第2話:プロローグ・出会い

「急がないと、また王の指をへし折るぞ!」


 何か考えながら俺を案内する騎士が疑わしくて、脅してみた。


「余計な事を考えるな、愚か者!

 言われた通り井戸の有る場所に案内しろ」


 魔術師服を着ている偉そうな奴が騎士に命じている。


「……はっ」


 だが騎士は腹に一物あるようで、素直に案内しているとは思えない。


「国王陛下、あの騎士が何か良からぬ事を考えているので、仕方がありません。

 また指を折らせてもらいますね。

 恨むならあの騎士を恨んでください」


「やめよ、止めるのだ!

 止めないと厳罰に処すぞ!

 やめろ、やめてくれ、おねがいだ、やめでギャアアアアア」


 五本目に折ったのは右中指だ。

 指輪は折る前にポケットに入れてある。

 ……生きて陛下の元に戻る為には手段を選んでいられない。


「国王陛下、あの馬鹿にちゃんと井戸に案内するように命じてください」


「愚か者!

 お前は処刑だ!

 一族一門皆殺しにしてやる!

 魔術師団長、その者を焼き殺せ!」


 白豚が魔法使い服を着た偉そうな奴に命令した。


「申し訳ございません、召喚術で魔力が尽きてしまいました」


「この役立たずが!

 お前、あの男を殺せ!

 殺さなければお前の一族一門も皆殺しにするぞ!」


「陛下!

 私は陛下をお助けするために策を練っていたのでございます!

 私に任せていただけましたら、必ずお助けしてみせます!」


 俺を案内していた奴が本当の事を白状した。

 甲冑を着ている連中が天を仰ぐような態度を取っている。

 井戸の場所を知っている連中は、俺を騙すのに協力していたのだ。


 馬鹿だ、ここにいる連中全員馬鹿だ。

 策を弄している事を見抜かれているのに、どうやって罠に嵌めるのだ?

 俺を罠に嵌められたとしても、その時は白豚も道連れだぞ?


「やめろ、やめるのだ、やめてくれ、仲間じゃないか、うギャアアアアア!」


 俺を罠に嵌めようとした馬鹿な騎士が、同じ様に馬鹿な騎士達に叩き殺された。

 完全装備の甲冑の上から剣で叩きまくられたのだ。

 刃が入って斬り殺される事はなくても、衝撃で脳が破壊されて死ぬ。


 それにしても、一度は俺を騙そうとしたくせに、王の命令には従う。

 国王に睨まれた助からない政治体制のようだ。

 絶対王政の世の中なのか?


「陛下、私がこの者を井戸まで案内します。

 どうかご安心ください」


 こんな時にまで自分をアピールしようとする奴がいる。

 愚かな王には、性根の腐った騎士しか仕えないのだろう。


 やはり最初の騎士は何か罠を仕掛けようとしていたのだろう。

 案内を買ってでた騎士も、俺を騙す気でいたのだ。

 僅かな隙も与えてはいけない!


「おい、僅かでも疑わしいと思ったら、今度こそ目玉をえぐるぞ!

 道が長いと感じたら、もう一本二本指をへし折るぞ!」


 再度脅して新しい案内人の後に続く。

 緊張を緩めずに案内する騎士の後を歩いていたが、城は防御のために複雑に作られているようで、一度下りた階段を再び上って別の階段を下りる事になった。


 これまでの場所よりも奇麗に掃除されている場所に出た。

 松明の量も増えて明るくなっている。


 壁も岩を積んだだけの構造ではなく、化粧に白石灰が塗られている。

 下働きしかいない井戸に、こんな手間と金は使わない。

 馬鹿が、また俺を罠に嵌めようとしたな!


「何者だ?!」


 もう一度王の指をへし折ってやろうとしたのだが、その前に騎士が誰かを見つけたようで、厳しい声で誰何した。


「おりょりょ、勇者召喚の隙をついて盗みに入ったのに、こんな所までやって来るなんて、お前達も王家の秘宝を盗みに来たのか?」


「黙れ盗人!

 王家の秘宝を盗むような不忠を誰がするか!

 陛下の財宝を盗むなど絶対に許さん!

 斬り殺してやるから、そこに直れ!」


「バカヤロウ、誰が自分から殺されるかよ!

 お前が死にやがれ!」


「「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 案内の騎士と言い争っていた奴は腕が立つ!

 案内騎士だけでなく、一緒に前を歩いていた四人も一瞬で斬り殺した

 盗みに入ったと言っていたが、俺のイメージする盗賊ではないな。


 親戚の子に付き合わされて観た洋画にでていた、冒険者に似ている。

 革鎧を装備していて、剣はそこそこ長い。

 盗賊ならナイフとかダガーだろう。


「おりょりょ、お仲間かい?

 城の連中に見つかるなんて、どじだねぇ~」


「見つかったわけではない。

 無理矢理召喚とやらで呼び出されたのだ」


「おりょりょ!

 勇者様ですかい?

 これは、これは、ご苦労様ですね。

 こんな糞溜めのような国に呼び出されるなんて、勇者様も運が悪い」


 俺と笑顔で会話しているが、一瞬も油断していない。

 後方で剣を抜いている騎士達はもちろん、俺に対しても警戒している。


 それでも、背中に担いだ麻袋を放り出す気はないようだ。

 あの麻袋一杯に国宝とやらが入っているのだろうな。


「勇者様に相談があるんだが、俺にも一枚かませてもらえないかな?

 人質にしているのは王だろう?

 そいつを使って一緒に城から逃げようじゃないか」


「俺は籠城して元に世界に戻れるようにさせる!」


「おりょりょ、勇者様も意外と冷酷なんだねぇ~

 元の世界に戻るために千人も生贄を捧げさせるなんて」


「やはりそうなのか?

 呼び出すだけでなく、元の世界に戻すのにも生贄が必要なのか?」


「当たり前でしょうが。

 同じ魔術を逆に使うだけなんだから、同じだけの魔力と生贄が必要だぜ」


 陛下の所には一刻も早く戻りたいが、悪人を懲らしめるのならともかく、無辜の民を犠牲にして戻ったりしたら、陛下に愛想をつかされてしまう。


「で、俺と一緒に城から逃げる気になったかい?」

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