第13話:詫び

「この度は配下の者が恥知らずな事をして申し訳ない」


 警備隊の幹部だという騎士長が深々と頭を下げる。

 それを交渉役のローグがふてぶてしい態度で受ける。


 俺との争いを村長と女達に仲裁され、何とか殴り合いの喧嘩は回避できたが、いまだに不貞腐れているのだから、子供っぽいとした言いようがない。


「どれほど頭を下げられても、死んだモノ達は生き返らない!

 心身ともにズタボロにされ、盗賊共の子供を宿したかもしれない恐怖に震える女達が受けた傷は、なかった事にはならない!」


 ローグの言う通りだ。

 起きた事、やった事を、なかった事にはできない。


 民を護るはずの警備隊が、盗賊を使って民から奪い民を殺していたのだ。

 その責任は絶対に取らなければいけないし、取る気がないのなら、力尽くでも取らせないといけないから、喧嘩を後回しにしたのだ。


「分かっている、警備隊の予算は限られているが、できる限りの賠償はする」


「はん、国の予算内の賠償だって?

 それは民から搾り取った税金だろうが!

 賄賂を貰って腐れ外道のやっていた事を見て見ぬ振りをしていたのだ。

 警備隊員全員が、領地や俸給から賠償するべきだろうが!」


「あの馬鹿の上司は俺で、悪事を見抜けなかったのも俺だ。

 警備隊全体に責任を負わす訳にはいかないのだ」


「だったら好きにするんだな。

 俺様も好きにさせてもらう。

 本当に他の警備隊員や幹部に何の罪もないのか、調べればわかる事だ」


 なるほど、実直に見える奴に交渉させて、安い金で示談する。

 これまで奪った金は丸儲けで、責任も取らなくてすむようにしたいのだな。


「待ってくれ、頼む、もうこれ以上は止めてくれ。

 このままでは警備隊員個人だけでなく、実家にも処罰が及ぶ。

 それどころか、警備隊自体が廃止されるかもしれない。

 そんなことになったら、辺境の警備と防衛ができなくなる」


 俺とは何かと意見が衝突するローグだが、この世界の事は酸いも甘いもよく知っていて、警備隊という組織の長所短所も理解している。


 先の騎士のような腐れ外道が所属するような、腐敗している警備隊が、どのような悪事に手を染めているかを熟知している。


 王城にさえ忍び込める凄腕の盗賊でもあるローグなら、警備隊に忍び込んで悪事の証拠を集めるなんて簡単な事だ。


 それどころか、警備隊員の実家が、子供の権力を使って辺境で悪事を働いてきた証拠まで集めたのだから、悪漢ローグの面目躍如だった。


 そんな多くの悪事を辺境中に広めて、証拠隠滅も逃れる事もできないようにした。

 実家の地位と立場、悪事によっては、王都にまで噂を広めたのだから恐れ入る。

 それを雀の涙ほどの示談金で済ませようとするなんて、馬鹿としか言えない。


「お前は馬鹿か?!

 盗賊を使って村々を襲わせる警備隊が無くなるのだぞ?

 権力を使って国が定めた倍の税を奪っていく警備隊が潰れるのだぞ!

 辺境が平和で豊かになりこそすれ、困る事などない!」


「それは、それは、それはそうだが、豊かになった辺境を狙って新たな盗賊が……」


「はん、豊かになった分、気性の良い冒険者や傭兵を選んで雇える。

 辺境を食い物にする連中ばかりの警備隊とは比べ物にならん。

 さっさと帰らないと、猛獣が闊歩する時間に帰る事になるぞ」


「いや、今日は徹底的に話し合わせていただきたいのだ。

 多くの警備隊員や警備隊員の実家から、交渉を頼まれてきたのだ」


「お前は本当の馬鹿だな!

 盗賊同然と分かっている警備隊員を、村に泊まらせる訳がないだろう。

 夜中に門を開いて、口封じの兵に襲わせるのは目に見えている」


「そんな事はしない、警備隊の、騎士の誇りにかけてそんな事はしない!」


「その誇り高き騎士で警備隊員が、盗賊を使って村々を襲わせていたのだという事が、まだ分かっていないようだな!

 お前を見る女達の目のどこに、誇り高い騎士を見る眼がある?!

 今直ぐ女達の目を見返してみろ!」


 ついにローグが切れた。

 この警備隊員は、腐り切った警備隊の中ではまだましな方だと聞いている。

 

 それでも、積極的に悪時に加担していないだけで、他の警備隊員が悪事を重ねるのを黙認し、時に口止め料をもらっていた。


 ロークの基準でも、俺の基準でも、実行犯や黒幕と変わらない、処刑すべき悪人だのだ。


「……わかった、今日は戻る、戻るが、本当に良いのか?

 警備隊も警備隊員の実家も、破れかぶれになっている。

 一か八かの勝負をかけて、口封じに動くかもしれない。

 条件闘争にした方が良いと思うのだ、ギャアアアアア」


 本当に馬鹿な奴だ。

 ローグの逆鱗に触れやがった。


 鼻と目を斬り飛ばされるだけですんだのは、他の連中にこちら怒りを正しく伝えるためであって、温情をかけたのではない。


「よく我慢したな」


 一応褒めておいてやろう。

 普段のローグなら殺している。


「はん、俺様は即死させてやるほど優しくはない」


「なるほど、血の匂いをさせたまま夜道を帰らせるのか。

 まず間違いなく猛獣に襲われるな」


「ゆるしてくれ、お願いだ、許してくれ、妻がいるのだ、子供がいるのだ!」


 痛みの余り室内でのたうち回っていた警備隊の騎士長が、俺の言葉を聞いて縋りついてきたが、鬱陶しいだけだ!


「離せ、このチンカス!

 お前達に殺された男達にも、妻子がいたのだ!

 母子で輪姦されることがない温情に感謝しろ!」


 思わす口汚い単語を使ってしまった。

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