ドラゴン&ローグの異世界バディ物語

克全

第1章

第1話:プロローグ・悪い異世界召喚

「成功だ、勇者召喚に成功したぞ!」


「首輪だ、奴隷の首輪をかけろ!」


「急げ、失敗したら許さんぞ!」


 なんだ、どうなっているのだ?

 行幸先で陛下の盾になったはずなのに?

 陛下は、陛下はどこにおられるのだ?!


「大人しく奴隷になれ!」


 西洋風の甲冑を着た連中が、ガチャガチャと音を立てながら殺到してきた。

 洋画の中世物で時々見る、奴隷がつけられている首輪を持っていやがる。

 あれを着けられたら、とんでもない事になりそうな気がする。


「舐めるな!」


 気合の怒声を放って思いっきり蹴り飛ばしてやった。

 皇宮護衛官になるために、幼い頃から英才教育を受けてきたのは伊達ではない。

 武芸百般とまでは言わないがが、武道有段者枠で合格できた腕前だぞ!


「くそ、こいつ、召喚直後だと言うのに強いぞ!」


 俺に蹴り飛ばされた奴が周囲の甲冑に警告をしている。

 八割、いや、九割が甲冑姿で、残り一割が変な服装をしている。

 親戚の子に無理矢理見せられた、ファンタジー映画に出てくる魔法使いみたいだ。


「愚か者、魔法を使え、魔法で麻痺させるのだ!」


 ……玉座にいる、でっぷりと太った白豚が訳の分からない事を命じている。

 飽食の限りを尽くし、碌に動かない怠惰な生活がひと目で分かる。

 

 身体中に悪趣味な宝石をゴチャゴチャと付けていやがる。

 十本の指、全てに品のない大きな指輪をはめてやがる!

 陛下の清廉潔白で気高い精神とは、比較にならない下劣な奴なのだろう。


「はっ、我に仇名す者を動けなくしろ、パ……」


 信じられなくても目の前にある現実に従うのが我が家の家訓だ!

 即断即決、臨機応変、縦横無隅でなければ陛下を御守りできない。


「動くな、動いたらこの豚を殺すぞ!」


 卑怯といわれようと知った事ではない。

 いや、先に卑怯な方法を使ったのはこいつらの方だ。

 一番偉そうなやつを人質に取るのが、多数の敵を相手にした時の定石だ。


「おのれ、卑怯者、国王陛下を放せ!」


 やはりこの白豚が国王だったか。

 こいつを人質にしておけば、ここから逃げられる確率は高くなる。


「動くな!

 動いたらこいつの首をへし折るぞ!」


「動くな、陛下の御命が一番だ!」


 変な服を着ている中の一人が、周りの連中を止めている。

 洋画で魔法使いが来ていた服だったか?

 こいつが白豚の次に偉いのだろう。


「俺に何をした、正直に言わないと、この白豚の首をへし折るぞ!」


 俺が白豚の首に両手を添えてへし折る演技をすると。


「まて、まってくれ、話す、正直に話す!」


「嘘だと判断したらこいつを道ずれにして死ぬ!

 こいつは国王だろう?!

 国王を守り切れず、俺に殺されたとなったら、お前達全員処刑だろう?!

 少しでも疑わしいと思ったら、お前達全員を道連れにするぞ!」


「わかった、分かったから、絶対に早まるな!」


「さっさと話せ!

 時間稼ぎやごまかしだと思ったら、殺すぞ!」


 俺が白豚の首を少し傾けると。


「召喚だ、異世界から勇者召喚をした。

 しかたがなかったのだ、魔王に侵攻され、民を救うためにしかたなく……」


「ギャアアアアア!」


 俺は白豚の右親指をへし折ってやった。

 こんな豚に剣を握れるとは思えないが、万が一の事がある。


「嘘を言うな!

 こんな醜く太った奴が、民の事など考えるか!

 なんだこの品のない宝石の数々は?!

 民から搾取して自分達だけ贅沢三昧しているのだろう!

 そんあ奴が民を救うだと、笑わせるな!

 俺を騙そうとした罰だ、お前の所為で白豚の指がまた折れる」


「ウギャアアアアア!」


 今度は左親指をへし折ってやった。

 直ぐに指が腫れて来て指輪が外せなくなる。

 ……両親指にはめてあった指輪を外しておこう。


「もう一度だけチャンスをやる。

 今度嘘をついたら指では済まさんぞ!

 両眼玉をえぐり出しやるぞ!」


「やめろ、やめてくれ、もう嘘はつかん、だから止めてくれ!」


「さっさと本当の事を言え!」


「戦争だ、我が国は隣国と戦争をしているのだ。

 その戦争に勝つために、捕虜を生贄にして勇者召喚をした。

 だが、勇者が我々の言う事を聞くとは限らない。

 だから奴隷の首輪をはめて、言いなりに戦わせようとしたのだ。

 本当の事を言ったぞ、陛下を放せ!」


「馬鹿か!

 そんな腐れ外道を前にして、命綱ともいえる人質を離す訳がないだろう!」


「卑怯者、我らを騙したのか?!」


「やかましい、卑怯者はお前らだ!

 おい、白豚、食糧と水がある所を教えろ!」


「しらん、食糧や水がある所など、余は知らん」


「ギャアアアアア!」


 三本目にへし折ってやったのは、右人差し指だ。

 もちろん折る前に趣味の悪い大きな指輪は抜いて、俺のポケットに入れてある。


「まて、待ってくれ。

 陛下が食糧庫や井戸の有る場所を知っておられる訳がないだろう。

 陛下や私のような立場の者は、食事や水は従者に命じて持ってこさせる」


 なるほど、この世界には水道もなければ冷蔵庫も無いのかもしれない。

 

「おい、お前、お前は井戸の場所や食糧庫の場所を知っているのか?」


「……」


 近くの甲冑に聞いてみたが、返事をしない。


「ウギャアアアアア!」


 四本目にへし折ってやったのは左人差し指だ。

 もちろん嵌めてあった趣味の悪い大きな宝石のついた指輪は俺のポケットの中だ。


「馬鹿者!

 直ぐに井戸の有る場所にご案内しろ!」


「はっ!」


 上官に命じられたからだろう。

 俺の命令に従わなかった騎士が飛び上がるようにして歩き出した。

 さて、どうやって陛下の所に帰ればいいのだ?

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