第27話:交渉

「冒険者の御方、村の若い衆が申し訳ない事をした。

 この通り、詫びさせていただくので、若い衆を許してやってくれないだろうか?」


 夜明け前、まだ暗い内に混血エルフがまたやって来た。

 今度は闇討ちではなかったが、無理強いの交渉だった。


 相手も代表を含めて成人男性ばかりだった。

 その気になれば何時でも俺を襲う事ができる人選だ。


「形だけ詫びられても困る。

 お前達から安全に逃げるために、人質は手放せない」


「人質なら私がなろう」


「「「「「村長!」」」」」


「聞いただろう?

 これでも村長だ。

 若い衆の十人や二十人よりも人質としての価値があるぞ」


「馬鹿な事を言うな!

 たしかに命の価値に違いがある事は認める。

 俺も大切な人の為なら喜んでこの命を捧げる。

 だが、お前とこいつらの命に違いはない。

 独りよりも十三人の方が価値がある。

 人間の村に案内してもらった後でなら解放してやる、心配するな」


「そうはいかん!

 若い衆が十三人も人間の村に現れたら、我らがこの山に隠れ住んでいる事が人間に知られてしまい、奴隷商人が殺到してくる!

 私独りなら、他の村や街から逃げてきたと誤魔化せるかもしれん。

 貴男は密貿易商人を追って来たと聞いている。

 我らは山中を行き来する連中を警戒していた。

 奴らの情報を渡すから、私と若い衆の人質交換に応じて欲しい」


「なかなか美味しい条件だが、断る」


「何故だ、密貿易商人とやらの情報が欲しいのであろう!?」


「情報は欲しいが、人質を解放して護りを薄くするほど馬鹿ではない。

 今眠っている馬鹿共の言動から考えて、必ずまた襲ってくる。

 村長を一緒に殺す事になってでも俺を殺そうとする。

 こんな連中に殺される俺ではないが、人殺しが好きな訳じゃない。

 余計な人殺しをしないためにも、こいつらは解放できん」


「そう言わずに開放してやってくれないか。

 全て村の事を考えてやった事なのだ。

 特に酷い思いをした女達がとても怯えていたので、やむにやまれぬ想いでやった事なのだ」


「あんたの言う、酷い思いをした女達が、人間にどう扱われていたのかくらいの想像はつくが、同情はしてもこいつらの解放はできない。

 何度も言うが、こいつらなら必ずもう一度襲ってくる。

 それが分かっていて開放する訳がないだろう。

 ガタガタ言っていないで、お前達も襲ってこい。

 お前達も麻痺させて人質にしてやる」


「問答無用で麻痺させないという事は、私達を害する意思は本当になかったのだな。

 善良な人間もいる事は分かっているが、地獄の苦しみを味わわされた私達は、そう簡単に人を信用できないのだ。

 その事情を考慮して、私と若い衆を交換して欲しい」


「しつこいぞ!

 何度も同じ事を言わすな! 

 もうこいつらを連れて山を下りる。

 ガタガタ言っていないで道を開けろ。

 どうしても助けたいというのなら、命懸けでかかってこい!」


 しばらく様子を見ていたが、襲い掛かって来る者はいなかった。

 捕虜にしたのが十三人で、二度目に現れたのが隠れている者を含めて二十一人。

 どうするべきか、少々悩むな。


「お前達は絶対に逆らえない。

 俺の意のままに人間の住む村まで案内するしかない。

 テイク・ミー・トゥー・ア・ヒューマン・ビレッジ」


 俺が乞い願い思い描いて呪文を唱えると、混血エルフの人質達が立ち上がり、俺を人間の村のある場所まで案内しようとした。


 第二派の混血エルフ達の顔色が変わったが、まだ襲ってはこない。

 俺の魔術を見て警戒しているようだ。


 実は俺も警戒していた。

 混血エルフという連中が、どれほど強いかまだ分からないからだ。


 若い衆には簡単に勝てたが、奴隷にされていたのを逃げ出し、これほどの仲間を集め、隠里を築くほどの指導力と戦闘力がある者がいるはずだから。


 それが目の前にいる自称村長なのかもしれないし、村長と名乗る者を囮にしている、真のリーダーなのかもしれない!


「まって、待ってください!

 私が代わります!

 兄さんたちに代わって私が人質になります!

 だから兄さんたちを許してやってください!」

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