第24話:無言の密入国
俺が巨大な熊をパントリーに収納してからローグが戻って来た。
ところが何時ものローグとはがらりと雰囲気が変わっていた。
何か言い訳をするのかと思っていたのだが、何も言わなかった。
ローグは自分の割り当てになっていた馬に近づこうとしたが、馬達が俺の後ろに隠れるのを見て、何も言わずに先を歩きだした。
金銀財宝を入れた麻袋を馬の背に乗せようともしなかった。
無理矢理騎乗しようとしたり、荷物を運ばそうとしたりしたら、力尽くで止めさせる心算だったから、ちょっと拍子抜けした。
ローグは何も言わず、黙々と分かり難い道を登って行った。
もう俺に罠のありかを教えようともしない。
これが最後の同行だと思い知ったのかもしれない。
それならそれでありがたい。
この世界に無理矢理召喚された直後なら、ローグの助けが必要だったが、今なら最低限の事が分かっている。
多少は騙される事もあるだろうが、もう命にかかわるような大失敗をする事はもないと思う。
村人や商人に騙されるよりも、ローグに寝首を掻かれる可能性の方が高い。
悪漢ローグと言われるだけあって、最低限の仁義はわきまえているが、目先の利益に理性を失う欲深い所がある。
最低の村で手に入れた金銀財宝は、予想以上に莫大な価値があった。
欲深いローグが独り占めにしたいと思ってもおかしくない額だ。
それに、金銀財宝を運ぶ駄載獣の事もある。
馬達に言う事を聞かそうと思えば、助けている俺を排除するしかない。
ローグなら、俺さえいなくなれば、力尽くで馬に言う事を聞かせられる。
そんな事をぐるぐると思いながらローグの後をついて歩いた。
普段よくしゃべるローグが何も話さないと拍子抜けしてしまう。
俺から歩み寄らすためのローグの策かもしれないので、警戒してしまう。
一歩登るごとに疲労が溜まる。
この山の標高がどれくらいなのかなど、俺には全く分からない。
この世界に標高を計る技術があるとも思えない。
ただ、村人基準で高い低いや険しい優しい、の差があるだけだ。
そういう村人基準では、今登っている山々はかなり厳しいらしい。
猛獣や魔獣による被害が大きく、街道を除いての交易が危険で利益がでなくて、国の境界に使われるほどだ。
馬達はしっかりとした歩様でついてくる。
蹄を痛めた様子もなく、山の頂きを越える事ができた。
背に他人を乗せず、荷物も載せていないのが良かったのだろう。
山は下りの方が危険である。
登りは筋肉が披露するだけだが、下りはケガをする可能性が高くなる。
特に関節を痛める確率が飛躍的に高くなる。
下りで膝にかかる衝撃は体重の三倍と言う人までいる。
少し太った状態で山に登ると、直ぐに膝に水が溜まってしまう。
そんな負担は人間だけに加わるのではない。
馬も同じように負担がかかるのだ。
だから、ヒョイヒョイと素早く下りるローグにはついて行けない。
無理をすればついて行けない事もないが、無理をするとケガをするかもしれない。
ケガをした状態でローグに襲われるのは危険だった。
だから、無理にローグに追いつこうとは思わなかった。
ローグも俺や馬を待とうとはしなかった。
ここでローグ分かれてしまったら、頼まれた親探しを独りでやらなければいけなくなるから、俺が歩み寄ると思っているのだろうか?
自分はもちろん馬達がケガをしないようにゆっくりと山を下った。
ローグに追いつくために無理しなかった。
ローグの方が何所かで待っているだろうと思っていた。
俺の予想は完全に外れた。
言い訳など口にせず、全く何の関係もない軽口を叩いて、馬を生贄にしようとした事を誤魔化して合流すると思っていた。
だが、ローグはどこにもいなかった。
この辺で合流するだろうと思った、少し開けた場所にもいなかった。
正直、もうローグの跡を正確に追えているとは思えない。
ローグなら、正確に密貿易商人が使う道を追う事ができるだろう。
だが、俺に同じ事ができているとは思えない。
ローグ教わったお陰で、本当に危険な罠に嵌る事はなかった。
何度か危うい所はあったが、決定的な罠には嵌らないですんだ。
だが、中腹を越えて下った頃に、道を間違えてしまったようだ。
これまで仕掛けられていた罠が完全になくなっていた。
気付いた時には、もう戻る気にもなれないくらい下っていた。
覚悟を決めて戻っても、間違えた分かれ道を見つけられるとは限らない。
万が一何度も道を間違ってしまったら、山の中で陽が暮れてしまう。
知らない危険な山で、陽が暮れてしまうのは命に係わる。
それくらいなら、このまま完全に山を下りてしまった方が良い。
ローグとはぐれる危険も道に迷う危険も、常に考えていた。
山の一番高い所で、頂きで下界の状況は確認してある。
どの方向に進めば確認した村にたどり着くかくらいは覚えている。
まあ、道を見失ってしまった以上、自力で何とかするしかない。
誰に原因を求めてもどうにもならない。
皇宮警察ではサバイバル訓練は行わない。
だが、我が一族は伝統的にサバイバル訓練を行ってきた。
自衛隊のレンジャー部隊ほどではないが、それなりに鍛えたと言う自負はある。
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