実況06 HARUTOの逆張りをするには(解説:鞭騎士INA)
“天の奇跡”を発見、魔法として人類に普及させた始祖・グラント姉弟。
その二人と“四天王”と呼ばれる弟子たちが建国した……と言う設定のシュヴァン教国。
あたしは、そこのテンプル騎士団に入った。
もちろん、前ゲームからの永遠のライバルであるあの男ーー
まず、テンプル騎士団とは何か? から説明する。
簡単に言えばゲーム側が運営する、公的な警察機関だ。
そして合法的に対人戦をするためのシステムとも言える。
この世界には、教国が(一方的にだが)所有権を主張する遺跡が無数に存在する。
レアアイテムが
テンプル騎士団は、そんな遺跡荒らしどもを取り締まる。
だから、あえて対人戦目的で遺跡に挑戦する冒険者も相当数いた。
そしてこの騎士団、“従士”として最低限度のNPCを部下として与えられる。
……外で嫌われて、どこのパーティにも入れない者の受け皿でもあった。
ちょうどあたしのように、つい最近まで、世紀末で強盗行為を働くようなゲームをしていたような、はみ出し者の。
実際、テンプル騎士団のプレイヤー連中は、ガラが悪かったりコミュ障なやつが多い。
あたしも何度か強引に言い寄られそうになったけど、大抵、前ゲームからの相棒である
体制側のテンプル騎士団がチンピラやサイコキラーまがいの吹き溜まりで、遺跡荒らしどもが品行方正と言うのも皮肉な話だと思う。
運営AIにゲーム生成を任せると度々ありがちな、ブラックジョークなのかも知れない。
まあそもそも、あたし自身も並大抵の男どもより身体能力が高い自負はある。
仕事で成果を出せば、あたしより弱い連中に関してはナメた態度を取る事は無くなった。
実の所、あたしは前のゲームで【鞭の天才】と言うユニーク・スキルを手に入れていた。
端的に言えば、鞭や鎖、時には電気ケーブルのようなものを武器とした際に筋力や反射神経が常人の数倍になるスキルだった。
勿論、現実のあたしは貧弱そのものであり、VRMMOの外見や初期能力は現実の肉体をベースに計算されている。
しかし、そのスキルによって身体から生じる、あらゆる力学的な“ステータス”が優遇される。
それを足掛かりに戦い続けた事で、アバターとしてのVR肉体も鍛えられて行った。
まあ、そのどちらも、ゲームを移住した事でリセットされてしまったけれど。
そう。ユニーク・スキルはそのゲーム限りの特権だ。
他のゲームでは使えない。
だから今のあたしは、スキル的にも、物理演算的にも、何のアドバンテージも無い凡人だ。
けれど、あの世界で鞭使いの超人として立ち回った経験は、ある程度身体に染み付いてもいた。
ユニーク・スキルをきっかけに、鞭を勉強し続けたのも結果的によかった。
一つのゲームを辞めて、アバターやアイテムが無くなっても、自分自身が得た経験は決して無くならない。
これも“彼”が……“彼ら彼女ら”が教えてくれた事だった。
“鞭”はあたしから失われたのではなく、あたしの中に還って一つになったのだ、と最近思いつつある。
……
あー、恥ずかし。
さて、あたしは騎士団の詰所のホールにある、大きな
ここで、現在荒らされている遺跡の一覧が見られる。
ゴルフだとか麻雀だとかのネットゲームでよくある、プレイヤー同士のマッチングを待つ、待合室のようなものだ。
尤も、この場合、マッチングを望んでいるのはあたし達テンプル騎士団側か、冒険者の中でも人間と殺し合いたがる変態だけではあるが。
そして、情報をソートして、なるべくここから近い遺跡をサーチ。
ゲームバランスのためか、入場定員は、騎士団・冒険者双方とも1パーティずつだ。
一件、条件に合う遺跡がヒットした。
……カ=ギシ遺跡、か。
ちょうどあいつが居る可能性が高い。
確か、サバト跡地の奪回クエストをやると言っていたし、ターゲットの競合種があの程度の雑魚であるなら、余力もある筈。
その足でついでに遺跡を攻略する事もあり得るだろう。
何で知っているかって?
普通に、本人とは連絡を取り合っているし、たまにご飯を食べに行く事もあるから。
向こうも向こうで、自分の手の内を隠す気が更々無いらしい。
まだまだ、ナメられている。
まだまだ、目標には遠い。
まあ、彼は不倶戴天の宿敵だけど、決して嫌いなわけではない。
死んでも生き返る、ゲーム世界ならではの関係性、かも知れない。
スポーツのライバル選手みたいな。
とにかく、この騎士団のホールから、現地へテレポートが出来る。
あたしは、早速カ=ギシ遺跡へと跳んだ。
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