ケモノメ軍団、推参!(その4)

   

冷凍拳フリージング・ナックル!」

 オレンジ色の短髪はツンツンと跳ねたまま、頭に丸い耳が生えたグレンダ。熊の顔つきになった彼女が力強く叫ぶと、その右手は青い冷気に包まれていた。

「ハッ!」

 向かってきた黒ローブの獣男ケモノオを殴りつける。

 グレンダのこぶしを腹に食らった相手は、悲鳴を上げる暇すらなかった。命中した箇所が凍っただけにとどまらず、氷を砕かれるようにしながら、グレンダのこぶしが貫通。背中から彼女の腕を生やす格好になっていた。

「まずは一匹!」

 グレンダがズボッと腕を引き抜くと、絶命した獣男ケモノオが大地に倒れ込む。

「こいつ、強いぞ!?」

「一人じゃダメだ! みんなでっちまえ!」

 複数の獣男ケモノオたちが、同時に襲いかかるが……。

 彼らは皆、グレンダの青いこぶしに気を取られすぎだった。

「ハッ! ハッ!」

 左のパンチだったり、チョップだったり、あるいは肘打ちだったり。ハイキックや回し蹴り、膝蹴りなどの足技もあった。

 それぞれ重い一撃を叩き込まれて、死体の山を築いていく。


 そんな快進撃を続けるグレンダの前に立ち塞がったのは、激しい威圧感をはな獣男ケモノオ。青いローブを着た白熊であり、グレンダにとっては昨夜の因縁の相手だった。

 彼女は足を止めて身構えながら、軽口を叩く。

「昨日はどうも。今夜は、そのお礼参りに来たわ」

「一介の酒場女と見誤ったのは、我の不手際だったな。まさか貴様も半獣族とは……。しかも熊ではないか。昨日の『熊は苦手』は、いわば同族嫌悪か?」

「そんなようなものね」

 曖昧に答えるグレンダ。

 実際には「同じ熊の半獣族が暗殺みたいな汚れ仕事を請け負っているのは許せない」という義憤だったが、そこまで説明する義理はなかった。

「フッ。昨日も告げた通り、我は無益な殺生は好まぬ。しかし……」

 白熊の獣男ケモノオは大きく息を吸ってから、溜め込んだ何かを吐き出すような勢いで、両手を前に突き出す。

「……ハットー軍団の獣女ケモノメ相手ならば話は別! 昨日は預けた命、今日はキッチリ刈り取らせてもらうぞ!」

 片手ではなく両手の分、昨夜よりもさらに大量の氷のやいばが、グレンダに襲いかかった!


「その技なら一度見てるんだよ!」

 グレンダが吠える。

 さすがに「一度見た技は二度と通用しない」とまで豪語するつもりはなかったが、それでも初見とは大きく異なり、対応は容易たやすかった。

 冷気を纏った右手だけでなく、左腕や両足も使って、向かってくる氷を全て叩き落としていた。

「ほう、それが貴様の実力か。昨日の傷も、既に癒えているようだな」

「優秀な仲間がいるからね!」

 かなりの大怪我ではあったが、クローディアが完全に治してくれたのだ。彼女が相当な妖気を費やしたのは、治療される側のグレンダにもよくわかった。

 そんなクローディアの頑張りに報いる意味でも、この白熊の獣男ケモノオは必ず仕留める。グレンダは、改めて決意を固めていた。

「それは僥倖。同じ熊の半獣族、それも同じ氷の使い手と戦えるのは、我としても良い経験になる……」

「おあいにくさま。あたしは氷の妖術使いじゃないよ」

 相手の言葉を遮ったグレンダは、それを証明するかのように、右手の冷気を消してしまう。

「何っ!?」

「あたしは『徒手空拳のグレンダ』。おのれの肉体こそが武器であり、妖術は補助にしか使わない。しかも……」

 グッと両手を引くような構えから、白熊の獣男ケモノオに向かって、凄い勢いで走り出すグレンダ。まるで大気との摩擦熱で発火したかのように、左右のこぶしは真っ赤に燃えていた。

「……どっちかっていうと、氷より炎の方が得意でね。二重獄炎拳ダブル・インフェルノ・ナックル!」

「なんと!」

 迎撃のために、再び無数の氷のやいばはな獣男ケモノオ。しかしグレンダの体に届く前に、それらは全てジュッと溶けて蒸発してしまう。

「ハッ!」

 あっという間に相手の目前まで辿り着いたグレンダが、赤いこぶしで殴りかかる。

 獣男ケモノオも殴り合いに応じるが、もはや「殴り合い」というよりも防戦一方。受け止めるだけで精一杯どころか、一撃一撃を食らうたびに、焼けつくような痛みを感じる有様だった。

 やがて。

 グレンダのこぶしが纏う炎により、着ていた青いローブも燃やされて、すっかり丸裸となった白熊の獣男ケモノオは……。

「これが貴様の、本当の実力か……。完全に見誤った。それが我の敗因だ」

 プスプスと焦げた煙を体の所々から上げて、その場に倒れ込み、ピクリとも動かなくなるのだった。

   

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