第26話:闇討ち

(やれ)


 闇の中を蠢く連中がいる。

 最悪の予想を立てて準備しておいてよかった。

 ほとんど眠れなかったが、不意を突かれずにすんだ。


「俺に悪意を持つモノを全てに睡魔と麻痺を与えてくれ。

 スリーピネス、パララサス 」


 俺を襲おうとしていた連中の先手を取れた。

 眠りと麻痺の二重に魔術をかけたので、抵抗できた者は一人もいない。


 森の中に自生している樹の表皮を材料にした荒縄で襲撃者達を縛り上げた。

 縄に関しては、俺が学んだサバイバル術に加えて、ローグにこの世界の作り方を教えてもらっていたので、魔法袋に蓄えが有った。


 縛り方に関しては、一族で伝承していた捕縄術に加えて、ローグに教わった縛り方も覚えている。


 一族が伝承していた捕縄術は、日本製の縄の強度を前提にしている。

 俺がこの世界の材料で自作した縄の強度では、縄抜けされたり破縄されたりするかもしれないので、ローグに教わった縛り方をしている。


 今回俺を襲ったのは十三人の男達だった。

 どいつもこいつも美形で、なんか腹が立つ。


 ただ、耳が少し長い気がする。

 昔のSF映画に出ていた宇宙人を思い出す。

 ただ、あんなやつよりはずっと美形なのだが。


「おい、卑怯者、何故俺を襲った、正直に答えないと殺すぞ!」


 服装と武器から一番偉いと思われる奴を起こして脅した。

 まだこの世界に慣れていないので間違っているかもしれないが、三カ月の間に知った知識から考えると、たぶん間違いないだろう。


「……」


「どうしても答えないと言うのなら、拷問しなければいけなくなる。

 今は捕らえただけの仲間も、拷問しなければいけなくなる。

 どうしても話さないのなら、順番に殺さなければいけない」


「……」


「俺を殺そうとした者の罪を問いたい。

 許すためには、俺を殺さなければいけないだけの正当な理由が有るのか知りたい。

 神に誓って自白させろ。

 コンフェス・トゥー・ゴッド」


「何故俺を殺そうとした」


「里の事を人間に知られないためだ」


「人間に知られてはいけないのか?」


「そうだ」


「それは、お前達が人間ではないと言う事か?」


「そうだ、俺達は人間ではない」


「見た目は人間と同じだぞ。

 ほんの少し耳が尖っているくらいだぞ。

 後は人間離れした美形だが……」


「それが私達種族の特徴だ」


「その種族、人間とは違う種族とは何だ?」


「エルフだ、我らはエルフ……と人間の混血、ハーフエルフだ」


「半分人間の血が混じっているのに、人間との交流を避ける理由はなんだ」


「差別されるからだ、人眼扱いされず、奴隷にされるからだ」


「……人間と言うのは、どの世界に行っても同じなのだな。

 それで、奴隷にされないように山奥に隠れ住んでいると言う訳か?」


「そうだ、どのような手段を使ってでも、秘密は守らなければならない!」


「俺が神に誓って秘密を漏らさないと言っても信じられないか?」


「信じられん、人間の言う事など、絶対に信じられん!」


「では仕方がない。

 お前達を人質にして逃げる事にするよ」


「やはり人間は卑怯だ!」


「たった独りの寝込みを集団で襲っておいて、よくそんな事が言えるな。

 卑怯なのはお前達だ。

 他の人間がやった卑怯を理由に俺を襲う、最低だな!」


「くっ、黙れ!

 我らを奴隷にして地獄の苦しみを与える人間相手に、正々堂々と戦えるか!」


 混血エルフにも言い分があるのは分かる。

 だがそれを俺に押し付けるのは許さない。

 積極的に攻撃する気はないが、黙って殺されてやる義理もない。


 魔術で自白させた奴にもう一度麻痺と睡魔をかけた。

 朝までに少しでも眠れるようにだ。


 実際には短時間の睡眠を細切れに取っただけだ。

 最初の襲撃が失敗しているのだ、第二第三の襲撃があるかもしれない。

 その危険が高いから、長時間深く眠る事はできなかった。


 六頭の馬達が襲撃を察知してくれるのを信じて、眠る事もできる。

 人によったらそうしただろう。


 だが、幼い頃から陛下を御守りする事を最優先に躾けられた俺には、他人に大切な命を委ねる判断など絶対にできない。


 陽が登る前に、この地を立って人間の村に向かう心算だった。

 だが、その前に予定を変えなければいけない事が起きてしまった。

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