実況23 とある戦役のひとつ(解説:命の剪除者MALIA)
ーー我、大地の命脈を通して召し出さん。
ーー摂理の大河を遡り、其の災厄は
ーーミーティア・リバース!
両軍、5パーティずつが衝突した野戦。
わたしの、★9を費やした大魔法が完成しました。
砦の残骸をバリケードとした、HEAVEN&EDEN側の人たちの陣地で、地面が砕けました。
それらは重力を無視して上に落ちていく、逆・流星群ともいうべき光景を作り出しました。
岩のひとつひとつ、大気圏を突き抜けるほどの推進力ですが、さすがにVRで宇宙まではカバーされていないので、エリアオーバーとなったオブジェクトはこの世から消滅します。
逃げ遅れた三人ほど、逆流星に轢き潰されて血煙になりました。
普段はパーティでの立場上、あまりわたしが使うべきスキルではありませんが、今は色々と状況がちがっています。
まず、敵味方ともに複数パーティが絡みあう、俗に“戦役”と呼ばれる状態であること。
★の保有こそパーティごとに別々ですが、個人単位での連携だった1パーティの時とは、やっぱり勝手が違います。
あるパーティが総出で前衛をつとめてくれる場合、別のあるパーティは★コストの大きいスキルを思いっきり撃つほうがいいことも多いのです。
そして、“天”の魔法と“地”の魔法、それぞれ相手の盲点をつくのが、この天地戦争でのキモとなります。
今のような遮蔽物ごしの敵陣には、特に土行の攻撃魔法が有効だったりします。
あとはやっぱり、
口と頭がすごく早く回るようになって詠唱も一瞬で終わりましたし、飛んでいった岩の数も倍くらいに増えていました。
これが、ロマンスシステム。
今まで、三次元の恋には全然うとかったのですが……すこし、あこがれたかもしれません。
それが、身近な人たちだったから、なのでしょうか。
あの
……ステキなことです。
本人たちは、スキル目当てだと言っていましたが……わたしは、こういうきっかけで始まる恋があってもいいと思いました。
時代は変わったのですから。
あと、思ったこと。
これはプレイヤー同士で戦うたびに常々思ってはいるのですが……当たり前すぎるのですが、こんなことは現実では絶対にできないはずです。
それが例え、魔法と言う現実離れしたものではなくて、大砲とか爆弾での戦いだったとしても。
けれど。
わかるんです。
その、現実にこんな力があるわけでもないし、あったとしても、こんな風に人を大勢殺すなんてできないはず。
現実には誰一人亡くなってはいない。
……その感覚に、少しずつ現実味が薄れてゆくことが。
忘れないようにって、何度も頭の中で自分に言い聞かせてきました。
けれど、そこに実感がこもらなくなって、ただの文字列に変わっていく。
怖い。
けれど、その“怖い”と言う感覚さえ、少しずつ空虚になっていく。
それが、怖いです。
ログアウトの手続きこそめんどうですが、VRMMOから現実の世界へは自由に帰ることができます。
けれど、それをする人はほぼ皆無です。
……社会復帰が、できないのです。
遠くに、途方もなく大きな“木質の山”が見えます。
わたしたちから見て、ミニチュアサイズに見える遠くです。
現実には根っこの部分も含めて富士山ほどはあるそうです。
あれが、HEAVEN&EDENの世界を支える大トレント・生命樹。
今まで隠匿されていた、わたしたちにとってのラスボス。
天地戦争の開戦直前、わたしと同じ使命を与えられた誰かが、封印を解くことには成功していたのです。
わたしたちパーティは、その中核である生命樹の顔への旅を続けます。
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