第22話:猜疑心
俺とローグは慌てず確実に山道を登って行った。
賢く丈夫な馬達は、危なげなく山道を登ってくれる。
街道とまでは言い切れないが、獣道とは明らかに違う道ができている。
俺が思っていた以上に、奴隷商人は頻繁に行き来していたようだ。
それでも、俺だけでは道ではない方向に踏み込んでいただろう。
罠を仕掛けているのかまでは分からないが、間違って踏み込んでしまいそうになるように、踏み固められた道らしきものが危険な方向に続いている。
だがそんな迷い所でもローグの脚は止まらない。
間違えやすい場所を指摘してくれる。
その上で間違った方向に進み、どのような危険があるかも教えてくれる。
こういう親切な面もあるのに、目先の金には思いっきり汚くなる。
最初はどう対応していいのか分からなかったが、少し慣れてきた今では、同じ様に金に汚い態度で接したら抑え込めると分かった。
「そろそろ馬を下りて引くぞ」
「分かった」
ローグの判断に誤りはない。
これ以上乗っていると馬に負担がかかり過ぎる。
「奴隷商人の連中も、ここで馬か驢馬から下りているようだ」
「なんでそんな事が分かるんだ?」
「連中の中にはそれほど馬に慣れていない者もいるようだ。
乗り降りする時に利用する、石や枝に使い込んだ跡がある」
ローグが指し示す岩と枝には、確かに何度も人が手をかけた跡がある。
自然な意志と木々なのだが、丁度良い場所と高さにあるのだ。
「鉢合わせするような事はないだろうな?」
「ふん、俺様がいるのだぞ。
奴隷売買の連中だろうと、密貿易の連中だろうと、俺様が先に気付く」
大した自身だが、それだけの実績がある。
俺が一緒に行動するようになって、一度も先に気がつかれた事がない。
常に敵対している相手を出し抜いている。
「悔しかったら魔術で何とかするのだな」
ローグの言う通りだ。
勇者召喚されたのだから、何かに秀でていて当然だ。
現にローグから教えてもらった魔術は全て再現できている。
ただそれには、単に魔術の呪文を覚え唱えるだけでなく、魔術の仕組みを理解しなくてはいけない、事にしてある
心から信用できないローグに全て正直に話している訳ではない。
俺が使える魔術は、ローグに教えてもらった魔術と、ローグと一緒にいる時に覚えた魔術だけだと、表向きはそう言ってある。
だがそれ以外にも、ローグがいない時に教えてもらった魔術と、小説で読んだり映画で見た超常現象が再現できたりしないか試してみて、実現できたものがある。
「そうだな、毎回魔術が使える者を探して教えを乞うているが、最近では覚えてしまっている魔術だけだからな」
「そりゃそうだ。
多少でも効果のある魔術が使える奴が、村に残っているはずがない。
王侯貴族に仕えるか、冒険者や狩人になってブイブイ言わせている。
つまりドラゴンの覚えた魔術は、ほとんど役立たずと言う事さ」
「そうだな、魔力量が多いから、工夫すれば何とか役に立つが、狩りや戦闘には役に立たないかもしれないな」
「けっ、もう騙されている演技は止めだ。
この前の収納といい、消音といい、とんでもなく役にたっているよ。
攻撃魔術も、その気になれば十分使えるだろうが!
最初に城から逃げ出した時に攻撃魔術を使ったのを忘れてないぞ」
そうだった、あれだけ大々的に使っておいて、今更攻撃魔術は使えませんと言って信じてもらえるはずがなった。
だが、できるだけ隠しておくべきだろう。
「あれは召喚された直後で何も分からなかったから、必死の想いで祈り願ったら偶々魔術が発動しただけだ。
あれから何度やっても魔術は発動しない。
俺の世界で言う火事場の馬鹿力で、普段から使える魔術じゃない」
「おい、ドラゴン、あまりにも酷い言い訳だと分かっているか?」
「信じてもらえないとは思うが、本当の事だ」
「……俺様から能力を隠した気持ちは分かるが、無理だぞ。
いい加減諦めて認めろ」
「いや、本当の事だから、嘘など言っていないから。
ローグの前で教えてもらった通りの呪文を使っているのに、魔術が発動しない事もあっただろう?」
「あれは、属性が合わなかったか、レベルが足らなかったからだ。
召喚勇者なのだから、属性が足らない訳がない。
レベルの問題だから、今なら使えるはずだ。
それとも、俺様を騙そうとわざと失敗したのか?」
「レベルも属性も合っていて、魔力がある状態で呪文を唱えているのに、魔術の発現に失敗するような事が有るのか?」
「普通はないが、勇者ならできるかもしれない。
お前は油断ならないからな」
「昨日の金銀財宝の時といい、ローグは疑い深すぎる。
勇者だからと言って何でもできる訳じゃないぞ」
「いいや、伊達や酔狂で勇者召喚されたわけじゃない。
それだけの能力があるから、勇者として召喚されているのだ。
現に、騙して利用しようしていた連中が、大変な目に合っている」
「だったら、ローグが俺を騙して利用しようとしていない限り、何の心配もいらないと言う事だろう?
それとも、また俺を騙して利用しているのか?」
「シッ、気をつけろ、何か強大な気配が近づいてくる!」
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