実況19 突然、ロマンスシステムを使うと言われた(解説:LUNA)
本当に、ただ高度が低いだけで“地上”とほとんど変わらないんだなって思った。
一度、海が消えて地底大陸が露呈した、あの後。
私達が降りてきてから数時間後、また海底で蓋をされて、両世界は隔たれた。
純粋な目で見ると、こちらの街並みは普通に、何処か歴史的な造詣の残るヨーロッパの、夜の繁華街と同じに見える。
太陽は無いけれど、白い冷光を放つ人工天体のようなものが、その代わりなのだろう。
それで。
こっちの世界については、追々詳しく説明するとしよう。
問題は、それぞれのホームステイ先を決めた後、
「…………“ロマンスシステム”を、導入するつもりだ。協力して欲しい」
……、……。
……ぇ?
「……ぇ、な、誰が? 誰、と?」
彼は、しばし空を見上げた。
岩盤で閉ざされた、ドーム状の空を、無意味に。
そして、
「……自分と、君とで、だ」
自分が、何を言ってるのか、この男は理解しているのだろうか。
ロマンスシステム。
字面の通りだ。
二人のプレイヤーが“恋愛関係”となる事で、ゲームシステム的に様々な優遇が受けられるもの。
この恋愛関係と言うのは、当人の認識ではない。
運営AIが認めなければ成立しないのだ。
当然だ。
さもないと、偽装結婚ならぬ、偽装ロマンスが横行してしまい、ゲームバランスは崩壊する。
確かに、これを導入すれば、スキルスクリプトの自由度は更に上がるし、★コストも融通が利くようになる。
これからフェイタル・クエストと言うガチの大イベントを勝たねばならない事を思えば、当然の選択肢かも知れなかった。
……たぶん、そう。
だよね?
とりあえず、運営AIに対して【ロマンス判定】の申請を済ませた。
地底大陸の散策もかねて、二人で色々デートをしてみた。
空が岩盤で閉ざされていて、人工的な星の照明があしらわれている事を抜きにすれば、普通の公園があって、普通の寺院とかあって、普通のボート乗り場があったりした。
ちょっと、ちょっと待ってよ。
いくらなんでも、突然すぎて、私自身、頭がついていってない。
けど、デートは着々と進んでいく。
色気もへったくれもない。
スキル目当て。
そんな事、一度も意識した事のない相手同士。
ちょっと、シュールすぎない?
夕食。
地底大陸限定、ご当地グルメ。
討伐の困難な高級食材ヨルムンガンドをふんだんに使ったグリルを食べた。
部位によって全然味が違う。
グリルは白身魚みたいな味わいにも思えたし、唐揚げは、脂身の豊富な鶏肉のようにも感じられた。
でも。
今、私、スゴいものを食べてるはずなんだけど、そんな、そんなことよりもーー。
依然、私と彼の間に“ロマンス”の承認が下る気配は無かった。
何だか、ここでちょっとモヤっとした。
所詮は機械の判定するロマンスでしょ。
付き合いの長さだとか、やり取りのログだとか読めば、さっさと決められるんじゃないの? って。
でも、現実に、システムはうんともすんとも言わなくて、となると、このままでは最早ーー、
「…………宿を、取ろう」
って、なっちゃうよね。
私は、一息呑んでから、
何も言わず、コクりと頷いた。
でも、ちょっと、待って、心の準備、なんで、私、彼と、こんな事にーー。
“事”は順調に進んだ。
私的に、恥ずかしさのピークは服を脱いだ所まで。
あとは、成り行きに任せた。
私側からすれば、痛いばかりで何も良いコトなかったよ。
……こう見えて、はじめてだったんだよ。
とりあえず、彼と初めて身体を重ねて、色々とわかった事がある。
まず、彼は、アセクシャルでは無かった。
女性とは“できる”人だった事。
そして、男の人を性的な対象に出来る人では無かった事。
ある意味で、セクシャルさえ合致したなら、私より
