第14話:実験

「ドラゴン様、ローグ様、本当に大丈夫なのですね?

 村が滅ぼされるようなことはないですね?」


 村長が警備隊と全面対決になった事に怯えている。

 男手が激減した辺境の村だから、しかたのない不安だろう。

 幾ら何でもこう言う心理まで、日本とこの世界が違うとは思えない。


「大丈夫だ、心配するな。

 王都や有力貴族の領都では、警備隊嫌悪の感情が渦巻いている。

 何の処分もしないと、王家の信望が地に落ちる。

 それに、最後は全部ドラゴンが何とかしてくれる」


 俺に丸投げされてもどうにもならない。

 本当はそう言ってやりたいが、不安そうな表情の女達を見ると言えなくなる。

 そんな俺の性格を見抜いて無茶振りするローグが腹立たしい。


「心配しなくていい、大丈夫だ。

 警備隊ごとき、簡単に麻痺させてやる」


「ドラゴンが自信満々に太鼓判を押してくれたのだ。

 何百何千の敵が押し寄せてきても、簡単に撃退してくれる。

 俺がいても何の役にも立たないから、また王都でひと暴れしてくる」


 そう言ってローグが村を去ったのが一カ月前だ。

 その間全く音沙汰がない。

 逃げたのではないかと疑う気持ちが時々湧き上がってくる。


 逃げないまでも、口で言っていた事よりも、女遊びの方に時間もお金も使っているのだろう。


「ドラゴン様、お情けを頂きに参りました」


「……ああ、入ってくれ」


 最近は、連日休むことなく寡婦がやってくる。

 村人達の表情も縋るようなモノになっている。

 ローグが逃げ出したと思っているのだろう。


 もう頼る者が俺だけになってしまった村人達が、何とか俺に残ってもらおうと、なりふり構わず歓待してしまう不安な気持ちは分かる。


 だが、俺にだって事情がある。

 できるだけ早く日本に戻りたいのだ。

 まだ何の手掛かりも得られていないが、諦めたわけではない。


「ドラゴン様、私達を見捨てないでください、お願いします」


 毎日入れ代わり立ち代わり女達がやって来て縋りついてくる。

 正直少々鬱陶しいが、邪険にする事もできない。


 それに、女達は振り払えても、大人たちに交じって一生懸命働きながら、泣き出しそうな表情で俺を見る子供は見捨てられない。


 カーン、カーン、カーン、カーン、カーン。


 俺が造った新しい物見やぐらから、誰かが村に来たと警戒の木鐘が聞こえてくる。

 俺が造り直したから、結構大きな音が鳴る。


 自分で言うのはおこがましいが、そのお陰で敵が攻め込んで来る前に村人全員が武装できる。


「ドラゴン様~、騎馬の一団がやってきます~」


 俺が家から飛び出したのを確認して、見張りが大声で知らせてくれる。

 独りで敵を見張るのは不安だろうから、急いで物見やぐらに登って安心させやる。


 以前の遠くから狙われるような安っぽい造りではない。

 火攻めをされたら直ぐに燃えてしまいそうな材木でもない。

 硬くて燃えにくい材木を使い、見張りを守る板塀で囲ってある。


 徐々に近づいてくる連中は武装している。

 騎馬と徒士の一団で、警備隊や軍隊のような編制だ。

 百近い人数のようだから、かなりの戦闘力を有している。


「警備隊の総司令官から交渉を頼まれた!

 さっさと門を開けろ!」


 門の前までやってきた奴が、こちらを見下すような言葉遣いで命じてくる。

 警備隊に頼まれたという割には態度が悪すぎる。

 ひと目で最初に捕らえた盗賊達と同じ人種なのが分かる。


 馬に乗った奴、騎兵が十四人に歩兵が六十三人。

 明らかに戦う気で来ている。


「そんな大嘘は通用しない事くらい、馬鹿なお前達でも分かるだろう。

 さっさとかかってこい!」


「ちっ、楽に皆殺しにしたかったが仕方がない、さっさと終わらせるぞ」


「「「「「へい」」」」」


 余りにも愚かすぎて罵りもでてこない。

 どう見ても質の悪い傭兵団だが、依頼人を事前に調査しないのか?

 生き残るために、依頼人と依頼内容を調べるのが常識だろう。


 依頼を引き受けさせるために、本当の事を教えないのが普通だ。

 そんな状況で傭兵団が生き残るには、憶病なくらい慎重にならなければいけない。

 それをしていないという事は、傭兵団の姿を借りた盗賊なのだろう。


 直ぐに無力化できるのだが、増強した村の護りを確認しておきたいので、あえて馬鹿共に攻撃させた。


 村の中には水量の豊かな井戸があるのだが、水脈がかなり深くにあるので、村の周に壕を造っても水は湧かなかった。


 空壕は、幅が二十メートル、深さは十メートルあり、角度は五十度もある。

 土は滑りやすいので、元からある丸太の防壁まで登るのが凄く難しい。

 一定の数で纏まって攻撃しようとすれば、門を真正面から攻撃するしかない。


 だが、まともな戦術眼があるのなら、正面攻撃は避ける。

 誰だって唯一の攻撃ポイントには迎撃兵力を集める。

 正面から真直ぐに進めば狙い撃ちされるのは目に見えている。


 だが俺はあえて迎撃させなかった。

 何時でも大型の床弩で皆殺しにできるのだが、好きに攻撃させた。

 魔術で圧縮強化させた門の木材が、大木槌や大鉞の攻撃を弾き返している。


「何をグズグズしていやがる!

 丸太を切り出してきて門を破壊しやがれ!

 それでも俺様の配下か!」


 破城槌か、良い実験になるな。

 ある程度門の強度が確認できたら、また麻痺で捕虜にしてやろう。


 魔術で村人に逆らえないようにしておけば、失った男手の代わりになる。

 村の防衛戦力に使えれば、俺が村を去る事ができるかもしれない。

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