第4話:プロローグ・ドラゴン&ローグ
「あんた、名前は何て言うんだ?」
「おりょりょ、勇者様が盗賊の名前なんて聞いてどうするの?」
「いつまでも、あんた、お前では他人行儀だろう」
「おりょりょ、勇者様が盗賊を友達扱いかい?」
「友達ではないが、命懸けで一緒に逃げる身だ。
互いの名前くらいって知っておくべきじゃないか?」
「だったら最初にお前さんのお名前を教えてくれよ」
「俺の名前は竜造寺仁だ」
「リュウゾウジジン」
「異世界人の名前は珍しいな。
勇者なのに名字がないのか?」
「竜造寺が名字で、仁が名前だ」
「ほう、異世界と此方では名前と名字が逆なんだな。
だったら長い名字は止めて、ジンと呼ばせてくれ」
「それなら竜と呼んでくれ。
俺のいた世界では、友人にはリュウと呼ばれていた」
「異世界では名前ではなく名字を短くして愛称にするのか?
それでは一族全員が同じ愛称になってしまうだろう?」
「いや、家族や故郷、学校や職場によって愛称は違っている。
竜というのは、一族が誰もいない場所での愛称だ。
一族の間ではジンと呼ばれているが、お前は一族ではない。
だからリュウと呼んでくれ」
「リュウ、リュウねぇ、何か意味があるのかい?」
「この世界で言うドラゴンだ。
俺の家には伝説があって、遠い昔の先祖は竜を生み育てたそうだ」
「だったらドラゴンと呼ばせてもらうぜ」
「ちょっと待て、この世界でドラゴンなんて愛称を使うのは、とんでもない勘違い野郎なんじゃないのか?!」
「おりょりょ、バレちまったか」
「この野郎!」
「まあぁ、待て、ドラゴンと呼ぶのにはちゃんと意味がある」
「揶揄ったわけではないのだな?!」
「ああ、真剣に考えてドラゴンと呼ぶことにした」
「理由を教えろ、好い加減な理由だったらぶん殴るぞ!」
「お前さん、いや、ドラゴンは勇者だ。
これはどうしようもない現実で、避けようがない」
「俺が異世界で勇者に選ばれるなんて、信じ難い事だが、現実なら受け止める」
「その場合、信じられない速さで強くなっていく。
これは隠したくても隠せない現実だ。
最悪なのは、ドラゴンがこいつに召喚された勇者だと言う事だ」
盗賊は連行している王を剣で小突いた。
「ギャアアアアア、やめろ、やめろ、やめてくれ!」
「こいつがビーストマン王国に恨まれているからか?」
「そうだ、パイユトリー王国で召喚された勇者と分かったら、ビーストマン王国から徹底的に狙われる。
更に言えば、パイユトリー王国を良く思っていない国々全てから狙われる」
「ドラゴンという、恥ずかしい愛称を使うだけで、本当にそれらの危険から逃れられるのか?」
「絶対ではないが、たぶん大丈夫だ」
「この世界の常識が全く分からないのだが、何故大丈夫なんだ?」
「この世界には、神や聖獣、精霊や妖精の加護を受けた者がいる。
だから、ドラゴンの加護を受けたとアピールする事で、異常な速さで強くなるのを誤魔化せるのだ」
「信じ難い話しだが、今の俺には信じるしかない。
分かった、正直恥ずかしいが、ドラゴンと名乗る事にする」
仁という愛称は、本当に親しい者にしか使われたくない。
少々恥ずかしくても、ドラゴンの方がましだ!
「それで、あんたの名前と愛称は何なんだ。
俺が恥ずかしいのを我慢するんだ。
嘘偽りなく教えてもらうぞ!」
「おりょりょ、これは誤魔化せないな。
わかった、わかった、本名と愛称を教えるよ。
俺の名前はシャルル・ド・バツ=カステルモール。
仲間内では悪漢、ローグと呼ばれている。
ドラゴンもローグと呼んでくれ」
「悪漢だと……ローグを愛称に使うなんて、粋がっていたのか?」
「はん、こんな世の中だ、粋がってなきゃ、やってられねぇよ」
「あんたが何と名乗ろうと俺の知った事ではなかったな。
この城から逃れるまでの付き合いだ。
それで、ローグには上手く逃げる算段が有るのか?」
「当たり前の方法しかねぇよ、ドラゴン」
「愛称を嫌味な使い方するな!」
「悪漢なんだから、それくらいの嫌味は言うさ。
さて、真面目な話、できるだけ長く王を人質に取るしかない。
血管を切っているから、向こうも引き延ばしができない。
問題は王を捨てる場所だ」
「連中が追って来られない場所、追いつけない道具が必要だな」
「ドラゴンは馬に乗れるのか?」
「ああ、向こうでは子供の頃からかなり真剣に乗馬を習っていた。
少々の暴れ馬だって乗りこなす自信がある」
幼い頃から皇宮護衛官になるべく育てられてきた。
特に花形である騎馬護衛に従事できるように、乗馬を重点的に学ばされた。
俺自身も、馬と触れ合える乗馬の時間が大好きだった。
「それはいい、俺も馬を操れるから、特に優秀な馬を拝借して行こうじゃないか!」
馬泥棒は死刑が常識だが、今更だな。
俺を奴隷にしようとした連中に遠慮などいらない。
もう既に結構遣り過ぎているのも自覚しているが、毒を食らわば皿まで、いや、今回は騎虎の勢いといった方が良いのか?
「おい、厩の場所くらい知っているだろう。
さっさと案内しろ!」
ローグが剣で王を小突いているが、ぐったりしているぞ?
まさか、失血死するんじゃないだろううな?!
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