このVR時代、同性愛のハードルは昔よりだいぶ低くなってるし。
だって、VRで“する”事によって、子供が出来るわけではないから。
この差は大きいよ。
性行為って、多かれ少なかれバックボーンに“それ”がちらつくんだから。
そのくせ、生理は律儀に来るのが腹立たしいんだけど。
余談だけど、ゲームによってはVR妊娠機能があるタイトルも存在する。
当然、生まれてくるのは非実在のNPCだ。
生んでみた結果、その辺の人間関係とか精神とか拗れるケースがほとんどらしい。
少なくとも私が知る範囲で、幸せになれた事例は皆無だった。
そう考えると、同性愛は全然ポピュラーな選択肢だった。
戦国時代、戦場に女人を連れていけない事情から生じた男色文化の再来だ。極めて自然の事ではある。
けれど、彼が選んだのは
また、女しか抱けないにしたって、
前者は敵対関係を楽しんでいる関係上めんどくさいにしても、私から見て大いに脈ありに見えるから、やり方次第でイケただろう。
それに、あの娘も何だかんだでやっかいな敵だし、ロマンスシステムを組めば、私達の仲間にならざるを得ないって考えたら、メリットは一番大きかったはずだ。
更に後者については「熱いうちに打つべき鉄」も良いトコだったよ。
あの極限の状況で、何の打算もなしに、恥ずかしげもなく「世界より君を選ぶ」って殺し文句を言い放ったんだよ?
勝ち確だったって、絶対。
繰り返すけど、少なくともこのゲームでする分には妊娠は念頭に入れなくても良い。
って事は、VR世界での貞操観念って、リアルより結構ハードル低いんだよ。
ともすれば、付き合ってもないのにやる事やって、翌日には全て忘れ去ってるケースも★の数ほどある。
事実、今回やらかした私にしたって、現実の身体は処女のままだ。
昔みたいに、結婚して責任取るとか、そんな重い意味合いもない。
勿論、女としては、自分の尻がそんな軽いものでもない、最低限度の矜持もあるにはあるけど。
第一、これだけでロマンスシステムの優遇が受けられるなら、売春婦みたいな奴が最強になってしまう、末法の世界だ。
“これ”はあくまで、AIにとっての判定手段の一つに過ぎない。
それと何よりも。
行為の終始、私のコトをまるで壊れ物のように慎重に扱う彼の一面を、この特等席で見られたのが一番の収穫だったよ。
これまで散々、銃で蜂の巣にされたり、魔法で真っ黒焦げにされたりって惨死を共にして来て、何を今更って話だよ。
明日から、思い出し笑いを堪えるのが大変そうだ。
……色々と連ねたけど。
どうして、私だったんだろうね。
それがわからない。
ある意味、
ゲーム4タイトル分を共に戦ってきた。
一番、連携が取りやすい人材だったというのが有力かな?
ロマンスシステムで作ったスキルは、当事者二人で発動すると言う前提がある。自然、どんな内容のものを作るにしろ、お互いの息を合わせないといけないものばかりになるだろう。
まあ、あとは、くっついてうたた寝しながら、結果発表を待つ。
【システム:
ホーホー、ホッホー。
ホーホー、ホッホー。
ホーホー、ホッホー。
ホーホー、ホー……。
窓の外から、朝チュンならぬ朝キジバトの鳴き声がする。
結構、最近になるまで、毎朝聴かされるコレの正体を知らなかったんだけどさ。
なんか「そう言うバイトが存在する」とか、馬鹿げた戯れ言を見た事すらある。
あと、この、途中で力尽きたかのようなのは、何なんだろうね?
……キジバトについては、まあどうでもいいよ。
私は、彼の胸板に顔を埋めた。
そう言えば、こうして誰かの素肌に触れるのっていつぶりだろう?
この感触がVRの見せる幻だなんて、ちょっと信じられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます