21.たのしい地雷探査
~よくわかるあらすじ~
なんか地雷原でウロウロする事になったので死なないように頑張ろう!
でもどこに地雷が埋まってるのかはそこまでよくわかっていないぞ!
でも頑張らないとたぶん死ぬぞ!とりあえず頑張ろう!
だいたいこんな感じである。帰りたい。
しかしながら喜多上アンナさんは相変わらず凄い目で俺を見ているのでそういう訳にもいかない。
半端に投げ出せば、俺とイケメン共との間には人様に言えない類の何かがあると認めているようなものだった。
「……えー、昨日、ワタシが生徒会長に呼び出されたのは――」
覚悟を決め、俺はまず生徒会長についての独り言を漏らす。
昼休みに佐々木さんに伝えたのと概ね同じ内容を、ナレーションじみた抑揚で
形だけとはいえ、会長から口説かれた事を馬鹿正直に漏らす程愚かではない。会長の想い人についても同様だ。
一通り語り終えた俺は喜多上さんをチラ見した。
「…………」
無言である。
相変わらず微笑んでいるが、目元だけ氷河期に置き去りにされている。
俺は凍える心を奮い立たせる為、人のぬくもりを求めて佐々木さんに声をかけた。
「――というワケなんだ。ねっ!佐々木さん!」
「えっ。アッ、はいっ」
うん、ありがとう。ほんの一瞬でも心が暖まった。
気分はさながらマッチ売りの少女である。
喜多上さんは黙っている。
とはいえ俺が必死に独り言を続けている最中も一切リアクションが無かった事からも、あのポンコツ生徒会長が彼女にとっての地雷では無い事だけは辛うじて読み取る事が出来た。
そうなるともう間違いない。
俺は、細心の注意を払いつつ、その地雷へ棒を振り上げる。
「……で。は、話は変わるんだけども……ワタシと佐々木さんと同じ中学出身の、中沢――」
――刹那。
全身の毛穴が一斉に
頭頂から爪先へかけて鳥肌が
それは、取り繕う事の無い剥き出しの敵意に対する原始的な防衛反応であった。
この身に一体何が起きているのかを理解したのは、喜多上さんの顔を見た
レンの名前を出した途端、彼女が先程まで纏っていた薄氷のようなベールは砕け散り、微笑すら消失したその顔には虚ろな
深淵のようなそれが、ただただこちらを向いていた。
「――ヒュッ……」
悲鳴が漏れそうになった。
俺の心臓はあまりの恐怖に暴れ回っており、まるでそのまま体内から逃げ出そうとしているのではないかとすら思えた。
ふと、佐々木さんの顔が視界に写る。
もう普通に泣いていた。声も出せないまま、涙だけが断続的に頬を伝って落ちている。
それ程に恐怖を煽る
これは、あれだ。
護身を優先しよう。もう建前とか言ってる場合じゃないと思う。
俺は全力で身の潔白を証明する事を最優先目標とした。
体育祭の選手宣誓のように一歩前に出ると、背筋と右手の指先を
「宣誓!これだけはもうはっきりと申し上げておきますが、ワタシは決して同級生の皆さまの男女関係、特に!中沢レンとその身辺に於ける恋愛事情について一切関与致しません!またワタシが中沢レンに対しそういった感情を抱く事は断じてあり得ません。誓います。神に誓います!」
終盤は最早絶叫に近かった。プライドとか矜持とか一切ない。
真に命乞いするような
喜多上さんはそんな俺を相変わらず無言で凝視している。
表情に変化はない。しかし、確実に空気は軟化した。
相変わらず鳥肌は立ちっぱなしだが、先程までの全身をアイスピックで突っつかれているような、物騒な気配は鳴りを潜めている。
そのまま固まっている俺を見つつ、喜多上さんが再び微笑んだ。
俺の心臓はタップダンスを踊っているし、佐々木さんはポケットからハンカチを取り出し、震える手で鼻をかんでいる。ガチ泣きである。
「一体、何のお話をしていらっしゃるのかは、私には分かりかねますが――」
喜多上さんは白々しくもそう言いつつ、こちらへ歩み寄ってきた。
右手を上げたまま石のように固まっている俺の横まで来て、左肩に手を置く。
その端正な顔を耳元へと寄せた彼女は、鈴の鳴るような美しい声で、こう囁いた。
「――嘘吐きは嫌いなので、私たちがずっとお友達でいられるよう……気をつけてくださいね」
これまでの人生で最も恐ろしい時間は、そのようにして終わった。
地雷じゃなくてツァーリ・ボンバですわ、あれ。
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