実況25 ウロボロス殺し(解説:LUNA)

 私達が出口に使おうとしていたグラウンドポイントに、敵襲があったらしい。

 こちら側の他パーティが、何だか揉めているようだ。

「敵は“ウロボロス”だ!」

 あっ、その名前、聞いた事ある!

 本人達が名乗ってるわけではなく、自然とそう言う“異名”がついたーーつまり、それだけ強烈な何かを持つパーティと言う事だ。

「どのパーティが行く?」

 また、別のパーティから声がした。

 さっさと率先して行かないあたり、誰かに行って欲しい本音が駄々漏れだ。

 グラウンドポイント戦は、双方1パーティずつの決闘になる。

 もし、このまま、どのパーティともマッチングしなかったら向こう側の不戦勝となって、この近辺を制圧されてしまう。

「……我々が行こう」

 HARUTOハルトがフラットな声音でそっけなく名乗り出ると、私達も彼に続いて目の前の大きな浮遊岩に乗った。

 グラウンドポイントの足場となる浮遊岩にも色々あって、ここのものは随分、大粒だ。

 それにしても。

 ウロボロスって異名で怖れられているパーティだよ。

 内容はさておき、俄然、楽しみになってきた!

 シチュエーション的な意味で、だけど。

 

 上から降りて来た連中と対面。

 男が三人。何らかの魔法系が二人に、携行バリスタを持ったいしゆみ使いが一人。

 女が二人。中東の湾曲剣ショーテルを持った剣士、両手に鉤爪を装備したのが一人。

 計五人。人数で言えば、こちらとイーブン。

 詳しくは省くけど、皆、何だかファッションショーに出てきそうな奇抜な格好をしている。

 髪の色も、赤、青、緑、黄色、銀と、誰一人同じ色が居ない。

 まあ別に、今から殺り合う相手の外見なんて、体格と武器さえ理解できれば問題ない。

 戦闘開始だ。

 

★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO リィンカーネーション(★9)

LUNA  

GOU   消える魔弓(★1)

KAI    戦う

MALIA  戦う

 

 ーー我等が魂魄、現世うつしよに繋ぎ止めん。

 ーー我が新創せし秩序、何者も揺るがす事能わず。

 

 ーーリィンカーネーション。

 

 ……って実際に唱えた訳ではないけど、そう言う“設定”なので各自で脳内変換よろしく。

 それで。

 雪のように白い光の粒が大小・無数、螺旋を描きながら落ちてきて。

 私達の中に消えた。

 これで自動蘇生の効果が付与された、筈だ。

 こちらのGOUゴウが、透明化した大弓で、ウロボロスとやらの弩使いに先手を撃った。

 躱されたけど、お陰であちらのバリスタボルトも私達に向く事は無かった。

 本当はその隣の魔術師風を狙いたかっただろうが、このターン、ロマンススキルの発動が何より最優先だった。

 そしてそれは、どうやら先方も同じだったらしい。

 魔術師風の男が二人、手を取り合って、高らかに叫んだ。

【エンド・オブ・アース】

 ただただ、色の無い光の暴力。

 それを認識した瞬間、私の全身から感覚が消えた。

 一撃で消し飛んだんだ。

 私達、パーティ全員が。

 呆気ない全滅だった。

 けれど。

 すぐさま、全身が組み建て直されるように復元されたのを感じた。

 リィンカーネーションは、私達が設計した通りに問題なく作動したようだ。

 状況は、振り出しに戻っていた。

 幸い、浮遊岩に被害はほとんど無い。

 生物のみを吹き飛ばす光波ってトコか。

 後でリスポーンするとは言え、足場を壊してしまうとウロボロスの連中としても都合が悪いだろうし。

 それで、二人で技名だけ唱えれば問答無用で相手が死ぬ光魔法。

 どストレートな効果。

 典型的な、ロマンススキルだ。

 魔術師風の男が二人、隣接していた時点で想像はついた。

 前にも話したけど、同性愛も昔ほどマイノリティでは無いのだから。

 あっちもあっちで、消し飛ばした筈の相手がことごとく生き返った事に、若干は戸惑った様子だ。

 大体、ロマンス無しのパーティであれば、この一手で決着がついていたのだろう。

 しかし、次はどうするか。

 このままリィンカーネーションをかけ直しても同じ事の繰り返しだけど。

 私は、HARUTOハルトを見た。

 彼は、目線だけで答えた。

 ーーうん。分かったよ。

 こちらの前衛三人が、敵前衛の二人へ向かって距離を詰める。

 次のターンまで状況は膠着するだろう。

 あとは、あちらの魔術師をGOUゴウがいかに仕留めるかに懸かっている。 


 ★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO アルス・マグナ(★9)

