実況20 HARUTOのバカ(解説:鞭使いINA)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【祝福:装甲強化(◆6)】
【ギア・ヘイスト(◆4)】
これが、あたしのパーティが現在セットしているパッシブスキルだ。
……パーティと言っても、今は
だから、こんなスキル構成なわけだ。
あたし達は、もうテンプル騎士では無かった。
フェイタル・クエストが発令されたあと、すぐに退役したからだ。
……“意図”をばっちり運営AIに見抜かれて、今や脱走兵として追われる身でもあった。
ゲームシステム的には、テンプル騎士団属性のプレイヤー、及びその従士であるNPCと無条件で敵対した設定にされている。
テンプル騎士団と脱走兵が殺し合う分には、傷害罪・殺人罪には問われないから、それ以外のプレイヤーは中立になる筈なんだけど。
ただまあ、あたしが脱走兵となったのは、“大地の民”側に寝返る事を決めたからだ。
勿論、
そう言う意味では、結局、HEAVEN&EDEN勢の全てを敵に回した状態で、今の状況は半ば逃避行に近い。
早く地底大陸に行って、復活ポイントを確保しないと“詰む”可能性がある。
今更言うようだけど、VRMMOで死んでも、アバターは無制限に生き返るものだ。
その際、アバターの再構築は復活ポイントと言う特定の場所で行われる。
その復活ポイントが、今や敵地となったHEAVEN&EDEN側の土地である場合、生き返る所を大勢の敵に待ち伏せされて、延々と殺される危険があった。
本来なら、名前が“赤フォント”にされてまで、そんな嫌がらせをする意味は無いが、今のあたしは脱走兵、かつ、敵国のスパイ状態。
犯罪にならないのなら、良いストレス解消の捌け口にされる事だろう。
VRゲームでは、性的な干渉は本人の随意にロック可能なので、最悪の被害ーーエッチな行為をされる事ーーは無いが……最悪では無いレベルの、着衣の上からのしょうもないセクハラ行為は防ぎようも無い。
VR内に限って言えば、殺人は“赤フォント”どまりの罰であるのに対し、セクハラ行為はリアルの肉体が逮捕されてしまう。
変な話、殺人犯より痴漢の方が重い罰を受ける世界でもあった。
それでも、悪ノリしてレミングのごとく人生終わらせに行く輩は後を絶たない。
MMOでのロールプレイは人の判断力を狂わせる、とは昔からある格言だ。
ある郊外の森。
居並ぶ大木を根本からへし折って、途轍もない大穴が開いていた。
その時に砕けた岩盤がーーどんな力が働いているものかーー空中で静止していて、螺旋状の足場となっている。
足場は、文字通り奈落の底まで続いている。
グラウンド・ポイント。
フェイタル・クエスト発令後、各地に現れた大穴。つまり、地上と地底大陸を行き来する為の道だった。
そして。
3人のテンプル騎士と3人の従士NPC、合計6人、浮遊岩にそれぞれ陣取っていた。
あたし達を待ち伏せしていたのだろう。
圧倒的に数的不利。
脱走兵プレイヤーの始末も、テンプル騎士団ではシチュエーション違いの通常業務に過ぎない。
リーダー格であろう、背の高い男が大剣を見せびらかして、
「オレはこの
はぁ……。
面白味に欠ける。
変態としてすら三流って、本当に存在意義が無い。
さっさとスクラップにしよう。
★★★★★★★★★★
あたしは【ウルミ召喚(★2)】で、手早くインド古武術の鞭剣を具現化。
★★★★★★★★☆☆
武器を作っている間も足は止めず、浮遊岩から、より低地の浮遊岩へと跳び移って降りて行く。
取り敢えず、両手に直剣を持った二刀流の従士NPCの目前に迫る。
なまじの人間よりも反応の素早いAIが、あたしに二振りの剣を振りかざす。
【ロイヤルガード(★8)】
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
虚を突かれたNPCを出会い頭に殴り飛ばし、岩から叩き落とした。奈落の底で、水風船を落としたみたいな音がした。
残り五匹。
どんどんターンを回して行こう。
“中身入り”の騎士が一匹、あたしがNPCと一悶着していた隙に矢を放ったけど、これも
あの弓矢にしたって、兜の上から頭を破裂させるくらいの威力はあるだろうに。実際、
それだけだ。
やっぱり、ゴミスキルって謗られてる【祝福:装甲強化】だけど、金ピカアーマーを装備した変人にとっては効果が絶大だよね。
勿論、衝撃で転倒しなかったのは、彼自身の踏ん張りだ。
あたしは跳躍のペースを上げた。
相手が誰だろうとどうでも良い。
