第8話:プロローグ・悪い国王
「ぐるっと回って反対側の城門も壊してもらう」
覚悟を決めて城門を壊した直後に、ローグにとんでもない事を言われた。
「このまま森に入って逃げると言っていなかったか!」
「聞き間違えだな。
俺が言ったのは、貧民街の連中が安全に逃げるには、こっちに城門を壊した方が良いと言っただけだ」
「召喚者だから、言葉の意味がはっきり分かる。
それでも俺の聞き間違えだと言い張るのか?!」
「おりょりょ、だったら俺の言い方が悪かったのだろう。
すまんな、俺も貧民街の生まれで学がないんだよ。
言い間違えだから勘弁してくれ」
嘘を言っているのが分かる。
言葉を変換しているだけでなく、心の想いまで伝わってくる。
日本語でも、口にしている事と内心が違うのが分かるのと同じだな。
「それも嘘だな、口にしている事と本心が違うのが分かるぞ!」
「おりょりょ、それを口にしないのが人付き合いの秘訣なのを知らないのか?」
「それは嘘で固めた人生を送っているのは、性根の腐った奴だけだ。
俺の周りには、そんな奴は一人もいない!」
「はっ、随分と幸せな環境で育ったようだな。
この世界では、生まれ育ちに関係なく、人を騙さないと生きていけないんだよ」
「はん、俺は、とてもこの世界では生きていけないようだ。
できるだけ早く故郷に戻るぜ」
「そうしてくれ、勇者様が癇癪を起して世界を壊したら困る」
「てめぇみたいに、自分の欲望のために他人を犠牲にしたりしないぜ!」
「そうだな、何だかんだ言いながら、俺様について来てくれる」
召喚されてから腹に溜まった理不尽を吐き出すように罵ってやった。
ローグだけが悪い訳ではないのだが、実際に俺を利用したのはローグだけだ。
王達は俺を利用しようとして、逆に痛い目に遭っている。
「ふん、ローグは気に食わないが、逃げるのに協力してくれた人が殺されたりするのは嫌だから、しかたなしに手伝ってやる」
「それは、それは、有難き幸せでございます」
「じゃかましわ!
ふざけてないで真剣にやれ。
騎士団が追いかけてきたぞ」
騎士団の連中、貧民街の混乱から抜け出してきたようだ。
何人の貧民が殺されたのだろう?
ついて来ていない馬は無事なのだろうか?
「ローグ、連中重武装を捨ててきたぞ。
王を抱えたままでは逃げきれないぞ!
死にかけの王を捨てるぞ」
失血が多くて気を失った王を抱えながら馬を操るのは大変なのだ。
「まだ我慢しろ。
今王を捨てたら、少人数で王を介抱して、他の連中が追いかけて来る。
万が一、王を弑逆する気がある奴の手に渡ったら、俺達が囮にならなくなる。
俺達を心底恨んでいる王が生きていないと、貧民が狙われる」
「貧民街の人達は、俺達の逃亡に協力したのだぞ!
同じ様に恨まれているのではないのか?」
「今気を失っているのだろう?
上手く騙してやるから叩き起こしてくれ」
「これほど馬上で揺さぶられているのに気絶しているのだぞ?
並の事では意識を回復しないぞ!」
「魔術を使えばいいだろう」
「これ以上魔力を使えるか!」
これからどれだけ魔術を使わなければいけないか、想像もつかない。
できるだけ魔力を節約しなければいけないかくらいは分かる。
仕方がないので、また拷問の真似事しなければいけない。
騎士団が徐々に近づいているとはいえ、まだ切羽詰まってはいない。
この状態で無抵抗な奴を痛めつけるのは胸が痛む。
とは言え、俺がこんな目に合っている元凶はこいつなのだ。
遠慮しなければいけない理由など全く無い。
拷問をしたくないのは俺の良心だけで、恨み辛みがつのれば簡単に越せる。
だから、右親指の爪を骨ごと握り潰してやった。
「ぎゃあああああ!」
「おい、おい、おい、まだ殺すなよ。
それじゃあ魔術師団長と王太子の依頼が達成できなくなるぞ」
ローグがとんでもない大声で話しかけてきた。
「どう言う意味だ?」
何がしたいのか大体想像がつく。
仕方がないので、同じ様に大声で返事をしてやる。
「何度も話しているだろう。
今回の件は、王位を簒奪したい魔術師団長と、不義の子である王太子が結託してやった事だ。
そうでなければ、召喚に成功した勇者を逃がすわけがないだろう。
全部魔術師団長と王太子の謀略なのだよ」
さっき使った嘘をまた使うのかよ!
本当にこんな嘘に二度も三度も騙されるのか?
「いや、それだけでは、今王を殺しちゃいけない話が繋がらん」
「王を殺すのは、本当に王の血を受け継いでいる第六王子を支持している、第二騎士団の連中でないといけないのだ」
「だからその理由を言え、理由を」
「第六王子が王を殺せと第二騎士団に命じた事にしたいのだ。
そうすれば邪魔になる第六王子を殺す大義名分ができる」
「兄弟同士で王位を争い、殺し合うのか?」
「両親ともに血の繋がった兄弟でも王位を争って殺し合う。
今回は全く血が繋がっていないのだ。
殺し合うのに何の抵抗もない」
「不義の子なのは分かったが、母親が違うのか?」
「王太子の母親、王妃は政略結婚だから、王の事など愛していない。
だから王を裏切って魔術師団長と密通したのだよ。
第六王子に母親は、王が若い頃に見初めた相手だ」
「本当に愛した女性には、長年子供が授からなかったのか。
若い頃に子供ができていたら、王も幸せな結婚ができて、こんな性格にならなかったのかもしれないな」
「はん、何を馬鹿な事を言っている。
王の性格が悪いのは生まれつきだ。
そうでなければ、見初めた相手を愛妾のままにはしない。
先に生まれた年上の男の子を、後で生まれた正妃の子供の下にして、第六王子にまでしたりはしない」
「なんだと、歳まで誤魔化したのか?
愛妾の子供だから地位を下にすればいいだけだろう。
地位や待遇だけでなく、誕生日まで六度も変えられるなんて、最悪だろう」
「それでも父親を愛して、助けようとしているのだ。
貧民街の者達に金を渡して、俺達を捕らえて父親を助けようとしたのだ」
ここまで創作するか?
しかも出来が悪すぎるぞ!
こんなできの悪い噓に誰が騙されるのだ?!
「あの城門を壊せ。
あの城門の担当が第二騎士団だ。
そこで王を放り出せば俺達の仕事は終わりだ」
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