LUNA  

GOU   消える魔弓(★1)

KAI    戦う

MALIA  戦う

 

 GOUゴウの不可視の大矢が、男魔術師二人の仲を物理的に引き裂いた。

 丁度、彼らの中心を狙った一矢だ。ナイス。

 魔術師二人は、明らかに怯んだ様子だ。

 GOUゴウが立て続けに、何のスキルでもない、普通の射撃をする。

 やはり、最初の消える魔弓がどちらを狙っていたのかが判然としないプレッシャーはそれなりらしく、魔術師二人は大袈裟に逃げ惑った。

 恐らく、彼らのトリガーアクションは、二人で手を繋がなければいけないのだろう。

 恐らくは、確実に二人の息を合わせるため。

 私達はアイコンタクトだけで事足りているので、その発想は無かったんだけど。

 とにかく、そうと分かれば彼らを近付けさせないよう、追い立てるに限る。

 そして。

 

 男魔術師の片割れ(ここではBとする)が、今度は弩使いと手を取り合った。

 まるで、恋人繋ぎそのものだ。

 

 ちょ、魔術師Bさん! かっ、彼氏の前で、堂々と、他の男と何してるの!?

 あんな事したら、ロマンス関係が一発で壊れてしまーー。

 

【ゴルゴー・ステップ】

 

 繋いだ手を通して魔術師Bから光るエネルギーっぽいものを注入されてから、弩使いは改めて私達へそれを向けた。

 派手な音を立てて、バリスタの矢が発射。

 それは浮遊岩に突き立てられると、次瞬、ひとりでに砕け散って破片を撒き散らす。

 私は辛うじて難を逃れた。

 KAIカイMALIAマリアも無事。

 GOUゴウには命中したものの、着込んでいるゴーレムに弾かれて、恐らくはノーダメージ。

 散弾のようにばらまいたつもりだろうけど、威力は相当減衰しているようだ。

 そして。

 HARUTOハルトの脇腹を、破片が掠めたらしい。

 けれど、傷は深くない。隙を見て、汎回復でもすればーー、

 

「……後は、任せた」

 

 突然、そんな事を言った。

 えっ、どういうコト? あんな掠り傷で、今さら大袈裟すぎない?

 いや、私も私で雑念を捨てなければ。

 アルス・マグナを紡ぐには、彼と私の息が合っていないと、★だけを消耗して不発に終わる。

 そして。

 何だか、見る見る苦しそうになった彼が、辛うじてと言う様子で、アルス・マグナを完成させた。

 色んな色の魔法光が私達を照らし、五感を強烈に増強したのが分かった。

 予定通りの筈だ。

「ねえ、一体、どうーー」

 私が問い掛けようとして、

 無意味だと分かった。

 彼は、最前、私が見た姿勢のまま、ピタリと停滞していた。

 触ると、いやにスベスベした感触がした。体温が無くて冷たい。

 ーー石化、か。

 竜肉だとかヨルムンガンドだとか、架空の食べ物も作り放題なら、石化のような架空の病気も作り放題。

 それが、現代のVR技術だった。

 恐らくウロボロスの連中は、次も私達がリィンカーネーションを張るものだと読んだのだろう。

 殺しても即、生き返るのであれば、術者の片割れを石化させてしまえば良い。

 その読みは、結果的には外れた。

 けど、結果的に、私達にとっては最悪の事態だ。

 仮に、石化矢に当たったのが私だったら、まだマシだった。

 パーティで唯一石化を治し得るHARUTOハルトそのものが石化してしまっては、この戦闘で彼を復帰させる手だてが無い。

 GOUゴウが、技を出した直後の弩使いを、大弓で射殺していた。

 奴は捨てられた人形のように後ろ手に吹っ飛ぶと、浮遊岩から墜落した。

 けど恐らく、奴らからすれば想定内の事だろう。

 こちらの、ロマンススキルを封じる為の、計画的な犠牲である筈だ。

 そして今度は、魔術師Aと、後方に退避した鉤爪女とが手を取り合った。

【祈りの渇き】

 何か、魔法によって生じた副次的な強風が、私達を生ぬるく打って、


☆☆☆☆☆☆☆

 

 私達のコスト最大値が7に引き下げられた。

 ★をコントロールするスキルもまた、通常では叶わない。

 ロマンススキルでのみ許される、禁術だった。

 そうか。

 だから、パーティの異名が“ウロボロス”だったんだ。

 あのパーティは、非独占の恋愛ーー多対多のロマンス関係を矛盾無く成立させている。そしてそれを、運営AIに認めさせたんだ。

 だから恐らく、一人一人がパーティ内の誰とでもロマンススキルを使える。

 複数性愛ポリアモリーのパーティなんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る