男女比が狂った世界の“女子”に転生してしまった男の話

薪々いろり

00.プロローグ~死んでから転生するまでのアレ~

あえて結論から言う。

俺は前世の地球とほぼ同じ文明レベルで、ほぼ同じ国と地域の存在する異世界に転生した。


死因は事故死っぽい気がする。

確か出張で飛行機か新幹線か何かに乗っていたような気がするが、寝て起きたら赤子になっていたような気がする。

おそらく。たぶん。


何故こんなにフワッとしているのかといえば、死亡直前から転生後の3歳頃までの記憶が殆ど無いのだ。

これについては恐らく幼児期健忘というものであって、幼い頃の記憶を忘れてしまう事自体は前世でも今世に於いても断じて珍しい現象ではない。


しかしながら俺の場合、前述の通り特殊な事情があるのだから、若干困った事にはなっている。


俺の精神……というか、魂というべきか。

完全にオカルトの領域なので、あくまで妄想の域を出ないのだが。

そういった前世の俺としての自我を形成するモノの肝心な一部分だけが幼児期の記憶と共に抜け落ちてしまっていた。

具体的には前世の自分の名前や両親の顔などが霧に包まれたように薄ぼんやりとしており、そういったかつての自分を自分たらしめるアイデンティティだけが綺麗に失われていた。


その癖して当時の生活や文化、知識については明確に覚えているのだからなんともバランスが悪い。

なんなら、前世の俺は独身男性であった事だとか、中学時代の黒歴史だとか、手酷い失恋の思い出だとか、勤め先の上司のフルネームとかいう使いどころのない情報だけは残っていた。

いやまぁ、山本博仁部長にはかなり良くして頂いたのでそう悪くは言えないのだが。新人の頃には何度も相談に乗って頂いた恩人で――。


……それはさておき。

生まれ変わる事が出来たというその事実は素直に喜ばしい。というか喜ばしくないわけがない。神的な存在に対して感謝の心を捧げ奉りまくりである。

前世の俺のアイデンティティが不明である、というその点についてはやや悲しくはあるものの、あくまで別人として生きている今生に於いては不要と断じてしまっても良いし、割り切る事も出来る。


されど。

困った事に、今生における俺の性別は、肉体的には健全な女子そのものだった。


そして更に困った事に、今生における現生人類……というよりも、サルやチンパンジーなども含む霊長類全般は、その原初から男女比が1:10という、ハーレム前提のイカれた生態になっていたのである。


繰り返すが、前世は独身男性である。

前世の俺は、とにかく異性との出会いに飢えていたという記憶だけは鮮明に残っている。

だというのに。

俺はこんなにも女性との出会に満ち満ちた世界に産み落とされたというのに、男として生まれる事は出来なかったのである。


今世において、その事実を知ったのは小学四年生の春だった。

確かに昔から同級生にはやけに男が少ないなぁとか、男性教師がいないなぁとか、外を歩いていても男性を見かける機会が少ないなぁと、何かと疑問に思う事はあった。


なんなら家庭内に母親が三人いた。今にして思えばその時点で気付いておけよ、と思う。

実母が一人に義母が二人。父親は一人だった。

ちなみに母三人は皆姉妹なので、その内二人は義母兼叔母だったりする。


俺は前世の感覚でそれらに多大な違和感を覚えつつも、「まぁ普通に一夫多妻制容認してる社会なんだろうな」と、首を傾げつつも盛大にスルーしていた。

「まぁ異世界だしな」で流しすぎたが故である。己の適応力が憎い。



以上が、俺こと"安城ナツメ"の、前世における死から転生するまでのざっくりとした経緯である。

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