第20話:自白

「なんでよ、なんで毒がきかないのよ!

 熊だって殺してしまう猛毒なのよ!」


 色仕掛けで俺に毒を飲ませた女が泣き喚いている。

 村の総意で俺を殺そうとしたのに、失敗したのだ。

 何とか俺を捕らえられたとしても、後で厳罰に処せられるに違いない。


「俺の毒殺に失敗したのだ。

 この後で俺を捕らえたとしても、死刑にされるかな?

 それとも、村の男全員に嬲る者にされるかな?

 命は助かっても、まず間違いなく気が触れるぞ」


「いや、いや、絶対にいや!

 あんな風になるくらいなら死んだ方がましよ!」


「そう口にすると言う事は、同じ様な目に遭った女を知っているのだな!」


「ヒィイイイイイ!

 ゆるして、ゆるしてください!

 さからえなかったの、逆らったら私も同じ目にあわされるの!

 私じゃない、私が悪い訳じゃない!」


 腐れ外道の悪女が大声で泣き喚くが、外に漏れる心配はない。

 サイレントの魔術を使っているから、誰に聞かれる心配もない。


「俺が聞きたい事はたった一つだ。

 それに答えてくれたら、この村から逃がしてやる。

 俺の魔術が桁外れなのは、これだけ泣き喚いても誰の助けに来ない事でわかるな?

 仲間が助けにくる時間を稼ごうと、演技していた事くらい分かっている。

 これ以上悪足搔きするようなら、指を順番に潰すぞ」


「はん、やれるモノならやってみな!

 あたしはその程度で話すような根性なしじゃないんだよ!」


 この女は俺が拷問などできないと思っている。

 自称傭兵で騎士風の装備をしているから、言動を慎んで有力者に召し抱えてもらおうとしている、仕官希望者だと思っている。


 だが俺は仕官希望者ではない。

 それどころかこの世界の人間でもない。


 元の世界で加害者と弁護屋とマスゴミが偉そうに権利を主張し、心優しい被害者とその家族が泣き暮らしているのか苦々しく思っていたのだ。


「ギャアアアアア、ゆるして、ゆるして、おねがい、もう許して!」


「たった二本で音を上げるなんて、さっきの大言壮語はどうした?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、もう言いません、ももう二度と言いません。

 だから許してください、もう許してく、ギャアアアアア」


「おい、おい、おい、指は潰していないのに、何を泣き叫んでいる?

 ちょっと爪を剥いでやっただけじゃないか。

 まだまだ両手両足の指があるのだぞ?」


「話します、何でも話します、だからもう許してくだ、ギャアアアアア」


「お前達がなぶりものにした旅人達も同じ事を言ったのではないか?

 それなのに、だれ一人帰ってこない。

 お前達が誰も許さなかった証拠だよな?

 自分だけ許してもらえると思っているのか?

 そう簡単に殺してもらえると本気で思っているのか?」


「ごめんなさい、本当にごめんなさい、何でも話します。

 話しますから、楽に殺してください、お願いします」


 この程度で死を望むと言う事は、情け容赦のない本気の拷問を受けたら、人間がどうなるかを実際に見て知っているのだ。


 俺は、陛下にお仕えする者の覚悟を定めるようにと、一族の先達から情け容赦のない拷問がどんなものかを学んだ。


 実際に本気の拷問やった訳でもやられた訳でもない。

 文献で教えられたのと、第二次大戦で行われた記録テープを見ただけだ。

 それと、学んでからほんの触り程度の拷問を受けただけだ。


「だったら全部話してもらおうか。

 もし、少しでも誤魔化していると感じたら、生爪を五枚剥がすぞ!」


「ヒィイイイイイ、言いません、嘘は言いません、絶対に言いません!」


「ここで捕らえた旅人はどうした?

 全員殺して埋めたのか!?」


「ヒィイイイイイ、少しだけ、少しだけ殺しました!」


「少しだと?

 何故全員殺さなかった!?」


「ヒィイイイイイ、ゆるして、ゆるして、許してギャアアアアア」


「さっさと話さないともう一枚爪を剥ぐぞ!」


「はい、金になるからです。

 旅人を捕らえて売ったら金になるから、できるだけ生かして捕らえました!」


「街道を下りたら他の村に気付かれてしまう。

 砦の幹部に仲間がいて、堂々と街道を使って売っているとも思えない。

 周囲の山々に入り込んで、隣国の奴隷商人に売っていたのか?」


「はい、以前から街道を使わない密貿易の仲介をしていました。

 街道を使って砦を通ると、多額の税金を取られてしまいます。

 それも、二カ国分もです。

 税金がもったいないと思う商人達が、この村を拠点にして密貿易をしていたのですが、緊張関係が高まってやれなくなってしまったのです」


「それで、旅人を襲って身包み剥いで、奪った物だけではなく、人間まで売るようになったのか!」


「ギャアアアアア、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 売る物がなかったんです。

 連中が望むような品物を仕入れたら、砦や他の村に気付かれてしまいます。

 この村を拠点に狩りをするような冒険者や、隣国と密貿易を企むような連中は、金になるような物を持っていなかったのです。

 本人を売るしか金にならなかったのです。

 やりたかったわけじゃないんです、仕方がなくやったのです」


「最後に一つだけ聞く。

 一時的に捕らえられている旅人や冒険者はいないのか?」


「いません、全員奴隷商人に売りました。

 ですが、私は嫌だったのです。

 本当はやりたくなかったのです、信じてください!」


「……分かった、お前だけは許してやろう。

 村人だけでなく、ローグに見つかっても殺される。

 音がしなくなる魔術を村中にかけてある。

 今なら村から逃げられる」


 俺はそう言って女に背中を見せてやった。

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