実況21 HARUTOのバカ・補足(解説:鞭使いINA)

 1ターン毎にあたし達のスピードが少しずつ、際限無く加速していくパッシブスキル【ギア・ヘイスト(◆4)】

 敵にタネが見破られなければ問答無用で勝ち確定となるスキル。

 その割にコストが安いとは思わないだろうか?

 それは、相応に制約が重い事を示している。

 簡単な話だ。

 力学的に“速さ”とは“力”であると言う事。

 だから、加速が極まったあたしやRYOリョウの攻撃一発で、テンプル騎士どもはあっさりガラクタに解体されたのだけど。

 それは、あたし達側も同じだった。

 あたし達の筋力を高めて真っ当に瞬発力を高めているのでは無く、あたし達に流れる時間そのものを加速しているから、被擊した場合の衝撃もそれだけのものになるわけだ。

 特に、体術を専門とするRYOリョウは、相手の強度やウエイト、その瞬間の勢いを見極めて攻撃しないと自分へのダメージも大きい。

 トラック同士が正面衝突したら、どうなるかと言う話だ。

 また、出血した場合、すぐ回復魔法を掛けないとあっという間に失血死してしまう。

 大昔、ファミコンのアクションゲームで“オワタ式”と言う遊び方があったらしい。

 チート等で自分の操作するキャラクターの体力を1にする事で、何を喰らっても即死するものだったらしいけど、まさしく加速しきったあたし達はそれと同じだった。凡ミスの一回も許されない。

 しかも、あたしの使う武器は鞭。それも二刀流。挙げ句の果てに、片方はウルミと言う自傷・誤爆上等なやつ。

 余裕そうに見えたけど、あれは今回の敵が雑魚だったからだ。

 ああ見えて、自分の攻撃にはかなり神経を使っていた。

 世の中、旨い話には裏があるって事。

 それでも、このスキルはあたし達二人にとっては理想形の一つだろう。

 RYOリョウが鉄壁の守備力で、あたしが持ち前の機動力で序盤を凌ぎ、防戦一方と思わせておいて、気付けば手が付けられないスピードに加速する、初見殺し。

 HARUTOハルトで、早く試したかったなぁ、ホント。

 ちなみに、このスクリプトを書いて貰うのに10年ローンを組んだって話したと思うけど、それが出来るって何気に凄いなと思った。

 流石老舗タイトル。ゲーム自体の信用がそれだけ高い証拠だ。

 

 さて。

 あたしは、武器を革の一本鞭に持ち替えた。

 正確には武器と言うより“用具”かな?

 勿論、拷問用。

 今回の対象は、あたしの前で縛られて、這いつくばっているテンプル騎士。

 何だっけ? 女の肉を削ぎ落とすのがだーい好き、だって?

 ……こいつを拷問するメリットってあまり無いんだけど、帰ったら、あたしに逆らった雑魚の末路を広めてくれるようにしておきたい。

 尤も、後はこの大穴を降りれば亡命は成功したも同然なんだけどね。

 まあ、本当の理由は色々ムカついてるから。それで充分でしょう。

 あたしは、フランベルジュ君の目の前で鞭の音を立てた。

「な、なんだよ、さっさと逃げろよ、でないとーー」

 取り敢えず開幕一発。

 ピシィ! と言う音を立てて、奴の横っ面をひっぱたいた。

 たちまち肉が裂け、遅れて血の珠が膨張、小川のように流れて来た。

「鞭ってさ。拷問用具の代名詞みたいな所があるけど。苦痛や恐怖を与える物としては地味だと思わない?」

 だって、肉が切れて痛い。それだけじゃん。

 少しずつ首が折られるだとか、股間を潰されるだとか、そう言うのに比べたら真面目すぎるんだよね。

 だから、

「だから、何となくそれが面白く無くて。鞭だけを使って、股裂きとか鋼鉄の処女だとか、ああ言うのに比肩し得る拷問を考えたいって思った。

 柄の部分とか使ってみたり、振ったり縛ったり以外に何かやり方が無いのか」

 これぞ、読んで字の如く“縛りプレイ”ってか。

「彼女の身体への問い掛けボディランゲージはスゴいぞ。俺が保証しよう」

 RYOリョウが、大きな身体をわざとらしく震わせて口を挟んだ。

 前のゲームでオラついてたあたしが、彼にしてしまったヤンチャの話だ。

 その節は悪かったって思ってるよ。

 最近、こう言う意地悪を言うようになってきた。

 ……それだけ、距離が縮んだのだと思いたい。

「おま、お前ら、おかしいよ」

「あんたもどうせ、ハナからはみ出しもので、だから妥協してテンプル騎士団なんてやってたんでしょ」

 鞭をクルクル弄んで、この薄汚い下衆野郎を見下ろす。

「そんな中で、何とかしようって一度でも努力した? 自分より圧倒的に強い奴に、それでも諦めずに立ち向かおうって。

 まあ、弱いもの苛めの人生を選ぶのも、個人の自由ではある。

 でないと、今のあたしが悪者って事になるし」

 だから、良いんじゃない?

 あたしは勝って、こいつは負けた。

「後学の為、あたしの今後更なる躍進の為に、色々試させてね」

「ぃ……ひ……あぁあアぁアアァ嗚呼アぁ!?」

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 奴の悲痛な叫びが、周囲の浮遊岩を乱反射する。

 ごめんで済めばテンプル騎士は要りません。

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