09.たのしい登校
翌朝。
俺は佐々木さんとの待ち合わせ場所である駅近くの公園前に突っ立っていた。
ちなみに、待ち合わせの連絡をしたのは昨晩である。
『おつかれ!明日、7時にはくあい公園で待ち合わせでいい?』
と送ると、何故か『劇画調のゴリラが涙目でリンゴを握りつぶしているスタンプ』が飛んできた。
新手の暗号だろうかと思い本気で困惑していると、すぐに訂正のメッセージが送られてきた。
誤操作だったらしい。ついでに時刻の了承も貰った。何故そんなスタンプを常用している……?
とりあえず、入学祝いで母から送られていた電子マネーで同じものを購入し、『劇画調のゴリラが涙目で缶チューハイを握りつぶしているスタンプ』を送信しておいた。
結果として、佐々木さんと俺のトーク画面では涙目のゴリラが交互に色々な物を握り潰しまくっている。
ちなみに、スタンプの商品名は『哀愁の西ローランドゴリラ』だった。何から何まで意味が分からない。
スマホで時刻を確認すると「6:50」との表示。思っていたよりも早く着いてしまったらしい。
仕方ないので、漫画アプリで時間を潰しながら待つ事にした。
予定時刻の五分前になる。
周囲を見まわしてみると、遠くに藍色の制服を着た人物が見えた。
向こうも俺に気が付いたらしい。
慌てた様子で駆け寄ってくるので、思わず立ち上がり歩み寄った。
「すっ、すいません安城さん!お待たせしましたっ!」
「いや、早かったね。こっちも今来たとこだよ」
佐々木さんが額に汗を浮かべながら何度も頭を下げてくる。
昨夜のゴリラスタンプ合戦で少しは打ち解けたと思っていたのだが、まだまだ気を遣わせてしまっているようだった。
とりあえずハンカチを取り出して佐々木さんの額の汗を拭こうとしたのだが、慌てて制止される。
佐々木さんはポケットからマイハンカチを取り出し、素早く自分で汗を
「ま、またお手を煩わせる訳にはいかないので……あと、これお返ししますっ。ありがとうございましたっ」
先日貸したハンカチを、ビニール袋で丁寧に
中にはハンカチと一緒に市販のクッキー菓子が数袋入っている。
几帳面な子だなと思った。ここまで気を遣う必要も無いのに。
とはいえ、もちろん悪い気はしないので、素直に感謝の言葉を告げる。
「丁寧にありがとう。このクッキー好きだよ」
「そ、それは良かったです」
佐々木さんはほっと胸を撫で下ろしていた。
やはりこの子は俺に対してずっと気を遣っている。
なんというか、他人の目を気にするのが癖になっているのかもしれない。
それを少し複雑に思いつつ、もっと佐々木さんと仲良くなりたいと思った。
駅からは乗り継ぎもなく、30分程で学校の最寄り駅へ到着する。
車内は混み合っていたので互いに無言を保っていた。
同じ藍色の制服に身を包んだ生徒達に混ざりつつ二人並んで駅を出た。
「始業日だからかな。結構混んでたね」
「そ、そうですね……普段はもっと空いてるといいんですけど……」
学校への道を歩む。
坂道を彩る桜並木は無数の花びらを風に舞わせ、新たな日々の始まりを印象付けていた。
一日ぶりの光景だというのに、昨日とはまるで違う心地で眺めている自分に気が付いた。
佐々木さんと並んで歩いているからだろうか。
この桜並木も、佐々木さんの事も。知っているのにまだまだ知らない。
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