実況05 このパーティの実情を分析・採点してやろう。(解説:KAI)

 小娘ルナの詠唱がようやく終わった次瞬。

 遥か上空から、真っ白なボールのような……雹が無数、墜ちてきた。

 それは、別の小娘マリアの落とし穴にはまっていたヤモリ目掛けて降り注ぎ、ことごとくが砕け散った。

 氷と言う物質の強度を思えば、弾丸としてそれほど優秀ではないはずだが。

 ただ、砕けた個々の雹から、次々に冷気のモヤが放射した。

 それは、ヤモリをたちまち冒し、白濁した氷漬けに変えてゆく。

 結局の所、凍え死なせる為の冷気が、雹の一つ一つにこめられているのだろう。

★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 戦う

LUNA   ヘクサネイル(★3)

GOU   戦う

KAI    戦う

MALIA  戦う


 もはや、トドメが確定しているのなら、★を使いきる必要はない。

 ザグッ! ぐしゃっ! グジュグジュグジュッ!

 ……。

 後に残ったのは、白い霜で覆われた肉片だけだ。

 ここでおれが、各メンバーを評点しようと思う。

 

 まずはLUNAルナ

 典型的な“頭でっかち”だ。

 経験年数に対する、魔法の質自体は悪くはないが、その他がお粗末すぎる。

 教養エデュケーションはあっても、それを運用する知性インテリジェンスがまるで足りん。

 第一、その魔法にした所で、GOUゴウの調整に頼らねば使うことすら出来なかったと言うザマだ。

 大魔法の出来だけを言えば、このレベルならそこら中にゴロゴロいる。

 

 次にGOUゴウ

 おれは、ある意味でこの小僧が一番イラつく。

 主体性がない。この一言に尽きる。

 スキルのことごとくが、他人に合わせて作っているのがバレバレだ。

 おれの目はごまかせん。

 奴自身の戦力を支える“ゴーレム”にしたってそうだ。

 大方、別の近未来SFゲームから得た発想なのだろうが、このゲームで実現するには、MALIAマリアの土行魔法が必要不可欠だった。

 自力で作りきれない主戦力とは、何なのか?

 奴のスキルは徹頭徹尾、誰か他人に依存している。

 仲間のうち、誰か一人でも裏切ったらどうするつもりだ?

 よほど甘い世界から来たと見える。

 

 次にMALIAマリアなる小娘だ。

 土行属性のユニーク・スキル、それ自体は比較的珍しくはない。

 だが、それが目立ち始めたのはここ五年以内の事だ。

 それも、運営のテコ入れだろうか、どうもユニーク・スキルの付与対象が当時の新規ユーザーに限られていたらしい。

 つまり、土行使いは大半が若造だ。

 そして、歴史の深いこのゲームにおいて、プレイヤーの平均年齢は高い。

 生涯の戦友がもう固定されている所に、そんな輩が入り込む余地などあろうはずもない。

 例え、土行と言う戦略の幅が広がろうとも。

 だから、こんな野盗くずれのパーティに拾われたのだろう。

 ……それだけでは何なので、個人単位の戦力として言及する。

 正直な所、瞬間的な洞察力やら応用力は悪くない。

 だが、先のヤモリ型競合種の“自切”を素で知らなかったあたりといい、不自然に世間知らずだ。

 そう、ちょうど別の小娘であるLUNAルナとは真逆。

 知性インテリジェンスの高さに対して教養エデュケーションが不釣り合いに低い。

 いいとこのお嬢様……なら、こんな、VRMMOなんぞやってはいないだろう。

 おれも土行使いと組んだのは、この歳にして初めてだが、金行も使えるのは、ある意味誤算だった。

 まあ、金=鉱物、と考えれば、辛うじて通じていると言えなくもないが。

 とは言え、残りの三行をロックされて使えないハンデは大きいだろう。

 

 最後にHARUTOハルト

 この中では、辛うじて一番マシだと言える。

 回復やバフ魔法は、極論、どんなタイミングで使っても無駄になる事はまずない。

 つまり、ヒーラーとは最もコストコントロールのしやすい役割だとも言える。

 だから、ヒーラーを司令塔とするパーティ様式、それ自体は珍しくもなんともない。

 ただ……なんと言うべきか。

 本当に微妙な差異なのだが、こいつの判断には、無駄がない。

 言い換えれば“遊び”がなさすぎる程に、きっちりしている。

 どこか、このおれですら、薄気味悪さを感じる。

 

 ーーこいつ、おれがガチで育てれば大化けするかも知れん。

 ーーいや、こいつ自身の強みよりも、むしろ、おれが気にするべきなのは、

 

 脳裏に浮かび上がった文字列を、おれはすぐさま打ち消した。

 今さら、なにを、

 他人に心を砕くなんて、アホの所業だ。

 どうせ、こちらが真剣になった所でーー裏切られるだけだ。

 

 さて、奴らのパーティはこのまま廃墟を抜けて、町外れの“カ=ギシ遺跡”に行くそうだ。

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