第15話:裏取引

「待たせたな、全部話しがついたぜ」


 ローグが戻ってきたのは、村を出てから一カ月後だった。

 警備隊が雇った傭兵団が押し掛けだしてから半月後だ。


「全部話しがついたとはどう言う事だ?」


 ローグを迎えたのは俺が増改築した村長宅だ。

 何度も傭兵団に攻めてこられたので、捕虜の数が五百を越えていた。


 全員魔術で支配下に置いているが、村人達から不安を訴えられた。

 気持ちは分かるので、千人は収容できる巨大な地下牢を造って、捕虜達を閉じ込められるようにした。


 女子供でも管理できるように、土を圧縮強化した岩で牢の扉を造っている。

 食事も扉を開けずに入れられるようになっている。

 排泄物は品種改良したスライムが処理してくれる。


 地上の造りはこれまでとあまり変わらない。

 何かあった時には、村人も地下に逃げる事になっている。

 そんな村長宅でローグの言い訳を聞く事になったのだ。


「話を端折るな、一から全部話せ」


 村長ではローグを問い詰められないので、俺が変わって問い詰める。


「ドラゴンのような清廉潔白な人間には分からんだろうが、この国は色々腐っているから、ある程度の裏工作や妥協は仕方がないんだよ」


 ローグがそう言うと、村長も一緒にいた村の幹部も諦め顔をした。

 

「俺だって裏工作や妥協が必要な事くらい分かっている。

 だがそれも程度問題だ。

 余りにも酷い妥協には応じられない。

 ましてローグに入る手数料が多過ぎるのは、絶対に見過ごせない!」


「ドラゴンなら必ずそう言うと思っていたよ。

 だが残念だったな。

 俺は裏金なんて銅貨一枚も受け取っていないぜ。

 全部村かドラゴンの物にしてある」


「はぁ、俺の物だと?

 お前、前に言っていた事と話が違い過ぎるぞ!」


「騒ぐな、騒ぐな、ちゃんと説明するから最後まで聞け」


「……納得できなければぶちのめすぞ!」


「やれるモノならやってみろ!

 だが俺のやり方に納得できたら、一発殴らせてもらうぞ!」


「ようし、互いに納得できなかったら一発殴る約束だぞ」


「やったね、これで自由騎士様を殴れるぜ!」


「ふざけてないでさっさと話せ!」


「まずは警備隊と連中の実家だが、悪事をもみ消そうとあちこちに賄賂を贈り、ドラゴンに何度も刺客を送った所為で、経済的に破綻した。

 もうほとんど力が残っていないので、王家も後腐れなく潰せた。

 罪を厳しく罰して、四親等まで犯罪者奴隷落ちとなった」


「それなりに厳しい罰なのか?」


 俺は顔色を変えている村長に確かめてみた。


「はい、普通なら絶対に貴族や士族には与えられない罰でございます。

 平民が受ける罰にかなり近いです」


「分かった、その処分は受け入れよう。

 だが俺達が捕らえた犯罪者の所有権はどうなる?」


「その点もこちらに言い分が通った。

 賞金は全て犯罪者を捕らえた者の物。

 犯罪者奴隷として売った代金も捕らえた者の物。

 ただし、犯罪者なので実家と交渉して身代金を貰う事はできない」


 村長の目をやると、納得していると首を縦に振っている。


「捕らえた盗賊や警備隊、傭兵の持ち物はどうなる?」


「元の所有者が分かっていようがいまいが、捕らえた者の物だ。

 そして、犯罪者奴隷を売るのではなく、自分で所有する事ができる。

 よかったな、ドラゴン」


 ローグにそう言われて、心が千々に乱れた!

 俺がこの世界に召喚された時に、多くの捕虜を生贄にしたと聞いた。

 元の世界に戻る方法は見つかっていないが、当然生贄が必要だろう。


 陛下に恥ずかしくない方法で戻ると誓っている。

 あの時は、戦争捕虜や民を生贄にして戻る選択など思いもしなかった。


 だが、なかなか戻れないと、徐々に心が弱くなってしまう。

 死刑にされて当然の犯罪奴隷なら、生贄にしても良い気がしてくる。

 特に自分が悪事を確かめた連中なら、冤罪を気にする必要もない。


「……ああ、これが全てなら、よろこんで一発殴らせてやる。

 他に隠している事はないな?!」


「もっといい話があるから喜べ」


「……胡散臭いぞ!」


「この村を含めた辺境一帯は、王家の直轄領だったから、あのような腐った警備隊が好き放題やっていた。

 だが、俺が交渉して、清廉潔白な領主の支配地に変えてきてやった」


 村長の顔を見ると、不安と期待の入り混じった表情をしている。

 それはそうだろう、新しい領主が誰かによって、全く待遇が違ってくる。


「ローグ、裏金を受け取って村々を売ったのではないな?!」


「俺様がそんな恥知らずな事をするかよ。

 裏金ではなく、真っ当な仲介料を受け取っただけだ」


「村長、仲介料と裏金の違いはないんだ」


「……特に違いはありませんが、税や賦役などの条件で、裏金なのか仲介料なのか判断するしかありません」


「村長はこう言っているが、どんな条件で新しい領主を決めたのだ?!

 何一つ隠さずに話さないと、殴る蹴る程度の問題ではなくなるぞ!」


「おうよ、俺様がどれほど頑張ったか聞いてもらおうじゃないか!

 聞けばドラゴンも進んで殴られる事になるが、それでもいいんだな?!」


「くどい、さっさと話せ!」

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