は、一部の者しか知らない、超・極秘事項となっている。


「うーん、確かにオレはニセモノだけど。でも、仕方ねーじゃん。召喚されちまったもんは!」


「……………」


 だが、そこに、また風芽の明るい声がひびいて、シエルは、なんとも言えない表情を浮かべた。


 軽い! 軽すぎる!

 だが、確かに間違えしまったものは、仕方のないことで……


「わかってますよ。姫様だって、失敗するつもりはなかったでしょうし。でも、アーサー様のフリをするというなら、もっと、アーサー様らしてください」


「アーサーらしくねぇ?」


「それと、フーガ様。余計なことは絶対にしないでくださいね。勇者じゃないってバレたら、大変なことになりますから」


「そんなこと言ったって、200年前も前の英雄のことなんて、何もしらねーし」


「だから、といってるんでしょう!? あの本を!!」


「あぁぁ、また、その話!? だからオレは、本読むの苦手なんだって! それに、読めといわれたら、よけいに読みたくなくなるんだからな!」


「ワガママいわないでください! あー、それにほら、髪だってボサボサになってるじゃないですか!?」


「わっ!?」


 すると、風芽の髪が乱れているのに気づいたらしい。シエルは、無理やり風芽をイスに座らせた。


「その髪で、式典に出すわけにはいきませんので、すぐに結び直します」


「え? シエル、三つ編みできるの?」


「できますよ。妹がいたので、よく編んであげていました」


「そうなんだ! 実はさ、俺も、もうすぐ妹が産まれるんだ!」


 無邪気に笑う風芽の話を聞きながら、シエルは、ドレッサーから、くしを持ってきて、風芽の髪をとかす。


 すると、それからしばらくして、式典に向かう時刻がやってきた。


 しっかりと三つ編みを整えた風芽は、シエルと一緒に部屋から出ると、赤いじゅうたんが敷かれた城の廊下を、早足で進んでいく。


 すると、最後の確認とでもいうように、シエルが、式典について話し始めた。


「フーガ様には、まずパレードに参加していただきます」


「パレード?」


「はい。国民たちへのお披露目もかねたパレードです。俺も護衛として付き添いますが、フーガ様には、まず国王様と一緒に馬車に乗り、町を一周して頂きます。その後、就任式を行いますが、式典の段取りは、ちゃんと覚えていますか?」


「うん、覚えてる。偉い人の話を何人か聞いたあと、最後に『勇者の剣』を抜いて、宣誓せんせいするんだろ」


「はい。この国の平和を願う大切な儀式です。くれぐれも失敗はしないでください」


「わかった!」


「……本当に、大丈夫ですか?」


「うん! 大丈」


 ──ドン!!


 だが、その瞬間、風芽は何かにぶつかった。


 廊下の先を、曲がった瞬間だ。


 そして、大きく突き飛ばされた風芽は、床に倒れ込み尻もちをついた。


「痛ってー」

「大丈夫ですか、フーガ様!?」


 床に膝をつき、シエルが、慌てて声をかける。


 だが、それと同時に、二人の前にが立ちはだかった。

 

 40歳くらいのヒゲ面の男だ。


 ヒョロりと背の高く、キツネのような顔をした男は、風芽を見るなり


「これはこれは、勇者様。小さすぎて、踏みつぶすところでした」


 と、まるで見下すような言葉をかけてきた。

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