12.たのしい自己紹介
A組の面々はレンの犠牲の甲斐あって、一人も欠ける事なく教室へ帰りついていた。いやそもそも部活の勧誘で犠牲者が出るのがおかしい。
HRではおおまかな今後の予定、時間割、特に注意すべき校則についての説明等が行われた。
特に気になった点として、今週の後半に早速小テストを実施するらしい。これによって現時点での大まかな実力を測るようだ。
一応は学年副首席とはいえ、前世では落ちこぼれもいいところだったので慢心する事なく臨まねばと気を引き締める。
「説明は以上です。何か質問はありますか?何もなければこの後は皆さんに自己紹介を……」
一通り説明を終えた森木先生が確認する。
特に何もなかったので黙っていると、背後の井上さんが手を上げた。
「自己紹介の前に先生のプロフィールが知りたいです!」
見ると、井上さんは人懐っこい笑みを浮かべていた。肝が据わってるなぁ……。
それを受けてクラスに同調の声が広がる。彼女の人柄はクラスにすっかり馴染んでいるらしい。
俺も思わずにやけながら森木先生の顔を見る。
「……え、えーと、私ですか。プロフィールというと、具体的には?」
森木先生は困惑していた。
井上さんは首を傾げつつ、答えて欲しい事を挙げていく。
「んー、そうですね。年齢とか、趣味とか……あっ、結婚してますか!?」
「……森木ユウゾウ、42歳です。趣味はドライブで、既婚者です」
「おぉ~、良いですね。ちなみに奥さんはお一人ですか?」
「いえ……二人です。娘と息子が一人ずついます……あの、このくらいで勘弁してください」
森木先生の意外とシャイな反応を受け、クラス内に小さく歓声が上がる。
こんな風に持て囃される事にあまり慣れていないのか、森木先生は少し照れ臭そうだった。
「……えー、では。今度は皆さんの番という事で。安城さんから順番に自己紹介をお願いします」
「あっはい」
森木先生が恥じらいを誤魔化すように自己紹介を振る。
先生と井上さんが体を張って和やかな空気を作ってくれていたので、正直とても有難い。
俺は立ち上がり、浮ついた空気が少しだけ落ち着くのを見計らってから声を出した。
「安城ナツメです。中学ではバドミントンやってました。ここはバド部が無いので、入る部活は決めかねてたんですが、今朝の勧誘で一番好印象だった帰宅部にしようかと思ってます。よろしく」
拍手と共に小さく笑い声が上がる。
よしよし、ちょっとウケたな。感触は悪くない。こういうのでいいんだよこういうので。
彼女募集とか言わなくていいんだ。陽気なイケメン以外には許されないから……。
おっとまずい。別の事を考えよう。
高校の自己紹介にまつわる前世の黒歴史を思い出しそうになったので慌てて思考を切り替えた。静まり返ったクラスとまばらな拍手……あーあーなにも覚えてない知らない。
心臓がバクバク言ってる。自己紹介前に思い出さなくて良かった。マジで。
そんな事を考えていると、井上さんが立ち上がり、笑顔でクラスを見渡した。
「井上ミカです!イケメンが好きです!みんな宜しく!」
歓声と拍手に包まれる。男女問わず皆にこやかだ。
うーん、俺よりウケてらっしゃる。ちょっとだけ恥ずかしいので大きめの拍手で誤魔化した。
その後も和やかな空気で自己紹介は進んでいった。
若干滑ったりそれなりにウケたりと様々であったが、それぞれの個性が垣間見える平和な自己紹介だった。
少なくとも、彼女募集とか言ってクラスが静まり返ったり拍手がまばらだったりする子はいなかったので……あーあー何も知らない覚えてない。
ちなみに、このクラスには男子生徒が3名いる。
一人は俺の隣の席の加藤くんで、あとの二人は覚えていない。
これといって目立つ要素も無いが、どの子も大人しくて真面目そうな男子という印象だ。
加藤くんに恨みはないが、隣席なのでなるべく絡まないよう気をつけようと思う。
塩対応を徹底せねばなるまい。すまんな。
ちなみに佐々木さんはガチガチに噛みまくっていたが、どうにか噛まずに自分の名前を言い終えた時は感動の拍手で包まれていたので結果オーライだろう。
とはいえ本人はかなり気にしてそうだから後でフォローしておく事にした。
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