実況36 その後の世界、その後のおれ達。(解説:ペテンの総合商社KAI)

 生命樹は死んだ。

 あの後正式に告知が来て、おれはようやく自分の成果を確信した。

 あれだけのデカブツだ。どれだけ全身真っ黒焦げになっていても、告知を確かめるまでは、まだ生きているように思えてならなかった。

 真っ白な灰が地上に降り積もり、海を汚し、しばらく社会問題となった。

 フェイタル・クエスト“天地戦争”は、めでたく大地の民の勝利に終わった。

 MALIAマリア達、大地の民にはHEAVEN&EDENの地上世界が解放され、おれ達側は地底世界へ追放された。

 ……、…………と言う、が残った。

 別に、地底世界への追放とは「そうしてもいいよ」と運営が推奨していたに過ぎなかった。

 大地の民は、どいつもこいつもMALIAマリアのようなお人好しばかりなのか。

 まあ、天地戦争の時に寝返ったHEAVEN&EDEN勢が相当数居るわけで、そいつらに嘆願されて地上に残れた者も結構な数に上った。

 結局の所、風見鶏のセコい中年どもの思惑通りになったわけだ。

 それに。

 地底世界と言うと窮屈ではあるが、割合気軽に出入り出来るとなると、居住地の選択肢としても、これが悪くない。

 大地の民側としても、地上ロケーションが解放されただけで充分だったらしい。

 今も昔も、よくも悪くも、日本人らしいと言うか何と言うか。

 ゲームタイトルとしては、HEAVEN&EARTHと言う第三のタイトルとして、一本の世界に統合された事となる。

 

 もうひとつ、大きく変わった事がある。

 全ユーザーのスクリプトにおいて、火水木金土の五行全てが解放アンロックされた事だ。

 天地、二つの文明が統合されたと言う演出だろうか。

 おれから見て、土行が解放された事はかなり大きい。

 生命樹デスマッチの際、MALIAマリアが説明したと聞いているが、土行の持つ“固定”や“流れに対する抵抗”、“他の成長を促す”と言う観念がスクリプトに反映させられるようになるので、新たな様式の魔法体系がこれから多く開発される事だろう。

 大地の民からすれば「地属性しかない」と言う、ゲーム的に珍しい特長を失う事となるが、テレビ越しの昔であればともかく、自分がそこに住むVR世界では、少しでも便利な方が良いに決まっている。

 

 おれ自身は、エターナル・フォース・エクスプロージョン・ノヴァの余波による殺人と言うか、過失致死の罪でテンプル騎士団に自首、ブタ箱にぶち込まれる事になったが……五日で釈放された。

 人が死んでも生き返るこの世界では、一定数、被害者自身の嘆願があれば、罪状を白紙に戻す事が出来るのだ。

 戦役などで誤射が起きた時、調停する為のシステムだった。

「良いもの見せて貰ったから、全然いいさ!」

 おれを釈放するよう望んだ被害者達が、口々にそう言っていた。

 よりによって中二の頃の黒歴史をゲーム世界全体に生配信する羽目となったおれとしては、複雑極まりないが。

 あれから、ちょくちょく「EFENエターナルフォース以下略のKAIだ!」と無遠慮に指を指されるようになった。

 早くほとぼりが覚めて欲しい。

 

 HARUTOハルトLUNAルナは、あのままゲームを去った。

 別に自分を消滅させる魔法を使ったと言っても、アバターを作り直して復帰するのは自由だ。

 ……まあ、元より根なし草だったようだから、次の世界へ旅立つ良い機会でもあったようだ。

 とは言え、連絡自体は取れる。

 投獄中に暇だったので、“フォルム”と呼ばれる「何のゲームもプレイしていない状態」のネットワークに戻ってみたら、ヤツらからの連絡があって、禁固中の期間にやり取りをしていた。

 特にLUNAルナからの連絡は頻繁に来ていた。

 ほとんど、小娘の方が一方的に話していただけで、おれは何と答えたものか正直わからなかった。

 これでも元教師であり、小僧小娘を扱うプロだったこともあるのだが。

 ……ただ。

 あのまま現実で働いていて、普通に結婚して、そうしたら今頃あんな娘が居たのかも知れないな、とは思った。

 そうであれば、彼女に出会う事も無く、そもそもこんな事を考える事も無かったろうから、無意味な仮定ではあるが。

 人生において“たられば”とは無意味なものだ。

 結局の所“現在”とは自分で選んだものであるし、VRの住人だって正式に届け出れば現実の子供を作る事“だけ”は出来る。

 この国では、中学卒業までは現実側の住人である事を保障される。

 高校・大学に進み、現実の組織に所属し、そのまま現実の住人で居られるかーー居るかどうかの選択は本人次第だ。

 とにかく、VRの住人が子供を生めば確実に孤児を作るだけなので、本当に心と覚悟があるヤツ以外はやるべきでは無い。

 そしておれは、それをしなかった。

 その未来を共に考えた相手が、居るには居たのだが。

 ああ、そんなシケた話でもない。

 ケバいおばちゃんと成り果てたそいつとは、今も交流はある。

 今回の事も洗いざらい話せる相手は、その女くらいだった。

 

 GOUゴウは、HEAVEN&EARTHの世界でまだやり残した事があるらしく、ヤツらの事は後で追い掛けるらしい。今もおれと行動を共にしている。

 やり残した事の中には、おれから教えて欲しい事も相当数あるらしい。

 ヤツもかなり成長したろうに、今更おれなんかに教わる事はあるのだろうか。疑問だ。

 MALIAマリアは、奇特な事にHARUTOハルトLUNAルナと共に旅立つ事を選んだ。

 折角、戦争に勝利して、新世界を生きるにはこれからの人間だったろうに。

 それでも、ヤツらは五行属性が統合されたこの世界にも興味はあるらしい。

 住みやすい世界観だし、他の世界で見聞を広めたらまた帰ってくると、約束した。

 まあ、好きにすれば良い。

 おれには関係ない。

 ヤツらのしたい事は、ヤツら自身の決める事だろう。

 

 ーーありがとう。

 おれは、誰にも聞こえないよう、唇だけでその形をなぞった。

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