ケモノメ軍団、推参!(その3)

   

「そうか、貴様がハットー家の……。庭人にわびとから追放されて、ハットーの隠れ里へ逃げ帰った、と聞いていたが……」

 動揺は一瞬だけで、すぐにデグロールは冷静さを取り戻した。

「……まだ王都に潜伏していたとは! しかし、こうしていぶり出された以上、その命運も尽きたぞ!」

 ニンマリと笑いながら、部下の獣男ケモノオたちをけしかけると……。

「者ども、かかれ! 一人も生かして帰すな! 皆殺しだ!」

「それはこっちのセリフよ!」

 リンが叫んだのを合図に、獣女ケモノメ軍団も走り出す。

 こうして今、半獣族同士の大乱戦が始まるのだった。


――――――――――――


 青い長髪は人間の姿の時と同じまま、顔立ちは狼っぽくなっているスザンナ。

 一度は駆け出した彼女だが、すぐに足を止めて、仲間たちを先に行かせる。

 戦場で立ち止まれば目立つため、黒いローブの獣男ケモノオたちが何人も、そんなスザンナに群がろうとするが……。

「妖刀召喚……」

 彼女がボソッと呟くと、頭上の空間に裂け目が発生。そこからスーッと、一本の剣が落ちてくる。刀身がユラユラと青白く光る、不気味な剣だった。

「妖剣士スザンナ、参る!」

 気合を入れるかのように短く叫んでから、スザンナは再び走り出した。手にした剣を一閃させながら、向かってくる獣男ケモノオたちの間を駆け抜ける。

 相手の獣男ケモノオたちは、彼女の素早いアクションについていけなかった。一刀のもとに斬り伏せられて、次々と地面に屍をさらしていく。

「凄腕の剣士だ!」

「近づくとられるぞ!」

「ならば近づかなければいい! 遠巻きにして仕留めろ!」

 炎の球を投げつける獣男ケモノオや、同じく妖術で氷の礫を降らす者も現れたが……。

「ハッ!」

 力強い声と共に剣を振るって、スザンナは炎も氷も叩き斬ってしまう。

 妖刀そのものの斬れ味に、スザンナの巧みな剣術が加わった結果だった。

 そして、

「馬鹿な!?」

 驚愕する術者の獣男ケモノオたちもまた、一瞬のうちに駆け寄られて、スザンナの斬撃で絶命するのだった。


――――――――――――


 ふんわりした緑色の髪の間から、兎の長い耳がピョンと伸びているクローディア。

 彼女は走りながら、右に左に、その手を突き出していた。

「炎よ! 氷よ!」

 クローディアの言葉に応じて、赤い光や青い光が、手のひらから飛び出していく。

「けっ! そんな目立つ攻撃、当たるものか!」

 何人かの獣男ケモノオたちは余裕の笑みすら浮かべて、クローディアの攻撃を起用にかわしながら、彼女に近づいていくが……。

「風よ! 砂よ!」

「うわっ!?」

「前が見えねえ!」

 ある者は突如発生した竜巻に包まれて体を拘束されて、またある者は目に飛び込む砂塵で視界を塞がれてしまう。

 戦場でそのような状態に陥るのは、もちろん命取り。

「炎よ!」

「ぎゃあああああああ」

 クローディアに襲いかかる獣男ケモノオたちは、こうして次々と焼き殺されていくのだった。


――――――――――――


「さすがクローディアちゃん。『七色の術士』って異名は伊達じゃないねー」

 夜空には星々が煌めき、満月に照らされた中庭だが、それでも昼間ほどは明るくない。そんな中でクローディアが連発する炎の妖術は、まるでキャンプファイヤーのように目立っていた。

 子猫を彷彿とさせる目鼻立ちとなり、金髪ツインテールの頭上には猫耳が生えたアイリス。つい彼女は、クローディアの戦いぶりに目を向けてしまうが……。

 そんなアイリスの周りにも、獣男ケモノオたちが群がってくる!

「おおっ!? 私も頑張らなくちゃねー!」

 仲間たちと同じく戦衣いくさごろもを身に纏っているが、鈴付きの赤い首輪チョーカーもまだ首に巻いている。

 さらに左右の前腕部――肘と手首の間――には、銀色のひらたい円盤を装着。よく見れば、それは酒や料理を運ぶために『妖狐ようこ亭』で使われているトレイだった。

 獣男ケモノオたちが斬りかかったり殴りかかったりするのを、銀色のお盆で受け止めていくアイリス。

「見ろ! このガキ、防戦一方だ!」

「もっと畳みかけろ! まずは、こいつから仕留めるぞ!」

 襲いかかる獣男ケモノオたちの攻撃が激しくなり、アイリスは顔をしかめた。

「そう思われるの、ちょっと癪に触るなー」

 それまで防具として使っていたトレイを、武器として振り回し始める。

 一見したところ『妖狐ようこ亭』のトレイと同じものだが、そのへりは薄く研ぎ澄まされ、刃物のように鋭くなっていたらしい。アイリスに近寄る獣男ケモノオたちが、傷だらけになっていく!


「大丈夫、傷は浅いぜ!」

「みんな離れろ! しょせん子供の攻撃、リーチは短いぞ!」

 アイリスが与えたダメージは致命傷には程遠ほどとおく、獣男ケモノオたちはバッと跳び退いた。

 小柄なアイリスの腕では無理でも、自分たちからは届く。そんな距離を見極めて、そこから攻撃するつもりらしい。

 しかし。

「あれー? 距離を取ったら、かえって危ないよー」

 腕からトレイを外して、アイリスは敵に向かって投げつける!

 単なる円盤投げならば、一度投擲してしまえば戻ってこないだろう。しかしアイリスが投げたトレイには、妖術で編まれた不可視の糸が結び付けられていた。

 アイリスの巧みな操演により、銀色のトレイは、獣男ケモノオたちの首筋をピンポイントで切り裂いていく。彼らは頸動脈からプシューッと血を噴き出して、次々と倒れ込むのだった。


「仲間の犠牲を無駄にするな! 今のうちだ!」

 生き残った獣男ケモノオたちは、再びアイリスに襲いかかる。身を守る盾が宙を飛んでいる今ならば、彼女は無防備。そう判断したのだが……。

「残念でしたー。私のニックネーム、『円盤投げのアイリス』でも『お盆ヨーヨーのアイリス』でもなくてね……」

 男たちの攻撃をけながら、アイリスは近くの大木を駆け上がった。

 降りてきたところを襲うつもりで、木の幹を取り囲む獣男ケモノオたち。彼らの様子を樹上から見下ろして、明るく呼びかける。

「いいかなー? いっくよー!」

 同時に、赤い首輪チョーカーからむしり取った小さな鈴。それを真下に投げつけると、大爆発が巻き起こった!

 集まった獣男ケモノオたちが全滅したのを確認しながら、アイリスは笑顔を浮かべる。

「……私は『鈴爆弾のアイリス』。迂闊に近寄ると、みんな爆殺しちゃうからねー!」

   

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