ケモノメ軍団、推参!(その5)
「あの女だ! あれが大将首だ!」
「あいつを
身の
リーンレッタ・ハットーと名乗ったリンだが、赤い長髪を後ろでアップにまとめているのは『
さらに体を取り巻くようにして、いくつもの青白い炎が浮かんでいるのも、まさに狐のイメージだろう。いわゆる狐火というやつだった。
「あんたたち
リンの意思に応じて、狐火が変化。短剣の形になると、まるで投げナイフのように飛んでいき、周りの
「ぎゃっ!?」
ただし本物のナイフではないので、体に突き刺さるわけではなかった。触れるや否や
「お前たちの手に負える相手ではない! 下がれ!」
梅の
既にリンは中庭から縁側に足をかけるどころか、梅の
「あんたがここの
「ミノグールの頭領が、こんなところまで出向くわけなかろう」
馬鹿にした口調で言い
「俺はミノグール十人衆の一人、デグロール。貴様の首、頭領への手土産にさせてもらおう!」
「あら。あんたも配下の者たちと同じで、身の
リンがスーッと手を動かすと、ナイフのような無数の狐火が、一斉にデグロールに襲いかかった。
しかし……。
「ふんっ!」
気合を込めたデグロールは、虎の爪を生やした大きな
「あんた、その
リンが怪訝な顔をする。
デグロールは単に手数が多かったというより、攻撃の瞬間、物理的に腕の本数が増えたみたいに見えていたのだ。
「……幻術の
「一目で見抜くとは、さすがはハットー家の頭領! しかし……」
白い牙を覗かせて、デグロールがニヤリと笑う。
「……聞いているぞ。貴様の二つ名は『無限火炎のリーンレッタ』だろう? ならば、その多量の狐火が最大奥義のはず」
「あら。あんただって、いきなり手の内を見せてるみたいだけど……」
「俺は『百虎拳のデグロール』とも呼ばれている。実体を伴う幻とわかったところで、俺の百虎拳は破れまい!」
言い切ると同時に走り出し、デグロールがリンに襲いかかった!
――――――――――――
「くっ……」
攻防を繰り返しながら、リンは少しずつ
キリンガルム侯爵が控える部屋まで一度は足をかけたというのに、また縁側に逆戻り。しかも、ほとんど中庭ギリギリまで戻されている。
デグロールは有象無象の
リンの無限火炎――周りに浮かぶナイフの狐火――と、デグロール自慢の百虎拳――幻術を交えた拳術――は、一対一ならばおそらく互角。しかしこの場にはデグロール配下の
その分だけ、リンはデグロールに押し負ける格好になっていたのだ。
「どうした、どうした? 由緒正しきハットー家を背負って立つ頭領が、その程度か? それでは
「違うわ! あれは……」
モーリッツ大公が企てた陰謀に巻き込まれたのだ。そう言い返したいリンだが、それどころではなかった。
今は、この虎の
なんとかして相手の術の隙を見出そうと、リンがいっそう気を引き締めた瞬間。
「ぎゃっ!」
リンの方から新たな術を仕掛けたつもりはないのに、突然デグロールが悲鳴を上げる。
いつの間にか右目に何かが刺さり、デグロールは酷く痛そうに、手で押さえていた。
「畜生!」
汚い言葉を吐きながら、それを引き抜いて投げ捨てるデグロール。
カランと音を立てて
リンはその正体を知っている。それは『
こんなものをピンポイントで敵の目に投げつける者など、一人しかいないだろう。
「やっぱり来ていたのね、ヨーゼフの親父さんも……」
リンはチラリと振り返る。
方角としては、おそらく中庭に隣接する建物の一つ。姿は確認できないけれど、屋根の上に味方が一人、夜空の暗さに紛れて
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