一番近くに居たから殺す。それだけ。
両手にカイトシールドを装着した、いかにもタンク役として飼われている従士NPCの側に跳び移った。
まさしく小手調べだ。
鞭の先端だけを当てて、すぐに引き戻すイメージ。
これで、秒間6、7回にも及ぶ牽制ジャブを叩き込む。
……へぇ。やっぱ、こう言う反射神経勝負の仕事させるなら、機械だよね。
タンクNPCは、両手のカイトシールドで、あたしの超音速なそれを悉く弾いた。
そのまま、盾であたしの事を殴り付けようとしてくる。
一寸遅れて降りてきた
そして、さっきの弓使いが放った矢も、片手間のラリアットで弾き跳ばした。
けれど、状況がここで膠着した。
「オラオラ、防戦一方になってんぞ」
ヒャーッハッハッハッ。
ああ、頭悪い。
★★★★★★★★★★
少しずつ狭まる包囲網。
それに抗い、あたしは浮遊岩を跳び移る。
身体の鈍重な
誰かしら、敵と同じ岩に着地しては、適当に★2の技を振るう。
【
反射的に振るわれた鞭が、あたしに放たれた矢を無意識に打ち落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あたしは更に、跳ぶペースを上げる。
いや、上がっていくと言うべきか。
少しずつ、敵の射手の狙いが粗くなってきた。
体感的に、異常がわかるくらいにはなって来たんじゃない?
奴らに有効打を与えられないまま、けれど、奴らは奴らであたし達を捉えられないまま、★がチャージされる。
★★★★★★★★★★
あたしの【
敵タンクに一方は弾かれ、もう一方は頬を引き裂いたけど、この程度は軽傷だろう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
どんどんターンを回そう。
★★★★★★★★★★
あたしの【
鞭に炎を纏わせて叩く技。以上。
ターンエンド。どんどん回そう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
…………。
気づけば、あたし達を包囲するテンプル騎士どもが棒立ちも同然のトロくささに成り下がっていた。
いや、正確には今のあたし達が速すぎるだけなんだけど。
★は空っぽだけど、ずっとあたしのターン!
これが、さっきご紹介したパッシブスキル【ギア・ヘイスト】の効果だ。
1ターンごとに、あたしと
【祝福:装甲強化】で鉄壁となった
そして何より★を効率良く消化する。
そしてターンが回り、その度にあたし達の“速さ”が増して行く。
さて、奴らは、あたしから見るともう止まっているも同然だ。
これだけあからさまに加速してたのに、誰一人気付かなかったなんて。
揃いも揃ってオツムが腐り切ってる。
【
★★★★★★☆☆☆☆
あたしの唸らせた鞭が、タンク役の首を何重にも絡め取った。
で、鞭で絡め取った奴の身体それ自体を鈍器としてぶん回して、アホ面晒してノロノロしてる別の騎士を頭から叩き潰す。
やっぱ、人体ってかなりの質量あるし、振り回す力さえあれば、鈍器に最適な材料だよね。
技のスクリプト的には「人間サイズのモノを絡め取って振り回す」程度の単純な記述だから、威力に対して低コストなのもセールスポイント。
鈍器にされた方はまず死ぬし、そんなものが脳天直撃した方も死ぬ。
最低でも二人の敵が死ぬ技だ。
まさに一石二鳥。一挙両得。
そして、
【バッファロー・チャージ(★6)】
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
彼は、その重戦車じみた体躯で愚直に突進。
もう識別もめんどくさい、何らかの敵を浮遊岩から叩き落とした。
【祝福:装甲強化】で増してる硬度に超スピードの力が掛け算されて、新幹線に轢かれたくらいのエグい威力になっている。
そんな感じで殺しまくり。
最後の生き残りーーフランベルジュの騎士だっけ?
女の肉を削ぎ落とすのが大好きらしい変態を鞭でふん縛って生け捕りにした。
いや、10年ローンまで組んで、スクリプト書いてもらった価値はあったよ【ギア・ヘイスト】。
思ったより文量が嵩んできた。
その辺の、スキルの詳細だとか捕虜にしたフランベルジュ君の末路だとかは、次回ゆっくりお話しします。
それで。
この戦いの後にあいつと連絡を取って初めて知った。
何を思ったのか、あいつもHEAVEN&EDENから寝返って大地の民に亡命していたって……。
ここまでの、あたし苦労……。
バカ!
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