第30話:帰還

「よう、見事に助け出したな」


 俺が密貿易商人達を殺そうとした時、計ったようにローグが現れた。


「ずっと見張っていたのか?」


「ああ、金に成る木をドラゴンが殺してしまわないようにな」


「こいつらを生かしておけと言いたいのか?」


「ああ、そうだ、家屋敷と財産、隠し金や利権まで含めれば、莫大な額だ。

 殺してしまったら見つけ出せなくなってしまう」


「それがどうした?

 ミランダを始めとした犠牲者の事を考えれば、銭金の問題じゃない」


「それがドラゴンの青さ、未熟さだ。

 売春宿に身を落としたミランダは、ドラゴンが身銭を切って助けるのだろう?

 だが、他の遺族はどうする?

 先を急ぐドラゴンが全て探し出し、身銭を切って助けるのか?

 違うだろう、お前は元の世界の帰る魔術を探す旅に戻るのだろう?」


「ああ、そうだな、全ての犠牲者とその家族を探し救う事はできない」


「それを俺がやってやろう。

 その代わり、そいつらを俺に渡し、ドラゴン持っている金も全部渡せ」


「そんな事ができるか!

 こいつらを引き渡すのは構わない。

 悪漢ローグなら、被害者や家族を救い出すくらいの事はやるだろう。

 だが、俺の金を渡す義理はない。

 この金は日本に帰る魔術を探す資金だ」


「もう異世界に戻る魔術を探す必要はない。

 逆召喚魔術を知っている者の居場所は見つかった。

 それを教えてやるから、有り金全部置いて行け」


「信じられんな、逆召喚魔術など、そう簡単に見つかるはずがない。

 見つかったとしても、生贄が必要なはずだ。

 犯罪者奴隷を買うにしても、冤罪の可能性があるから……」


「はん、冤罪の心配がいらない犯罪者が目の前にいるだろうが!

 俺様が財産の回収をする間に、処刑した方が世の中のためになる連中を集めてやるから、その手間賃に有り金全部置いて行け。

 どうせ元の世界に戻ったら魔術が使えないんだ。

 溜め込んでいる金も物資も取り出せないのだぞ」


「……分かった、身に付けて帰れない分。

 麻袋に詰めて持ち帰れない分はローグに渡す」


「けっ、意外と金に執着があるな」


「じゃかましいわ!

 俺だって元の世界に戻ったら少しは良い目を見たいんだ。

 大ケガを負って寝たきりになっているかもしれないんだ。

 金で買える幸せくらい確保しても罰は当たらん」


「分かった、分かった、身に付ける宝飾品と麻袋一つ分くらいは餞別にくれてやる」


「じゃかましいわ!

 それを言うのは俺の方だ!

 嫌味な事を言っていないで、さっさと逆召喚魔術のありかを教えろ」


「それは金と引き換えだ、と言いたいところだが、ドラゴンが約束を破るはずがないから教えてやる。

 ハーフエルフだよ、ハーフエルフの村長が逆召喚魔術を知っている」


「そんな馬鹿な?!」


 俺はこの世界の常識を知らなかったから、混血エルフというのがどんな存在なのか全く分かっていなかった。


 神々の末裔、叡智の種族と言われ、不死の存在なのがハイエルフ。

 千年も二千年もの寿命を持ち、魔術を極めた存在がエルフ。


 ハーフエルフは、そんなハイエルフやエルフの女性が、人間に無理矢理犯され生まれてきた、忌み子だそうだ。


 だが、そんな忌み嫌われる存在のハーフエルフでも、母親の母性が強い場合は、たっぷりと愛情が注がれて育つらしい。


 そんな子供の中には、ハイエルフの叡智を授かった者がいて、その一人が村長だというのだ。


「よくそんな事を調べられたな」


「はん、俺様は悪漢ローグだぞ。

 俺様に調べられない事など何もない!」


 後はローグが全て段取りを組んでくれた。

 俺がやったのは、ローグに指示通りに密貿易商人達を操っただけだ。


 ローグにはローグの信義があって、極悪非道な親の子でもあっても、何も知らない相手を傷つけたりはしない。


 だが、知っていて思いのままに富と快楽を貪っている者は、例え女でも許さず、俺の逆召喚に使う生贄にした。


 最初は迷いもあったが、その娘がどのような悪行を重ねてきたかを知り、女子供には手を出さないという考えを撤回した。

 欲望や快楽のために他人を殺すような奴は、殺されてもしかたがない。


「どうか、どうかお許しください。

 兄を、兄を許してやってください。

 生贄が必要ななら、私が代わりになります」


 混血エルフの美女が涙ながらに訴えるが、うるさいだけで心に響かない。

 自分の罪は自分で償わなければならない。


「では、逆召喚魔術を発現させます」


 何お飾りもない村長の言葉と共に魔法陣が現れた。

 ローグが、俺の教えた敬礼をしてくれている。

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ドラゴン&ローグの異世界バディ物語 克全 @dokatu

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