闇夜の襲撃(その4)
「どうした、どうした? あれだけ豪語しておきながら、貴様の力はその程度か!」
ガハハと笑うような口調で、殴り合いを続ける熊男。
完全に、戦いを楽しんでいる者の口ぶりだった。
熊の
熊男はここまで、まるで
手を使うにしろ足を使うにしろ、ほとんどフェイントを交えず、ただ愚直に突いてくるばかり。一撃一撃に重みがあるからそれで十分、という感じだった。
「くっ……!」
対照的にグレンダは、体を捻ってかわしたり、小さく跳んでみたり、回し蹴りを叩き込んでみたり。熊の
そうでもしないと、体格差をカバーできないのだ。しかも今の彼女には、左腕が満足に動かせないというハンデもある。
直撃を食らわないようにするだけで、精一杯だった。
「くっ……!」
冷や汗をかきながら、なんとか相手の攻撃を捌き続けるグレンダ。
口からは呻き声も漏れているが、しかし頭の中では落ち着いて、今の状況について考えることも出来ていた。
こうして戦っていると、不思議としか思えない点が出てくるのだ。
それは、熊の
そもそも
ならば、さっさと全力でグレンダを倒してクラウドたちを追う、というのが道理なのだが……。
この熊の
相手の思惑が何にせよ、グレンダとしては、二人を足止めさえ出来ればそれで十分。そう思いながらも、筋が通らない点があるように感じられて、何だか不気味だった。
そして不気味といえば、もう一つ。
もう一人の――おそらくパンダの――
もしも二人がかりで来られたらグレンダの手に余っただろうに、彼は参戦の意思を全く示さないのだ。
彼女に「パンダの
最小限の動きで仲間の援護をしている、という意味では優秀なのかもしれない。しかし表立って戦いに加われば、もっとグレンダを困らせることが出来るはずなのに、それをしようとしないのは、やはり不可解に思えるのだった。
――――――――――――
「グレンダさん、大丈夫でしょうか? 彼女一人、本当に残してきてよかったのかな……?」
不思議に思いながらもグレンダが懸命に戦っていた頃。
エチルゴは走りながら、やはり不思議そうに首を
「心配めさるな、エチルゴ殿。魔法灯はあちらに置いてきたのだから、彼女なら大丈夫だ」
「いやいや、クラウド様。そりゃあ暗いより明るい方が安全でしょうけど、でも魔法灯は武器じゃなくて、ただの明かりですよ? あんなものが彼女の助けになるのかどうか……」
騎士のクラウドの方が自分より戦闘関連に詳しいのは当然。それは承知の上で、ついツッコミを口にしてしまう。
クラウドの言う通り、一つしかない照明器具は、グレンダと一緒に残してきていた。だから今のエチルゴたちは、真っ暗な中を走っている
もう少し先まで行けば、明るい大通りに出るはずだが……。
「待て!」
短く叫びながら、クラウドがいきなり立ち止まる。ずっと掴んでいたエチルゴの手も放して、逃走中は腰に収めていた剣を、改めて引き抜いていた。
クラウドの緊張が伝わり、エチルゴもキョロキョロと周囲を見回す。暗いせいもあって具体的には何も見えないが、夜の闇の中に何者かが潜んでいるのだろう、と想像することだけは出来た。
恐怖でブルッと体を震わせると、エチルゴに背中を向けたまま、クラウドが優しく声をかけてくる。
「おかしいと思わないか? 大通りまでまだ少しあるとはいえ、その魔法灯の光くらいは、既に届くはず。それが全くないということは……」
彼の声は途中から、厳しい響きに変わった。
「……私たちが今、目にしているものは、おそらく現実の状況ではない」
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