第6話:プロローグ・強行突破

「逃がすな、城門を閉めろ、跳ね橋を上げろ!」


「おりょりょ、意外と真面目に見張っていたのね。

 急げよ、送れたら置いてゆくぜ」


 ローグの言葉を信じた俺が馬鹿だった。

 城内の兵士にはろくな奴がいない。

 城門の守備兵もさぼっているから、簡単に突破できるなて大嘘だった。


「嘘ばかりつきやがって、覚えていろ!」


「おりょりょ、ドラゴンちゃんは何を怒っているのかな?」


 揶揄われているのは分かっているが、本気で腹が立つ!

 ローグを殺すと頼れる者が全くいなく無くなる。

 だが、こんな奴ならいない方がましか?


「次に嘘を言ったら殺す!」


「おりょりょ、こわい、こわい、怖いねぇ~

 だが嘘を言ったわけじゃないぜ。

 普段はこんなに警戒していないんだ。

 だからこそ俺様が王城の奥深くに入れ込めたんだよ」


 ……確かに、そうでなければローグはここにいないか。


「まあ、王様が捕らえられているんだ。

 魔術師団長達は殺し合っていても、他の連中は暇だからな」


「いや、暇とか忙しいとかの問題じゃないだろう」


「まあ、覚悟を決めろや。

 王様を人質にしたばかりか、拷問して半殺しにしているんだ。

 ちょっとでも隙を見せたら、本気で殺しにかかってくるぞ!

 跳ね橋が上げられる前に、一気に突っ切るぞ!」


 なるほど、今の言葉と表情を見て分かった。

 ローグは最初から命懸けで強行突破する気だったんだ。

 

 だがそれを口にすると、まだ人柄の確かではない俺がビビるかもしれない。

 馬に無理矢理乗せた王が暴れ出すかもしれない。

 直前まで黙っておいて、嫌でも直ぐに決断しなければいけない状況にしたのだ。


「分かったよ!」


 ローグが俺の前で馬に鞭を入れた!

 厩は駿馬揃いだったが、派手好きなのか白馬を選んだ。

 闇に隠れたいのなら青馬を選ぶべきなのだが?


 宝物を自分で持っているのは、金銀財宝に対する執着か?

 予備の馬を三頭も連れているのだから、どれか一頭に括り付ければいいだろう。


 俺もローグに無理矢理押し付けられた白馬に跨っている。

 しかも、失血で意識が朦朧としている国王との二人乗りだ。

 だからどうしても遅くなる。


 ローグに持ち出してもらった宝物は、予備の馬に括り付けてある。

 最初は俺も三頭の馬を予備にしようとしたのだが、何故か他の馬もついてきた。

 

 俺が選んだ青毛、青鹿毛二頭に加えて、目立つ栗毛、尾花栗毛に駁毛まで。

 いや、厩にいた馬全部がついて来てしまった。

 逃げる際に敵を混乱させられると思って追い払わなかったが、どうなっている?


「遅れるな!」


「言われなくても分かっている!」


 とは言ったが、でっぷりと太った王との二人乗りでは速度がでない。

 王を落としてやりたいが、敵が本気で攻撃してくるのが怖い。

 異世界で死ぬなど絶対に嫌だ!


「勇者を奴隷にしようとする卑怯下劣な者共を殺せ、ファイア・ソード」


 ローグには、魔術は使えない、呪文も知らないと言ったが、大嘘だ。

 確かに日本には魔力も魔術もない。

 だが、一度だけだが、この世界で魔術が使われるのをこの目で見た。


 見様見真似だが、魔術が使えるか試してみた。

 跳ね橋を上げようとしている狭間に向かって試してみた。


 今でも信じられないのだが、本当に炎の剣が飛んでいった!

 さっき見た魔術師は一つしかなかったのに、俺のは三つもあった。

 もしかして、卑怯下劣な者共と複数形で言ってからか?


「勇者を奴隷にしようとする卑怯下劣な者共を殺せ、ファイア・ソード」


 跳ね橋を上げるには、橋先の左右二カ所に繋がっている鎖で引き上げる。

 一ケ所にいる人間だけを皆殺しにしても駄目だ。

 だからもう一ケ所にもファイア・ソードを放った。


「助かったよ」


 ローグが後ろを振り向くことなく礼を口にした。

 今更だが、何故異世界の言葉が分かる?!

 ローグが腹に一物あるのが分かる!


「いや、このままでは逃げ遅れると思ったから、適当に唱えてみた。

 本当に魔術が使えるとは思ってもいなかった」


「ヒィヒヒヒヒヒ~ン!」


 跳ね橋は少し地面から持ち上がっている。

 そのまま進むと水掘りに落ちてしまう。


 だが、ローグが選んだ白馬は見事な飛越をしてくれた。

 こいつなら障害のG1でも勝てるのではないか?


 厩にいた馬は、どの子もひと目で駿馬だと分かった。

 その中で俺が青毛と青鹿毛を優先的に選んだのは、夜の闇に紛れたかったからだ。


 ローグが白馬を俺に押し付けたのは、逃がさないようにするためか?

 俺が確保した宝物を奪う気なのか?


「気を緩めるなよ。

 まだ内城の城門を突破しただけだぞ。

 次は外城の城門を突破しなければいけない。

 更に王都の城門も突破しなければ本当の自由はないぜ」


 ローグが馬の脚を緩めて話しかけてきた。


「強行突破できそうか?」


 声色に不信が混じらないように気をつけて答えた。

 異世界語が話せて理解もできる事を不思議に思うのは後だ。

 できる事はできると割り切って、分かって出来る事を利用する時だ。


「ドラゴンがもっと強力な魔術を使ってくれたら大丈夫だ。

 勇者様なのは間違いないのだから、もっと強力な魔術が使えるはずだ。

 聞きかじった呪文じゃなくて、もっと強力な呪文はないのかよ?」


 ファイア・ランチャーとかファイア・バズーカ。

 ファイア・バトル・キャノンとかファイア・キャノン・バルカンと唱えたらどうなるのだろう?


 そんな強力な魔術が使えてしまったら、ローグの言う魔力が枯渇してしまう。

 ローグの目的は、俺を魔力切れにする事か?

 逃げ切るために俺を使い倒す気か?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る