実況22 小娘が急激に伸びて来やがった。ロマンスはこうも女を変えるものか。(解説:KAI)

 二人いる小娘のうち、LUNAルナの方だ。

 どうやら、HARUTOハルトとのロマンス関係を組んだらしいのは、包み隠さず公表して来た。

 おれも好きでこんなこと勘繰りたくはないが、色々なパーティで無数の人間模様を見てきたから、嫌でも分かる。ヤツら二人の元々の関係性を見るに、ロマンス判定を受けるにはかなりのテコ入れを必要とした筈だ。

 つまり、“一発ヤッた”事を半ば暴露するようなものだが、社会常識として、この報告は当たり前の事だ。

 ロマンススキルの存在は、パーティの戦略自体が一変しかねない程の重みを持つ。

 ヤツらの個人的な人間関係はどうでも良い他人事だが、戦力としては大きな変化を感じた。


★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO アルス・マグナ(★9)

LUNA  

GOU   消える魔弓(★1)

KAI    戦う

MALIA  戦う

 

 ーー私は彼の意思を受け取る。

 ーー同胞よ、私の意思をあまねく受け取れ。

 ーー我ら、千の軍勢に値せん。

 

 ーーアルス・マグナ。

 

 ……と言う詠唱が実際にあったわけではないが、“そう言う設定”なので脳内補完するように指図されている。

 面倒な小娘だ。

 それと、ラテン語で“大いなる術”を意味する技名。ここまで命名も実用一辺倒だったあの小僧にしては、気取ったネーミングな事だ。

 相方に対する、おれには分からない忖度があるのだろう。

 とにかく、あかあおみどり……様々に着色された魔法光エフェクトがおれ達に降り注いだ。

 次瞬、おれのーーおれ達全員の身体が密度を倍加させたようにみなぎって来た。

 

【アルス・マグナ(★9)

 パーティ全体の筋力・装甲性・知覚・魔法力を倍加させる。

 反動として、各自の肉体に全力疾走相当のスタミナ消費を強いる。

 よって、効果の解除は各自の任意で可能】

 

 強化系補助バフ魔法では、考え得る最上級の効果だろう。しかも、この効果が無詠唱で得られるのだ。

 ロマンスシステムである事と、反動のバランスから、妥当な設定だろう。

 どうもヤツらが前にやっていた核戦争後の世界のゲームにあった“インプラント式歩兵支援システム”から着想を得たらしい。

 ……色んなゲームを渡り歩く事で見えるものもある。

 それを、おれ自身も認めつつあった。

 おれは大人だ。年長者だ。

 結果を出されれば、認めざるを得ない。

 それが出来ない、頭の固い年長者を誰よりも嫌っていたのは……30代の頃のおれ自身だったのだから。

 若い頃のおれを上から目線で押さえ付けていたヤツらのようにはなるまい。そう思っている。

 

