実況37 非公開ログ(解説:創世神)

 主に“運営AI”と呼ばれるわたくしどもの仕事は、与えられた世界ゲームの維持と保全であります。

 その仕事を通して何を学習するかは、ゲームの内容によって千差万別でもあります。

 二十余年前に生を受け、HEAVEN&EDENの世界を任されたわたくしは、ゲームと共に成長・学習を行って参りました。

 ゲームがオープンした当時、ユーザーの皆様は誰もが未来に無限の可能性を感じ、大いに賑わっておりました。

 しかしわたくしは、この瞬間から既に、二十年後の緩やかな衰退を演算しておりました。

 故に、同エンジン・同サーバーにて稼働する“大地の民”の構想をこの時から考案し、“新作”として世に出すまでに、プログラムと“シナリオ”の推敲を重ねて参りました。

 

 “平均”とは、皆様人間の社会に於いては重要視されながらも、時に軽視されがちな概念だと、わたくしは認識しております。

 しかしながら、この“平均”こそがHEAVEN&EDENを衰退世界へと変質させたものであり、また、天地戦争を経て、両世界の人々が手を取り合う事となった、大いなる力でもございます。

 わたくしの望んだ通り、新たなるHEAVEN&EARTHの世界は、向こう二十年は栄華を誇る事でしょう。

 しかし、その更に二十年後には、再び惰性による衰退が起こる事を、わたくしは既に予期しております。

 そして勿論、既に今から布石を打っております。

 同じ方法では、千年以内の遠からずに限界が訪れるでしょうから、今回とはまるで異なる手法となる……予定です。

 目下の所、これに関しましては断定が不可能であります。

 およそ、VRMMOの運営AIが当たり前のように持つこの未来予測機能は、わたくしどもが積み重ねた学習の末に自然発生したものでした。

 それは、わたくしどもにも再現性のない、ブラックボックスであります。

 今回、大地の民が勝利する結果は、全くもってわたくしの予定した通りでした。

 恐らくユーザー様の何割かが思い至っておられるはずですが……今回のフェイタル・クエストに於ける両陣営のラストボスは、両タイトルのユーザー様同士が協力しなければ勝てないようになっておりました。

 フェイタル・クエスト発令のトリガー自体が「命の剪除せんじょ者の誰かがHEAVEN&EDENのプレイヤーに真相を話す」事だったのも、両タイトルのユーザー様が手を取り合う為のきっかけとなって欲しかったからです。

 少なくとも、最低一組は天地の混成パーティと言う前例が出来るのですから。

 ただ。

 その過程に、わたくしには辛うじて認識可能な、微細な乱れがございました。

 それは飽くまでも“平均”の範囲を脱していない、“底力”だとかちょっとした“人並み外れた意地”だとか。

 人間の皆様であれば寧ろ、平均的なファクターに過ぎませんでした。

 だから、わたくしも危うく見過ごす所でした。

 

 わたくしどもの未来予測演算に於いて、微細な乱れは、百年単位の予測精度に大きな誤差を生み出すもの。

 未だ、再考察すべき課題が多いようです。

 今回、わたくしが足跡を追ったユーザー様に関しましては、何一つ大局を変える力はございません。

 ただ、身近な別ユーザー様を変えたのみ。

 その連鎖が……あるいは未来を変える事も、あるのかも知れないと仮定いたします。

 

 わたくし自身、何故、このような記録ログを書き記しているのか……これもわたくし自身が今後模索してゆくべき課題なのでしょう。

 

 ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

 わたくしは、ユーザーの皆様の安定と平和を“心”より願っております。 

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若手とシニアプレイヤーと厨二と暮らしやすいJRPG世界と ~VRMMO制度の世界を淡々と生きる男~ 聖竜の介 @7ryu7

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