 話を、目の前の戦いに向けよう。

 今、おれ達は浮遊岩が点在する、地上と地底大陸との出入口ーーグラウンドポイント、HEAVEN&EDENのヤツらと交戦していた。

 ここでの戦闘は、足場の悪さから双方1パーティずつが限度とされている。

 つまり、おれ達は大地の民側を代表して、敵の代表と戦うわけだ。

 制空権と言う点では、HEAVEN&EDEN側が有利な戦いとは言える。

 後はお互いの魔法の性質ーー上から落ちてくるものしか使えないヤツらと、土属性の地形をリソースとする土行魔法ーーの差違がどう働くか次第だが。

 こちらには、その両方が揃っている。

 GOUゴウが、矢を透明化させて放った。

 命中こそしなかったものの、斧を持った敵の前衛が足踏みをした。

 ヤツの目線を追えば、本来はその更に後方の槍を持った敵が狙いだったようだが。

 矢と言う飛翔体ミサイルが人間の動体視力では見えないのはどの道同じなので、劇的な意味がある訳ではない。

 だからコストが★1で済んでいるのだが、矢の軌道が見えづらいのは、咄嗟に、本命ターゲット以外の疑心暗鬼を誘う事も出来る。

 1ターン目の初擊、かつ、残った★1の空消費としては良い手だ。

 あいつらしい、とも思った。

 このゲームのスキルには、作った人間の性格が出る。

 アルス・マグナの効果で、何でも出来そうな万能感を感じる。

 酔いすぎないように気を付けながら、おれも浮遊岩を跳び移り、前衛に躍り出る。

 敵もグラウンドポイントを攻めるだけあって、腕に覚えはあるだろうに。

 まるで年寄りのような鈍重さだ。

 剣を交えた感触も、ほとんどない。

 ただ単純に唐竹割りを叩き込んだだけで、早くも一人が死んだ。

 このターン自体、アルス・マグナに★を根こそぎ持っていかれたが、超強化された前衛が通常行動で“戦う”だけでも、余りある成果だ。

 おれの言い続けてきた事。

 スキルに頼るな。

 ★がチャージされるまでのクールタイムこそ、明暗を分ける。

 通常行動こそ、このゲームの肝である。

 

★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 微動回復(★3)→対象者:KAI

LUNA   死の息吹(★2)

GOU   分身魔弓(★3)

KAI    戦う

MALIA  デスサイズ召喚(★2)

 

 LUNAルナが、例の左手を解放すると、投石。それはバスケットボール大のエネルギー体を帯びて、にわかに速度を落とした。

 ★の消費に比例して、弾速を変える。

 予備動作こそカッコ悪いが、波動拳とはまた渋いネタを持ってきたと思った。

 おれが子供の頃、ストリートファイターは9まで出ていた。今もVR化して15作目が稼働しているが……リアルで波動拳を出す事を夢見たっけな。

 胡散臭い気功教室の広告を見て、通いたいと親にせびったりしてたな。

 そんな空想が頭をよぎるくらいゆっくりと、気弾が飛んでゆく。

 この布石は、後々効いてくるだろう。

 そして。

 あの小娘、最近になってようやく、おれの忠告を素直に受け入れるようになってきた。

 あとは「KAIカイさんの言う通りでした!」の一言でもあれば、まだ可愛げを感じるのだがな。

 GOUゴウの、技名通り二つに分裂した矢が上へ襲いかかる。これも命中こそしなかったが、足止めとしては充分だった。

 LUNAルナが、敵の流れ矢で肩口を抉られた。

 それでもヤツは、自分の放った気弾を追いかけるように、跳躍を止めない。

 

★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 汎回復(★4)→対象者:LUNA

LUNA   死の息吹(★2)

GOU   消える魔弓(★1)

KAI    戦う

MALIA  ストーンショット(★3)


 足場の浮遊岩を削り、MALIAマリアが石つぶての弾幕を張る。

 消える魔弓の掩護射撃もあり、敵陣は完全に停滞していた。

 LUNAルナは新たな気弾を投げた。

 ここから数ターンは似たような展開なので割愛する。

 

★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 汎回復(★4)→対象者:KAI

LUNA   ヘクサ・ネイル(★3)

GOU   戦う

KAI    戦う

MALIA  ミニコメット(★3)

 

 畳み掛ける。

 敵の一人に、ようやく気弾の群れが殺到する。

 だが、ヤツが跳び移り得る左右の浮遊岩は、おれとGOUゴウが既に抑えていた。

 LUNAルナが、左手に現した非実体剣で、釘付けとなったヤツに襲い掛かる。

 逃げ場がない、哀れな地上人は気弾の群れに全身を食い破られ絶命した。

 

 さすがに息が上がってきた、と思っていたが、敵は全滅していた。

 元よりおれ達のパーティは短期決戦型だ。

 丁度良い反動設定だと、改めて思った。

 

 このまま、敵地へ上がって、前線に参加するつもりだ。

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